episode34:前夜の静けさ
「ふぅー長旅だったな」
二日かけて、入学式前日の早朝に到着した。
アルゼ様は、長旅が終わって気分爽快!みたいな顔してるけど─
「アルゼ様、昨晩めちゃくちゃイビキすごかったです……」
私は寝不足だった。
「うおっ、まじか。すまん」
「まぁ、いいですけど」
私は荷物を部屋に運び入れる。
「アルゼ様ー。私先にシャワー浴びてきてもいいですかー?」
「おーう」
一階に下りてシャワーを浴びる。
しばらく入れてなかったので久しぶりのシャワーは、気持ちよかった。体の汚れとともに、疲れが洗い流されていく。
明日は入学式か……
夢が一つ叶ったものの、なかなか実感が湧かない。
……楽しみだな。
湯気の中で私は明日のことを考えるのだった。
夜になり、荷物の確認をしていると、下から私を呼ぶ声が聞こえた。一階におりると、白い箱を抱えたアルゼ様が座って待っていた。
「あれ、なんですか?その荷物」
「荷物ってかチビの制服だよ」
「えっ!!」
私は受け取って開けてみる。中には、紺色のローブとスカート、シャツが入っていた。
そういえば、合格発表の日、採寸しに行ったのだった。
「うわぁ、届いてたんですね」
「良かったな」
「ありがとうございます!」
早速ローブを羽織ってみる。
「どうですか!」
「んまあ、いいんじゃねえの?」
「えへへ」
クルクル回っていると、アルゼ様が「それにしても」と呟いた。
「チビとしばらく会えないのかぁ」
「長期休暇には戻ってきますよ」
「長期休暇までは会えないのかぁ」
アルゼ様って意外と寂しがり屋よね。
「寂しいからって、学園に遊びに来ないでくださいね」
そう冗談で言ったのだが、アルゼ様はキョトンとした。
「え?会いに行っちゃダメなの?」
「ダメです!捕まりますよ!」
余計にズーンと落ち込むアルゼ様。
「俺様、一人で生活できるんかな…」
「というか、今まで一人で暮らしてたんでしょう?」
そう言うと、アルゼ様は目を伏せた。
「チビがいるのが当たり前になっちゃって、いない生活が考えられない……」
「そんな大げさな……」
とか言いながら、私も胸の中は不安でいっぱいだった。明日から始まる生活を思うと、今日は簡単には眠れそうにない。
「まぁ、ずっと離れるわけじゃないしな。一時間で学園に行けるし!」
「そうですよ。近いんだからすぐ会えます」
「だよな!それで、荷物は大丈夫か?」
その質問に私はローブを畳みながら答える。
「ええ、制服も準備できましたし、大丈夫かと」
「明日って弁当いるっけ?」
私は予想外の事を聞かれ、目をぱちぱちさせる。
「アルゼ様。明日から寮生活ですよ?」
「あっ、すまんすまん」
大丈夫か、この人……
「木刀とかもってくか?その……防犯で」
「結構です」
ダメだ、過保護すぎておかしくなってる。
「とりあえず、荷物は大丈夫ですので!」
「そ、そうか」
「今日は早めに寝るのでおやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
私は制服を片手に、アルゼ様に挨拶をすると、自室へ戻った。
制服を丁寧に畳んで机の上に置き、ベッドに腰掛ける。
明日、これを着て学園へ行くのだと思うと、胸の奥がそわそわした。
そんな中、ふとカインの顔が頭に浮かぶ。
もし、レーゲルトでの生活が続いていたなら、明日一緒に学園へ向かっていたのだろうか。
答えの出ない想像に、私は小さく息を吐く。
……こんなこと考えても仕方ない。
そう思いながら、私は布団に身を沈め、目を閉じた。




