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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
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episode3:お嬢様と従者Ⅱ

誰かが手を握ってくれている。

この手はカイン?いや、もっと大きくてあったかい。


「お父様……」

「誰が旦那様ですか。」

「……ファリンネ」


眉をひそめたファリンネが私を見下ろしていた。


「あれ、何でここに?」

「カイン様が届けてくださいました。本当にルウお嬢様は全く心配かけますね。」

「ごめんなさい……」


落ち葉で滑って転げ落ちる人とかそんないないんじゃないかな……。


「カインは?」

「あなたを届けてくれた後、魔法の練習をしてくると出かけていきましたよ。」


するとファリンネは「あ」と声を出した。


「あの男とっつかまえて木につるしておきましたから。ご安心ください。」


ファリンネが腕まくりをして、無表情で言った。


「……ファリンネ」

「はい、何でしょうルウ様。」

「あなたちょっとっていうか結構怖いわ。」


……精霊とはいえ、こんな細い腕のどこにそんな力あるの。ファリンネ恐るべし!!


その日の夕方、助けてもらったことのお礼と、結局山頂まで行けなかったことを謝るため、カインにアップルパイを作った。

キッチンは料理担当の精霊ラミレスに貸してもらった。オーブンからアップルパイを取り出すと同時に甘い香りが漂ってくる。

思いのほか上出来!


「お上手ですね。」

「でしょ!私の得意料理なの!」

「それは カイン様にあげるものですよね。」

「そうよ。 悪い?」

「いえ。大きく作ったので奥様にあげたら喜ぶはずと思いまして。」

「そうね。そうしましょう!」


私はナイフで切って、二つの皿に移し替えた。


「アローニィ家の皆にも持っていこうかな。」


私はいそいそとバケットを取り出すと、余ったパイをそこに入れた。


「私はカインとアローニィ家の皆のところに持っていくから、これはお母様のところに持っていって。」


ズイッと押しつけるとラミレスは 無表情のまま言う。


「この後、夕食の支度をしなくてはなりません。」

「知ってるわよ。けど、あなたなら秒で行けるでしょう。飛んでホイッと。」


数秒睨んでいると、ラミレスが折れた。


「仕方ありませんね。今日の夕飯はピーマン多めですよ。」

「えっ、ちょっ!!」


私が声を掛ける前にラミレスは走り去った。私はため息をつくと、カインを探しに行った。だが、庭にもいない。

そういえば、ファリンネがカインが魔法の練習に行ったって言ってたな。

後で渡そうとキッチンに置いて、先にアローニィ家へと向かった。


「すみませーん!ルウラです!」

コンコンとドアをノックすると、杖をついた女性、シーアさんが顔を出した。


「あら、ルウラお嬢様。」

「こんにちは。アップルパイ作ったので良かったら食べてください!」

「わあ、おいしそうですね。わざわざありがとうございます。」

「あの、足の方は大丈夫ですか……?」


シーアさんは一週間前に足を怪我していた。


「ああ、これですね。杖あるんですけど、案外歩けるものなんですよ。」

「良かった……。あの、やっぱりカイン、家にいた方がいいのではないですか?」


15歳の娘さんが一緒に住んでると言っても、生活するのは大変だろう。

私はそのことについて心配していた。


「まあ、大丈夫ですわ。カインにはルウラお嬢様のお側にいていただかないと。」


「それに……」とシーアさんは続けた。


「あの子お嬢様といる時が一番楽しそうですの。」


嬉しそうに笑うシーアさんを見て、私は照れて俯きがちになる。


「あの子が少しでも自分のことを好きになれるように、これからも一緒にいてあげてくださいな。」


赤ん坊の時に捨てられていたカインをずっと育てているおばさん。カインの心情を分かっているから悲しそうに微笑んだ。


「もちろんです!」と、私は胸を張った。

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