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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第二章:紡がれる願い
21/45

episode21:新たな始まり

無事ドアを直し終わり、ようやく一息つけるようになった。


「あれ、アルゼ様。自分で掃除したんですか?」


家の中に入ると、きちんと掃除されていて、昨日の影は見当たらない。


「俺様はもう大人だぞ?当たり前だろ。」

「……はあ」

「あ、それから!」


アルゼ様はそう言って、私を手招きする。


「何ですか?ツリーハウスなら、もう見ましたって。」

「違うわ」


私にツッコミを入れて、二階に上がる。向かったのは、一つの部屋だった。


「ここ、今日からチビの部屋な。」


そう言われて、私は驚く。


「昨日ツリーハウスでって……」

「これから住むのに、さすがに良くないと思ってな。ほら、ちゃんと掃除しといたから。」


私は警戒しながらドアを開ける。しかし、部屋の中は意外と綺麗で広々としていた。机にベッド、鏡や本棚、クローゼットまで揃っている。


「え、すごくいい部屋じゃないですか……。ありがとうございます。」

「ふふん。じゃ荷物置いて下に降りてこい。今日は勉強会をしよう。」

「分かりました。」


頷くと、アルゼ様は下に降りていき、私は中に入る。

生活面がヤバいって言ってたけど、案外大丈夫かも。

荷物を置いた私は、アルゼ様のもとへと向かった。


下に降りると、紅茶のいい匂いが漂ってくる。どうやら魔法を使って、お湯を沸かしたようだった。


「チビ。紅茶飲めるか?ジュースも買ってあるぜ。」

「……子供扱いしないでください。ジュースも飲みますけど、紅茶飲みます。」

「……あれチビ何歳?」

「14です。」

「まじか……俺様16ぐらいかと思ってたわ……」


この人、16歳でもチビって呼ぼうとしてたんだ……


「ちなみに俺様は、26な。」


聞いてないのに教えてくれる。


「30ぐらいかと思ってました。」

「……そんな老けて見える?」


紅茶を入れてもらい、恐る恐る口をつける。


「あれ!?おいしい!」


ほのかな香りと共に、爽やかな風味がやってくる。


「あれ、は余計だけどな!……じゃあとりあえず」


アルゼ様は紅茶を一口飲んで一息ついた。

急に真剣な雰囲気になり、私は気持ちを切り替える。


「まず、王都の魔法学校─ヴェルディア学園の試験内容は、知ってるか?」

「えっと……筆記試験と実技試験ですよね。」


アルゼ様は頷く。


「科目は?」

「魔法文学、魔力統計学、魔法史、精霊学です。」


アルゼ様は少し黙ると、口を開いた。


初代魔法使い(プリマ=マギア)を全て答えよ。」


急な質問に、私は頭を働かせる。

初代魔法使い(プリマ=マギア)─彼らは魔法の基礎を築いた伝説の魔法使いたちで、五人存在する。


「ルラシア、ヴィクヴェラ、ユスティモ、アスティーヌ、オスティール?」

「正解だ……魔王の名前は!」

「オルグザード」

「……よし、勉強はおしまいだ。」


そう言われて、私はガクッとなる。


「今始めたばっかりですよね!?」

「冗談だ。どのくらい理解しているか尋ねただけだ。」


いや常識を聞かれても……。

しかも、どこからどこまでが冗談なのかが、分からない……


「とりあえず図書館で、ヴェルディアの過去問を手に入れてきた。」


アルゼ様が、分厚い何冊もの教材をドサッと置く。


「ありがとうございます。」


最初から出して欲しかったけど……。


「最初に取り組みたい教科とかあるか?」

「私、魔法統計学が苦手なんです。威力の計算とかがよく分からなくて……」

「よし、じゃあ……三年前のから解いてみてくれ。分からないところは解説する。できなかったところは、基礎から見直すぞ。」


そうして、ようやく本当の勉強会が始まった。



気付けば夕方。

休憩を挟みながら、分からないところは解説してもらい、まずは全教科一年分を解ききった。

驚くことにアルゼ様の説明は、とても分かりやすく、あんなに苦手だった魔法統計学も、数分後には解けるようになってしまった。


「想像以上だな。マジで教えることないぞ?」


私の答案を見ながら、アルゼ様がそう言う。


「この年は、解きやすい問題が多かったんですよ。」

「いやいや、この年って割と平均低かった年だぞ。」


アルゼ様が若干、苦笑いをして言う。

あれれ、おかしいぞ……


「……私、実技の方が不安なんです。実技あんまり触れてこなかったんですけど、過去にどんな内容のが出たんですか?」

「んー、去年は確か属性試験だったな。自分の属性でミッションをクリアしろ、みたいな。」

「なるほど。二年前は?」


アルゼ様は、記憶を手繰るように上に視線を向ける。


「んーと、魔力操作だっけな。魔力球を三十秒維持しろってやつ。地味だけど、落ちるやつは落ちるらしい。」

「地味ですね……。というか、何でそんなに詳しいんですか?」

「徹夜で調べたんだよ。」


いとも簡単そうに言うアルゼ様だが、大変だったに違いない。


「本当にありがとうございます……」

「いいんだぜ。昨日約束したからな。」

「ところで、何でアルゼ様って勉強も出来るんですか?」


気になり尋ねてみると、褒められて気分を良くしたようだ。嬉しそうに腕を組む。


「まあ、受験しなかったけど、俺様もヴェルディア目指してたからな。」

「えっ!?」

「驚いたろう!」

「ええ……」


目指してた、のか……。


「……」

「何で受けなかったのか気になるんだろ?」

「気にはなりましたけど、そんなズケズケと踏み込むつもりはないので……」

「……んまあ、当日寝坊しただけなんだけど。」

「はあ……え?」


……危ない、聞き流すところだった。それにしても……


アルゼ様の一瞬だけ浮かんだ曇り顔に気づき、胸がざわつく。しかし、見なかったふりをして、「はあ……」と呆れた声を漏らした。


「何してるんですか……」

「だからチビ!お前も寝坊には気をつけること!」

「……もちろんです。」


ファリンネに毎日起こされていたことを思い出し、気をつけようと胸に誓った。


「それでアルゼ様。この後は、何しましょう。」

「フッ……」


これは、嫌な予感。まさか、この後日が暮れるまで走れとか言わないよね……?


「今夜はパーティーだ!」


両手を広げるアルゼ様に、私はキョトンとする。


「……二人でですか?」

「おう!俺様との絆を深めるためだ!」


そういえば、二日前に知り合ったんだった……。


「でもまだ17時ですよね。その間どうします?」

「何を言っているんだ?」

「へ?」

「これから街に買い物に行くんだぜ。」


そう言って、アルゼ様はニヤッと笑った。

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