episode18:ひだまりの朝
翌朝、カーテンの隙間から差し込む日の光で、私は目を覚ました。そして、昨日の出来事が夢ではなかったことを思い知らされる。
キッチンがある下に降りると、イアンさんが朝食の準備をしていた。
「イアンさん、おはようございます。」
「おはよう、ルウラちゃん!よく眠れた?」
「はい、ぐっすり眠れました!」
私は、お皿にスープをついでいるイアンさんの所へ行く。
「何か手伝います。」
しかし、イアンさんは首を振った。
「いいのいいの。娘が1人増えたみたいで嬉しいから、私に任せて。」
ありがたく、準備はお願いすることにした。
少し待っていると、両手にお皿を抱えて、イアンさんがやってくる。メニューは、食パンと、コーンスープのようだ。
「ごめんね。昨日と同じようなメニューになっちゃって。」
「全然大丈夫です!準備してくださってありがとうございます。」
「いただきます」と、手を合わせて食べ始める。そんな私を、イアンさんは何かを懐かしむように見ている。
「ルウラちゃん。今日は、何かしたいことでもある?」
「私、今日アルゼ様のところに行ってみようと思ってて……」
すると、イアンさんは驚いたようだ。
「アルゼのとこに?どうして?」
「お父様のこと知っているようなので、お話聞きたいな、と。」
「あぁ、そうだったね。いいんじゃないかな。変な奴だけど、あいつ実は優しいから。」
そう言うイアンさんを見て、私は気になっていることを尋ねてみた。
「イアンさんと、アルゼ様ってどういうご関係ですか?」
「うーん、そうだなぁ……」と、イアンさんは腕を組んだ。
「20年前ぐらいだったかな……あぁ、そう。帝国側で戦争があったときだよ。薬草を取りに山の方に行ってたんだけど、その時に倒れている少年を見つけてね。」
「もしかして、その人が……?」と、私は口にする。
「そう、アルゼだったんだよ。血まみれで泥まみれ、息も絶え絶えでね。詳しいことは教えてくれなかったけど、どこかから逃げてきたらしい。命からがらだったんだろうね。手当をして、ここで一緒に過ごしていたんだ。」
そんなことがあったんだ……。
懐かしむような表情をしていたのは、私とアルゼ様を重ねていたんだろうか。
「じゃあ、イアンさんは、アルゼ様の母親的存在なんですね。」
「……まあ、そうなるのかな。」
イアンさんは、照れくさそうに言った。
「あ、あんまり過去の話したがらないから、このことはアルゼに黙っておいてね。」
「分かりました。」
私は頷いた。
朝食をとりおわり、出掛ける支度をする。
いつもファリンネに手伝ってもらっていたため、髪の毛を結ぶのに少し時間がかかった。続くはずだった日常を思い出すと、涙が込み上げてきて、またツンと鼻の奥が痛くなる。
……しっかりしなきゃ。
パチンと、顔を叩いて支度を終わらせると、イアンさんに声を掛ける。
「イアンさん、私行きますね。」
「道は分かる?」
「はい。大丈夫です!」
深呼吸を一つして、外に出ると、朝日がまぶしく差し込み、私は目を細める。
アルゼ様の家まではすぐそこ。昨日通った道を思い返しながら、一歩ずつ歩き始めた。
少し歩くと、焦げついた家が見えてきた。昨日よりも惨状は酷くなっており、なぜか屋根に穴が空いている。
……大丈夫かな。
やっぱり心配になってきたが、ここまで来たなら行くしかない。
私はドアをトントンと、叩く。
「アルゼ様、おはようございます。ルウラです。」
返事はない。
昨日、イアンさんがドアを蹴り飛ばしているところを思い出して、少し悩んだが、やめておいた。
「アルゼ様ー!いらっしゃいますかー!」
さっきより強めにドアを叩くと、少ししてからドアがギーと、音を立てて開いた。
「はい……」
「え……」
なぜか、頭に大きなたんこぶができているアルゼ様。
「何してたんですか……」
用件を伝えるより先に突っ込んでしまった。
「中、どうぞ……」
「し、失礼します……」
昨日のテンションはどこへ行ったのか、背中を丸めながらアルゼ様は、中へ案内してくれる。
ただ、中に案内してくれたはいいものの、書物やら木材やらが散らばっていて足の踏み場がない。
そして、何より気になるのが、屋根に穴が空いていること。人一人入れるくらいの大きさの穴があり、そこから、日光が差し込んでいる。
「ごめんなさい、今紅茶を切らしていまして……」
「あ、お構いなく……」
なぜ敬語……?
不思議に思う私に、アルゼ様は、水をついで持ってきてくれた。テーブルがないので近くの椅子に座って一口飲む。
「急にすみません。聞きたいことがありまして。」
すると、アルゼ様はポカーンとした表情を浮かべた。
「え……聞きたいこと?修理手伝ってくれるんじゃないの?」
今度は私が、ポカーンとする。
「いえ、違いますけど……。」
すると、あからさまに肩を落とす。
「何だよもぉ。精一杯の感謝を込めて接していたのに!」
「はあ……」
そんなこと言われても……
「で、用件はなに?」
「父のことについて、聞きたいことがありまして。」
「アーサーさんのことか。」
アルゼ様の表情が真剣に変わった。何かを悩む仕草をしたあと、ニヤリと笑って言った。
「じゃあ、手伝ってもらおうか!」




