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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第二章:紡がれる願い
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episode20:壊し屋アルゼ様

「アルゼ様。私に魔法学校へ行くための勉強と魔法を教えてください。」


アルゼ様に頭を下げる私。

断られたらどうしよう。息が詰まりそうなほど緊張していた。


「……いいぜ。」

「へっ?」


あっさり頷かれて素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ほ、本当によろしいのですか?」

「んまあ、大丈夫じゃね?」


頭をポリポリかきながら言うアルゼ様。

……ほんとに大丈夫か、この人。


「まあ、俺様の鍛錬は、死ぬほどキツイがな。」

「……耐えられます。」

「キツすぎて諦めちゃうかもな。」

「……耐えてみせます。」

「おし、じゃあお前は、今日からここに住め。」

「こんなとこ無理です」


そこは即答せずにはいられなかった。


「ったく即答しやがって……考えてみろよ。早朝から鍛錬するんだぜ?イアンに毎朝飯作ってもらうつもりか?」


イアンさんの名前を出されて、私はグッと詰まった。

確かにそうだ。迷惑をかけることになる。


「でも、でもですね!こんな家のどこに住めって言うんですか!」

「そこは大丈夫だぜ。」


「ちょっと来いよ」と手招きされる。なぜか自慢げで不安が膨らむ。

連れていかれたのは庭で、大きな木がそびえ立っている。そして木の上には─


「見ろよ!俺様のツリーハウスを!」


大木の上に、堂々とツリーハウスが建ててあった。


「あそこで暮らせって言うんですか?木の上で?」

「おいおい、そんな顔すんなよ。意外と広いんだぜ。見てみるか?」

「……分かりました。ここで暮らせばいいんですね。」


私は諦めて言う。


「そうだ。必ずお前を魔法学校に入学させる。俺様に任せとけ!」

「……はい!」


胸を張って自信満々なアルゼ様に、少し不安があるけれど、力強い言葉に胸がジーンとする。


「ってことで、子分一号!掃除を再開するぞ!」

「子分!?せめて弟子にしてください……」


アルゼ様の明るいテンションに引っ張られ、少し前向きに進めそうな、そんな気持ちになった。



掃除と修理で、お父様のことを聞く暇もないまま、一日が終わった。


「今日は助かったよ。ありがとな。」

「めちゃめちゃ疲れました……」


まだやるべきことはたくさんあるが、とりあえず屋根の穴は塞ぎ、部屋の片付けも終えられた。日も暮れ、私は帰ることにする。


「じゃあ、明日は六時に集合。荷物は全部持ってくること。ちゃんとイアンにも伝えとけよ。」

「はい、もちろんです。」

「よし、じゃあな!」

「それでは」


別れを告げ、家を出る。

イアンさん、せっかく部屋まで用意してくれたのに、一日で出るなんて申し訳ない。どう伝えようか……。

そんなことを考えながら、イアンさんの家へと向かった。


「魔法学校!?すごいねぇ!!」

「あの、それでアルゼ様の所に住むことになりまして……」

 

家に着き、恐る恐るイアンさんに伝える。申し訳なさを滲ませて言うが、イアンさんはニコッと笑った。


「気にしないで!……いつから行くんだい?」

「……明日です。」

「明日!?」


イアンさんが目を丸くする。当然の反応だろう。


「全くアルゼも急だなぁ。無理してない?大丈夫?」

「それは大丈夫です!」


勢いよく言う私に、イアンさんはニコッと微笑んだ。


「ならよし!あいつ生活面はヤバいけど、教えるのは上手いと思うよ。学んでおいで!」

「はい、ありがとうございます!」


快く送り出してくれるイアンさんが、とてもありがたい。背中を押されるようで、なんだか心が軽くなった。



まだ薄暗さが残る早朝、私は目を覚ました。外は静まり返っており、鳥の鳴き声さえ聞こえない。


「はっ、今何時だ……」


慌てて飛び起きて時間を確認する。五時半。まずい、後三十分しかない。

眠気をこらえて下に降りると、ラップにかけられたパンが用意されていた。イアンさんに感謝してパンを食べる。

生活用品は、昨日イアンさんと用意したので不備はないはず。衣服類は、自分の服が一着しかないため、娘さんの服をたくさん貸してもらった。

残り十五分。行ってきます、という置き手紙を残して、私は家を出た。


十分前にアルゼ様の家に到着し、ドアをノックする。しかし、またもや返事はない。

……まだアルゼ様、寝てるかもしれないからなぁ。

あの人ならその可能性も全然ある。

しかし、こんな時間にドアをゴンゴン叩くのも近所迷惑なので、しばらく待つことにした。

数分待っていると、突然ドアが開いた。驚いてひっくり返りそうになるが、アルゼ様が私の手を掴んだ。


「おはよう、チビ。五分前集合だぜ?」


その言葉にムッとして言い返す。


「おはようございます、アルゼ様。十分前には来てました。」


「ドアノックしたんですけどね。」と、言うとアルゼ様はポリポリ頭をかいた。


「おっかしいなぁ。何で俺様聞こえないんだろ。」

「チャイムぐらい付けてくださいよ……」


アルゼ様が試しにバンバンと、ドアを叩く。その瞬間─


「あ」


叩いた場所がミシッといってヒビが入った。


「な、なにしてるんですか!!」

「いやいや嘘だろ!?この前直したばっかなんだが?」


そして、アルゼ様は私を見てニヤッと笑う。


「俺様の拳、強くなったかも……」

「自分の成長で家を壊さないでください。」

「俺様の鍛錬の成果分かったろ?いやぁ、自分が怖いよ。」

「怖いのはこの家の耐久力です!」


……大丈夫か?この家本当に住めるのか?


「今日は、ドアを直すところから始めますか……。」

「……うん」


アルゼ様との鍛錬一日目。今日はドアの修理から始まる。どうやら普通じゃない日々が始まるようだ。

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