episode3:お嬢様と従者Ⅱ
誰かが手を握ってくれている。
この手はカイン?いや、もっと大きくてあったかい。
「お父様……」
「誰が旦那様ですか。」
「……ファリンネ」
眉をひそめたファリンネが私を見下ろしていた。
「あれ、何でここに?」
「カイン様が届けてくださいました。本当にルウお嬢様は全く心配かけますね。」
「ごめんなさい……」
落ち葉で滑って転げ落ちる人とかそんないないんじゃないかな……。
「カインは?」
「あなたを届けてくれた後、魔法の練習をしてくると出かけていきましたよ。」
するとファリンネは「あ」と声を出した。
「あの男とっつかまえて木につるしておきましたから。ご安心ください。」
ファリンネが腕まくりをして、無表情で言った。
「……ファリンネ」
「はい、何でしょうルウ様。」
「あなたちょっとっていうか結構怖いわ。」
……精霊とはいえ、こんな細い腕のどこにそんな力あるの。ファリンネ恐るべし!!
その日の夕方、助けてもらったことのお礼と、結局山頂まで行けなかったことを謝るため、カインにアップルパイを作った。
キッチンは料理担当の精霊ラミレスに貸してもらった。オーブンからアップルパイを取り出すと同時に甘い香りが漂ってくる。
思いのほか上出来!
「お上手ですね。」
「でしょ!私の得意料理なの!」
「それは カイン様にあげるものですよね。」
「そうよ。 悪い?」
「いえ。大きく作ったので奥様にあげたら喜ぶはずと思いまして。」
「そうね。そうしましょう!」
私はナイフで切って、二つの皿に移し替えた。
「アローニィ家の皆にも持っていこうかな。」
私はいそいそとバケットを取り出すと、余ったパイをそこに入れた。
「私はカインとアローニィ家の皆のところに持っていくから、これはお母様のところに持っていって。」
ズイッと押しつけるとラミレスは 無表情のまま言う。
「この後、夕食の支度をしなくてはなりません。」
「知ってるわよ。けど、あなたなら秒で行けるでしょう。飛んでホイッと。」
数秒睨んでいると、ラミレスが折れた。
「仕方ありませんね。今日の夕飯はピーマン多めですよ。」
「えっ、ちょっ!!」
私が声を掛ける前にラミレスは走り去った。私はため息をつくと、カインを探しに行った。だが、庭にもいない。
そういえば、ファリンネがカインが魔法の練習に行ったって言ってたな。
後で渡そうとキッチンに置いて、先にアローニィ家へと向かった。
「すみませーん!ルウラです!」
コンコンとドアをノックすると、杖をついた女性、シーアさんが顔を出した。
「あら、ルウラお嬢様。」
「こんにちは。アップルパイ作ったので良かったら食べてください!」
「わあ、おいしそうですね。わざわざありがとうございます。」
「あの、足の方は大丈夫ですか……?」
シーアさんは一週間前に足を怪我していた。
「ああ、これですね。杖あるんですけど、案外歩けるものなんですよ。」
「良かった……。あの、やっぱりカイン、家にいた方がいいのではないですか?」
15歳の娘さんが一緒に住んでると言っても、生活するのは大変だろう。
私はそのことについて心配していた。
「まあ、大丈夫ですわ。カインにはルウラお嬢様のお側にいていただかないと。」
「それに……」とシーアさんは続けた。
「あの子お嬢様といる時が一番楽しそうですの。」
嬉しそうに笑うシーアさんを見て、私は照れて俯きがちになる。
「あの子が少しでも自分のことを好きになれるように、これからも一緒にいてあげてくださいな。」
赤ん坊の時に捨てられていたカインをずっと育てているおばさん。カインの心情を分かっているから悲しそうに微笑んだ。
「もちろんです!」と、私は胸を張った。




