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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第二章:紡がれる願い
22/42

episode22:灯る居場所

街は歩いて15分ほど。屋台やお店が並ぶ通りが見えてきた。夕方だからか、多くの人で賑わっている。


「アルゼ様。パーティーと言っても、何を食べるんですか?」

「チビが食べたいものでいいぞ?」

「王都とレーゲルトって、大分食文化違うんですよね。食べたいもの、分かんないです。」


王都には様々な食べ物があり、レーゲルトにはなかったものや、見たことのない食べ物さえある。


「じゃあ、俺様セレクトで行くわ。」

「お任せします。」


そう言うと、アルゼ様はキョロキョロしながら進んでいく。すると、屋台のおじさんが声を掛けてきた。


「よぅ、アルゼじゃねぇか!お前もついに彼女ができたのか!」

「はぁ?何言ってんだ、じいさん。何で俺がこんな……」


私はそんなアルゼ様を、ジロっとみる。


「こんな……?」

「……まあ、そんな訳ねえからよぉ。変な噂流すんじゃないぞ!」

「ハッハッハ!若いってもんはいいなぁ!」


おじさん、絶対理解してない……。

しかし弁明しないまま、アルゼ様は、颯爽と歩いていく。しかしまたもや、


「アルゼー!その子誰だい?まさか……」

「ちげえよ!変なこと言うんじゃねぇぞ!」


数十歩進む度に、あちこちからアルゼ様に声が掛かる。


「……何でこんなに人気者なんですか?」

「んー、やっぱ俺様だから?」

「……」

「……嘘だよ。日頃から便利屋みたいなことしてんの。」


「チビも冷たくなったなぁ」とかボヤいているアルゼ様。

便利屋してるのね……

ずっと家に籠っているのでは、と思っていたことは秘密にしておこう。


「おっ」


通りを歩いていると、アルゼ様は小さく声を漏らし、立ち止まって辺りを見回した。

何か見つけたらしい。


「どうしたんですか?」

「ちょっと待ってろ。すぐ戻る」


軽く手をひらひらさせて、近くのお店に入っていく。

……え、ここで待つの?

人の波に流されないよう、私は店先の影に寄って立った。

さっきより人の声が近く聞こえて、なんだか落ち着かない。急に周りのざわめきが自分の方へ寄ってくる気がした。

こういう場所、あんまり慣れてないんだけど……。

少し身じろぎしたその時─


「お嬢さん」


背筋を撫でるような声がかかった。振り向くと、ガラの悪い集団に声を掛けられた。


「……なんですか?」


警戒して身構える。


「いやぁ、君めちゃ可愛いなと思って。一人?」


ニヤつきながら距離を詰めてくる。

……どうしよう。これ、一発やっちゃってもいい感じ?でもまだ何もされてないわよね……。

男が手を伸ばしてくる。その時─


「……お前ら何してんの?」


背後から影がすっと差して、声が落ちる。紙袋を持ったアルゼ様が現れた。


「ア、アルゼ……!」

「あれぇ、お前どっかで見たことあんな。」


アルゼ様が男の顔をしげしげと見つめる。男は顔を歪ませて、身を引く。


「うわっ、お前俺様が前にボコした奴じゃんかよ!またやられに来たのかよ!」


プッとアルゼ様は笑っているが、目が笑っていない。

……この人めちゃくちゃ怖いな。


「お、お前の連れだったのかよ……。」

「……失せろ」

「悪かった……!」

「謝罪はいいからとっとと失せろ」


魔力を含んだひんやりとした瞳に睨まれ、男たちはそそくさと去っていった。

男たちが見えなくなるのを確認すると、私はそっと息を吐いた。

アルゼ様がこちらに向き直る。


「悪かったなチビ。大丈夫か?」

「……はい。ありがとうございます。」

「串カツ買ってきたぜ。食うか?」


差し出された紙袋から、温かい匂いがふわりと上がる。

その匂いに、緊張で強ばっていた肩が少しだけほぐれた。


「……はい」


串カツを受け取りながら、ほっと小さく息をつく。

怖かった気持ちが、じんわり溶けていく感じがする。

串カツを受け取りながら、アルゼ様の顔をちらりとみる。殺気立ったオーラは、すっかりと消えていた。しかし、さっきの光景が胸に引っかかる。


「あの……さっきの人たちって」


恐る恐る尋ねてみると、串カツを頬張りながら「あー」と声を漏らす。


「すぐに手出すタチの悪い連中でな。俺様がちょっと前に教育してやったんだ。」

「教育……」

「別に殴るとかじゃねえぜ?まあ、嫌がらせみたいな?」

「……あーはい。分かりました」


なんかこれ以上聞かない方がいい気がする。

話を途切れさせて、私も串カツを頬張る。


「んっ、おいしい!」


思わず声を漏らすと、満足気にアルゼ様が笑う。


「じゃあ、食材買って帰るぞ。チビ、迷子になるなよ」

「なる訳ないです。……あ、ちょっと!」


アルゼ様が急加速して置いていかれる。

この人本当に26よね……?

私は呆れながら、そのあとを追った。


通りには串焼き、野菜、干し肉。特有の匂いが漂ってる。


「これ何ていう食材ですか?」


全てが目新しい私は、気になるものを見つけては、アルゼ様に尋ねる。


「知らん。んまあ、見た目美味そうだからスープにでも入れとくか」

「適当すぎる……」


よく分からない食材を購入しているアルゼ様。夜食がすごい心配だ。


「チビ。それと……これとこれ包んどけ」

「そんなに買うんですか?」

「買う気なかったけど、安くするって言うから買うわ」


手荷物がどんどん増えていく私。両手が袋で塞がり、すごく重い。

さすがに買いすぎでは……?


「チビ、なんでそんな持ち方してんだよ」

「重くて……」

「知らん。落としたら店に戻るからな」

「戻りたくないんですけど!」


そんなこと言っているが、私がふらついた瞬間、


「チビは筋肉ねぇなー」


とか文句言いながら、袋を全部ひったくる。


「……持てるなら最初から持ってくださいよ」

「これは、俺様なりの鍛錬だ」

「持ちたくないだけですよね……?」


プイッとそっぽを向くアルゼ様。

しかし、結果的には文句を言いながらも、全部持ってくれた。


「んじゃ、帰るかー」


買い物を満喫した私たちは、通りから離れる。


「変なものちょこちょこ買ってましたけど、大丈夫ですか?」

「チビ、知ってるか?俺様が作るスープって、何入れても美味いんだぜ?」


自慢げに言われて私は眉を寄せる。

あぁ……めちゃくちゃ心配だわ。



家に着き、早速調理に取り掛かる。


「おし、やるか!」


腕まくりをして、アルゼ様はさっき買った食材を取り出し始めた。


「私手伝うことあります?」

「今日は俺様がご馳走すんだ。任せとけって。」


厚意に甘えて任せることにした。

まあ、アップルパイしか作れない私は、役に立たないと思うんだけど。

しばらく見ていると、アルゼ様は鍋に……色々ぶち込み始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください!!そのまま入れる気ですか!?」

「ん?」

「いやいや、ん?じゃなくて。え?切らないんですか?」


私が慌てて詰め寄ると、アルゼ様はまるで何をそんな当たり前のことを、みたいな顔で、


「丸ごとのほうが旨味出んだよ」


と言って、見たことない紫色の根菜をドボォと落とした。


「出ませんよ?旨味どころか色しか出ないですよそれ!」

「チビ、料理素人は黙っとけ」

「いやいやいや、素人ですけれども!!」


言い返した瞬間、鍋の中がぼわっと薄く光った。


「……光ってますけど?」

「大丈夫だって。光る食材なんて珍しくねぇし」

「いや見たことないんですが……」


言ってるそばから、今度はなんか丸い実を投げ込む。

ぽちゃん、と落ちた瞬間──

ギュイイイイイ……!!!

高い音がして鍋が震えた。


「怖い……」

「あー、これ生きてるタイプのやつだな。大丈夫、大丈夫。火通せば静かになるから」

「いや、めちゃ怖いです……」


鍋がカタカタ揺れ始める。

やめて……ほんとに。食べ物と戦いたくない。


「アルゼ様、絶対やばいやつですよこれ……」

「チビ、こういうのは勢いなんだよ」


その勢いという言葉と共に、アルゼ様は一気に調味料をザザーッとぶち込んだ。

入れた瞬間に色が変化していく。

……ん……赤?青?緑?え?

 

「アルゼ様、これ最終的に何色になるんです?」

「んー……さあ?」

「さあって……」


でも、ぐつぐつ煮えてくると、ほんのりといい匂いがしてきた。


「……あれ。美味しそうかもしれない……」


私が漏らしたその声に、アルゼ様がドヤ顔を向ける。


「言っただろ?俺様のスープは何入れても美味いんだって」

「健康を害さないかは、心配です」

「まあ、1日寝込むぐらいなら別に」

「……」

「嘘だよ」


じっとりとした目線を向けて、私は湯気を立てる鍋を覗き込む。

ぐつぐつ。

……ちょっと光ってるけど。

めちゃくちゃ不安と、ちょっとの期待が混じっている。


「メインディッシュもやるか」


鍋に蓋をしてアルゼ様は、大きなお肉を取り出す。

ダンッとまな板に置き、フライパンで焼くのかと思いきや─


「ほいっと」


炎魔法で焼き始めた。しかし、火力がおかしい。


「アルゼ様。ちょっと火強くないですか?」

「そぉか?」


……あ、床がちょっと燃えてる。

私は、落ち着いて氷魔法で火を消す。


「おし、完成!」


強火で焼き上げたお肉に心配して近づく。しかし、真っ黒になっていると思った肉は、表面だけカリッと焼き上がり、中はジューシーそうに光っている。


「チビすまん。鍋見といて。」

「了解です。」


私は、鍋の蓋を開ける。湯気と一緒に、ほんのり甘くて香ばしい匂いが広がった。

匂いからして食べられそうだけど、見た目が……。


「見た目は飾りだからな、大丈夫だ。」


不安そうな私を見てアルゼ様が言う。自信満々なアルゼ様を見ていると、心配している自分がおかしくなってきた。


「よし、できたぞー!!」


先に椅子に座らされ、待っているとどんどん料理が運ばれてくる。大きなロースト肉に、暖かいスープ、チーズがたっぷり入ったパン。どれも美味しそうだ。


「アルゼ様。……本当にありがとうございます。」

「ん!食べようぜ!」


「いただきます!」と手を合わせて、スープに手を伸ばす。

うん……きっと大丈夫だ!

恐る恐る口をつけると─


「おいしい……!」

「だろう!!」


アルゼ様がニカッと笑う。 

……なんだろう。食べたことのない味のはずなのに、胸の奥がふっとゆるむ。不思議な味だ。


「それ、アーサーさんにも振舞ったんだぜ!」

「お父様にも?」

「うん。お前みたいに味心配してたなぁ。……懐かしい」


フッと、寂しげな顔になったアルゼ様。


「お父様とは、どういう関係だったんですか?」

「あ、そういえば教えるって言ってたな。」

「そうですよ。」

「……んじゃ、話すか。」


アルゼ様は、意を決したように手を止めて、口を開いた。

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