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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第二章:紡がれる願い
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episode28:ヴェルディア入学試験Ⅱ

「今年度は、環境適応試験となります。」


違う部屋に連れていかれ、試験官から実技試験の説明を受ける。

どうやら今年は、変化する環境下で、魔法を正確に使えるかどうかを評価するようだ。

単なる力の強さではなく、判断力と応用力、魔法の操作力が大切になってくるだろう。


「この試験は五人一組で行います。」


そう言われて、事前に決められたグループに分かれる。


「では、地下へ移動します。」


試験を行う場所は、また別のよう。説明の後、私たちは地下の巨大な円形空間へと案内された。


「では、第一グループからこちらに来てください。」


どんどんグループが呼ばれ、光を帯びた半透明な結界の中で試験が行われる。

私のグループは十二グループ中、第九グループ。


「次、第九︎︎グループ来てください」


ついに私たちのグループも呼ばれ、結界の中に足を踏み入れる。中は可変環境領域展開となっていた。


……何が始まるんだろう。


心臓がバクバクしている。


「これより、実技試験─環境適応試験を開始します。」


試験官の声と同時に、足元の地面がざらりと音を立てる。次の瞬間、強い風が吹き抜け、視界の端に白い霧が立ち込めた。奥に丸い的が現れる。


……あれに攻撃を当てればいいのね。


私は状況を読み取る。

一定じゃない。風の向きも、強さも、常に変わっている。

私は小さく息を吸い、魔力の流れに意識を集中させる。


「凍てつく氷よ─」


詠唱を終えると同時に、氷の刃が生まれる。

けれど、そのまま放てば、風に煽られて軌道が逸れるのは分かっている。

周囲の受験生たちの動きも目に入る。みんな詠唱して、必死に挑んでいる。その光景を見て、自然と自分の力も奮い立つ。


─思い出せ、これまでの鍛錬を!


私は一拍置き、風の流れを読む。右から左、次の瞬間に逆流─今だ。

刃は風を裂き、揺れる的へと正確に突き刺さるかと思いきや─微かに横に外れた。


……どうして?タイミングは完璧だったはずなのに……。


もう一度タイミングを読み切って攻撃するも、なぜか不自然に攻撃がずれて外れる。試験の内容の一つではなさそうだ。


……もしかして。


私は周りの受験生をチラリと見る。皆的に当てられず、焦っているのが伝わる。すると─


パシッ……


的が割れる音がした。この中に一人だけ当てられている子がいる。


……あの子か。


一番端に、風系魔法を使う、ポニーテールをした黒髪の女の子がいる。その時、その女の子が私をチラリと見て、口の端を吊り上げた。


……器用な子ね。その力をもっと上手く活用すればいいのに。


他の受験生に影響を及ぼす行為は、本来許されていないはずだ。しかし、試験官は気付いていない。伝えようにも嘘だと思われたら嫌だ。


……いいわよ、やってやろうじゃないの。


環境が変化して、霧が一段と濃くなる。足元が濡れ、地面が滑りやすくなるのが分かる。

時間が過ぎていくが、まだ一枚も的を割れていない。

だが、不思議と焦りはなかった。


……大丈夫。今までの苦労は体が覚えている。


「凍てつく氷よ─」


もう一度同じ魔法を唱える。その攻撃は、的に当たる前に僅かにずれるが、


パシッ……


風に流される軌道を計算し、あえて遅らせて放った別の攻撃が的を貫いた。


よし、一枚目……。


また環境が変わり、障害物が出現して三枚の的が動き始める。

余裕がなくなったのか、妨害行為はなくなった。


これは、広範囲攻撃で一気に仕留める。


私は魔法を駆使して、必要最小限の力で対応した。

無駄な魔力を削ぎ落とし、確実に当てることだけに集中する。

これまでの鍛錬を思い出しながら─。


「そこまで!」


最後の課題を終えた瞬間、風が止み、霧が晴れた。


「……以上で、実技試験を終了します」


終わった……!


結界から出た途端に全身の力が抜け、心地よい疲労感と達成感に包まれた。


「チッ」


先ほどの女子に耳元で舌打ちをつかれる。しかし、私は気にせずに横を素通りした。


結果はまだ分からないけれど、今の自分が全力で挑んだ証が確かにここにある。胸の奥に、少しの誇らしさと、カインに会える未来への希望が湧き上がる。

試験が終わった今、私の一歩は確かに前に進んだ。


「これにて、ヴェルディア学園入学試験を終了します。お疲れ様でした。」


頭を下げる試験官に、礼を返すと会場を後にした。

学園の門を出ると、張り詰めていたものがふっと緩んだ。

夕飯はハンバーグ。

あの人が、きっと張り切って作ってくれているだろう。


「……ただいま、って言うのはまだ早いか」


そう呟いて、私は馬車乗り場へと歩き出した。

合格発表は、二週間後。合格するかなんて分からない。

でも今日だけは──三年間全力で頑張った自分を、少しだけ誇ってもいい気がした。

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