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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第二章:紡がれる願い
33/43

episode33:温もりに包まれて

「ここが……」

「おう、やっと着いたな」


ケイペルの首都に着き、30分ほど歩いてようやく目的地に辿り着いた。目の前には、一軒の赤い屋根の家が建っている。


「じゃあ、行きますか」


チャイムに手を伸ばそうとすると、アルゼ様に腕を掴まれた。


「ちょっと待て」

「……なんですか」

「なんて言うか、まだ考えてない!」


そう言われて呆れてしまう。


「ここまで来たんだから、腹くくってくださいよ」

「腹はくくれないぞ」

「意味分かるでしょ」 

「すまん、三分!三分考える時間をくれ」

「三分も待てません!私はイアンさんに早く会いたいんです」


言い合いをしていると─


「あれ、うちになにか御用ですか?」


後ろから声が掛かった。振り向くと、バスケットを持った美しい女性が立っていた。


「どうぞー」

「お邪魔します」


イアンさんに会いにきたと伝えると、彼女は快く中に入れてくれた。

彼女はイアンさんの娘さんのようで、名前をサントレアと名乗ってくれた。


「私はルウラと言います。こちらは……」

「あの……アルゼと申します」


すると、サントレアさんはニコッと笑った。


「あなた達がそうなのね!」


ん?そうとは……?


「よく母からお話聞いてました。母はこちらです」


部屋に案内してもらう。

部屋に入ると、イアンさんが椅子に座って本を読んでいた。


「お母さん、お客様よ」

「ん?誰だい?」


イアンさんは、こちらに視線を送る。すると、私たちに気付き、驚いたような表情をした。


「ルウラちゃんとアルゼじゃないか!」

「お久しぶりです!」

「お久しぶりです……」

「久しぶりだねぇ!」

「あの、イアンさん」


再会の感動より、怪我の心配が先に来て尋ねる。


「お怪我は大丈夫ですか……?」


見た感じでは、足を固定してはいないけど……


すると、イアンさんは足に視線を向けた。


「あぁ、心配かけてごめんね。完治はまだだけど、もう歩けるよ」

「よかった……」


私はホッと息をつく。


「それでこんな遠いところまで来て、どしたんだい?」

「イアンさんにご報告があるんですけど……それより先にアルゼ様がお話したいことがあるそうなので」


後ろに立っているアルゼ様を、前に押し出す。


「い、いや俺様は……!」

「アルゼが?なんだい?」


なかなか前に出ないアルゼ様の背中を叩き、喝を入れると、私とサントレアさんは空気を読んで部屋を出た。


「上手く話せるんですかね……」


心配そうな私を見て、サントレアさんはぷっと吹き出した。


「ルウラちゃん、アルゼさんのお母さんみたいね」

「え……そう見えます?」

「ええ」


ニコニコと微笑んでいるサントレアさん。


……確かに、最近お母さんじみてきたんだよなぁ。

 

「二人の話が終わるまで、紅茶飲んで待ってましょ!」


私は手を引かれ、紅茶を頂くことになった。


「召し上がれ」

「ありがとうございます!」


サントレアさんが用意してくれた紅茶と、お菓子の前に座る。香ばしい紅茶の香りが部屋中に広がった。


「そういえば、ルウラちゃんって何歳なの?」

「15歳です」

「わあ、若いわねぇ」


フワリと笑うサントレアさん。


「15歳なのにしっかりしてるのね。私その頃、外で走り回ってたわよ」

「走り回る……?」


大人っぽくて上品なサントレアさんが、外を走り回る想像ができない……


「サントレアさんって大人っぽいですよね」

「そう……なのかな?」


自覚がないようでサントレアさんは、首を傾げる。


「私も大人っぽい女性になりたいなぁ……」


つい本音が漏れ出てしまう。すると、サントレアさんはクスッと笑った。


「可愛くいられるのは今のうちよ?」

「でも、早く大人になりたいんです」 

「そうよねぇ。私もそう思ってたな」

「ですよね!アルゼ様に言ったらバカにされるんですけどね」


たわいもない話をしながら、私は紅茶を口に運ぶ。

初対面なのにも関わらず、話が盛り上がった。

数十分後、部屋のドアが開いて、イアンさんとアルゼ様が顔を出す。


「待たせたねぇ!」


なにやら嬉しそうなイアンさんと、照れて顔を赤くしているアルゼ様。

この様子から、ちゃんと話せたんだなと安心する。


「お母さんとアルゼさん。今紅茶入れるから座ってて!」

「助かるよ」

「……ありがとうございます」


サントレアさんがキッチンに立ち、二人が椅子に座る。


「そういえば、ルウラちゃん。なにか報告があるって言ってたね」

「あ、そうなんです!」


私は紅茶の入ったカップを置いて息をつくと、口を開いた。


「私、ヴェルディア学園に無事合格しました!」

「すごいじゃないか!!」

「すごい!!ルウラちゃん、おめでとう!!」


すぐにイアンさんと、サントレアさんが祝ってくれた。そしてサントレアさんが、出かける支度をし出す。


「お母さん、私ケーキ買ってくるよ!」

「お願いしてもいいかい?」

「ええ!」


困った。ケーキを用意してもらう展開になってきてるぞ。


「あの、アルゼ様にたらふく食べさせてもらったのでお構いなく……」

「じゃあ、夜ご飯はご馳走ね!」

「よっしゃ!」


はしゃいでいる二人を横目に、私はアルゼ様に耳打ちする。


「え、アルゼ様。これって今日泊まる感じですか……?」

「帰るつもりだが……」

「ですよね」


ヴェルディア学園の入学式まであと四日。そしてすぐに寮生活が始まる。準備もあまりできていないので、泊まってしまうとギリギリになってしまう。


「申し訳ないんですけど、今日帰ります……」

「え……?」

「泊まるんじゃないのかい?」

「……入学式が四日後にありましてですね」


二人が寂しそうな顔で、こちらを見てくる。


「まあ、仕方ないよね。わざわざ来てくれてありがとうね」

「いえ、私が会いたかったので!」

「嬉しいねぇ。それにルウラちゃん。アルゼに喝を入れてくれて助かったよ」


ニコニコしながら、アルゼ様を見つめるイアンさん。「こっち見るんじゃねえよ……」と、アルゼ様は恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「夜ご飯は、軽くでもいいから食べて行きな!」


そこは甘えて、頂くことにした。



「……ごちそうさまでした」


軽くとか言ってたのに、豪華なディナーを頂いてしまった。

膨れたお腹をさすりながら、私は申し訳なくなる。


「ええっ、もう終わりかい?まだおかわりあるよ?」

「いえっ!もうお腹がはち切れそうなので!」

「チビは大げさだなぁ」


そう言って、ご飯をもう一杯おかわりしているアルゼ様。

……胃袋どうなってんだ。

私は息を吸う余裕もないほど膨らんだお腹を抑えて、フウと息をつく。

ごはんを食べ終わると、帰る支度を始めた。


「今日は、夜ご飯までありがとうございました!」

「お礼言うのは、こちらだよ。会いに来てくれた上に、久しぶりに賑やかで嬉しかったよ。」


またしばらく会えなくなるのか……。

私は寂しくなって、胸がジーンとしてしまう。


「しばらくは王都に戻らないから、また時間がある時に遊びに来てほしいな!」

「もちろんです!」

「あーまた来るわ」

「気をつけて帰るんだよー!」


それから私たちは、何度も頭を下げて家を後にした。

夜の首都は静かで、昼間より少し冷たい風が頬を撫でる。


「……楽しかったな」

「そうですね。あっという間でした」

「……チビ」

「なんですか?」

「……そのぉ」


なにか言いたげなアルゼ様。


「背中押してくれて助かった。チビがいなかったら、ちゃんとイアンと話せてなかったと思う……」


アルゼ様は、俯いてモゴモゴと話す。

なかなかこんな光景は見られないだろう。

私は微笑みながら、そんなアルゼ様を見つめる。


「えと、その……あ、ありがとう……」

「んふふ、いいんですよ」

「んもう、こっち見んなよぉ……」

「ここまで照れてるアルゼ様は、レアですからね」


ヴェルディア学園の入学式まで、あと四日。

私たちは温もりを胸に、再び帰路についた。

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