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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
17/43

episode17:帰る場所

女性は、名前をイアンだと教えてくれた。


「あの、イアン様、本当に迷惑じゃないんですか……?」


申し訳なくなって聞いてしまう。イアン様は、笑って「イアンでいいよ」と言ってくれた。そして、微笑みながら続ける。


「全然!逆に来てもらってうれしいよ。夫は仕事でしばらくいないし、末っ子もこの前家を出てしまってね。寂しくなったとこなんだよ。 」


そう言ってもらって、私はホッと息をついた。

少し歩いて、綺麗な一軒家につく。


「さ、着いたよ。」


ドアを開けてくれて私は、中に入った。


「……あったかい」


家の中は、柔らかい光と暖かさで満ちていた。スープの香りがふんわりと鼻をくすぐり、入った瞬間、お腹が大きく鳴る。顔を赤くして俯く私を見て、イアンさんは微笑んだ。


「今日は作りすぎちゃって余ってるんだよ。いくらでも食べていいからね!」

「ありがとうございます……」


椅子に座った私の前に、パンと温かいスープが置かれる。


「いただきます。」


手を合わせると、恐る恐るスープを、口に運んだ。冷えていた体に染み渡り、私は「おいしい……」と、声を漏らす。


「よかった……。」

「あの……イアンさん」

「……うん」


私は、スプーンを置いて、イアンさんを見る。


「私……」


なんでこんな時間まで外にいたのか。なんで家に帰らないのか。説明しないといけないのに、どこから説明すればいいか分からなかった。今日あったことだって、信じてくれるかなんて分からない。


「ルウラちゃん」


イアンさんは、そんな私を優しく呼んだ。


「無理に言わなくていいんだよ。言いたくないこと、言えないことって誰にだってある。今は休むことだけ考えな。話したくなったときに話してくれたら、それで十分だから。」


「ただ、これだけは教えてほしい。」と、イアンさんは真面目な顔をして言う。


「帰る場所はある?」

「それは、あるんですけど……」


私は、レーゲルトにある自分の家を思う。ファリンネは、いつ迎えに来てくれるのだろう。


「そう。きっと心配してるだろうから、連絡できたらいいんだけど……」


イアンさんは、頭を悩ませている。


「とりあえず、帰れるようになるまでは、ここにいていいからね。」

「はい……ありがとうございます。」


イアンさんは、にっこり微笑んだ。

お風呂を貸してもらい、娘さんの服を借りて着替える。

夜も遅いので、寝室に案内してもらった。


「ここの部屋、空いてるからこれから使っていいよ。」


中には、机、本棚、ベッドが置かれていた。カーテンから月の光が差し込み、部屋の中を薄く照らしている。


「とりあえず今日は、休んでね。」

「イアンさん、ほんとにありがとうございます。……おやすみなさい。」

「うん、おやすみ、ルウラちゃん。」


部屋のドアがパタン、と閉まる。1人になった瞬間、涙が込み上げてきた。


……大丈夫、きっとなんとかなる。 


込み上げてくる涙を必死に抑えて、私は自分に言い聞かせた。

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