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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
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episode16:凍てつく夜に

フラフラと歩き続け、誰が導いてくれたのか、気付けば森の外に出ていた。

外に出る頃には辺りはすっかり暗くなっており、遠くに街の光が見える。

道が分からず、川沿いを歩いていると、民家が立ち並ぶ場所に出た。


行くあてもなく、私は川のそばに座り込む。

魔力探知で家に飛ばしてくれると言っていたファリンネの風魔法も、今は使われる様子はない。

お金は持っているが、宿を探す気力もなかった。

そんな時、後ろに人の気配がした。


「お嬢ちゃん、そんなところに座り込んでどうしたんだい?」


話し方からして、どう見ても怪しい人。


「家に泊めてあげるから……」

「……氷の精霊よ、我に従い汝を凍てつくせ─」


振り返る前に詠唱する。


「ひっ!」


ペキペキと地面から凍りつく音がする。足から凍っていき、そのうち全身氷に閉ざされるだろう。


「つ、つめてぇ!!たすけてくれぇ!」


情けない声を出して男が騒いでいる。


「コラあんた!なにやってんだい!」


ハリのある女性の声と共に、また一人誰かがやってきた。振り向くと、下半身が氷に包まれた男性と、威勢の良いふくよかな女性が立っていた。


「すまんねぇ、お嬢ちゃん。こいつはうちの客人なんだ。氷溶かしてくれるかい?」

「あの……やり方分かりません……」


ギョッとして、男がこちらを向いた。

氷は今まで、カインに溶かしてもらっていた。だが、いつも一緒にいたカインは、もういない。今の私は、何も出来ない無力な子供なのだ。

ハアと、女性は大きくため息をついた。


「まあ、あんたちゃんと金も払わないし、いっそのこと凍ってくれてもいいんだけどね。」

「ごめんよ!明日、いや今日ちゃんと払うから!!」

「ったく……私は魔法をあんまり使えないからなぁ……」


女性はまた、ため息をつく。


「……この街に炎属性の魔法使いはいますか?」


尋ねると、


「とびっきりのがいるけど、性格がねぇ……」


と、言葉を濁らせた。私は「案内お願いします。」と、立ち上がって言う。

凍らせたのは私だ。ちゃんと責任をとらなければならない。

女性は、「本当に行くのかい?」と不安そうにしたが、男があまりの冷たさに悲鳴をあげ出したので、引きずって案内してもらうことにした。

数分歩くと、こぢんまりとした家についた。屋根のペンキは、はげかかっていて、かかっている看板は文字が消えかけていて読めない。本当にここに、いい腕の魔法使いが住んでいるのだろうか。


「アルゼ!アルゼ!いるんだろ!開けてくれ!」


女性は、ゴンゴンと今にも壊れそうなドアを叩く。すると、中から「いないよ!」と返ってきた。


「くだらない嘘つきやがって……」


女性は、終いにはドアを蹴り出した。胸元まで凍った男がドン引きしている。


「開けろやとっとと!」


中から大きな物音がして、ようやくドアが開いた。

出てきたのは、肩まで届くくらいの深い青の髪をラフに束ねた青年。鋭く澄んだ青い瞳は、氷のように冷たく光り、見る者に、ただ者ではないことを直感させる。


「何だよ!」

「あの……私ルウラ・クラークといいます。えっと……」


背の高いアイゼ様に見下ろされると、威圧感を感じて縮こまってしまう。


「このチビがあの?」


どの……?


「クラークって家名、アーサーさんとこだよな?」


なぜか女性たちに視線を送るアイゼ様。「知らんわ。」と、女性に突っ込まれている。


「父が何か……?」


恐る恐る聞くと、


「俺様、昔アーサーさんに世話になったんだぜ。」


と、まさかの発言。アイゼ様は、驚く私にニカッと笑ってみせると、手招きした。


「チビの願いだったら、聞いてやる。」

「ありがとうございます。……この男性の氷を溶かして欲しいんです。」


指さして言うと、ようやく男の異変に気付いたようだ。目をぱちくりさせると、笑いだした。


「じじぃ、やべぇな!!」

「助けてくれぇ、アイゼ……」


男は、もう首まで凍っており、半泣きだ。


「来い!特別に最大火力の炎で燃やしてやる!」


アイゼ様は、ゲラゲラ笑っている。

え……家の中でやるの?


そして、叫び声と共に家が爆発し、髪をチリチリにした男が出てきた。


「ハッハッハ!どうだ!じじぃにぴったりな髪型だ!」

「……殺されるかと思った」

「ありがとな、アイゼ」

「助かったよアイゼ……」


2人が頭を下げるのと同時に、私も「ありがとうございます。」とお礼を言う。

そして、感謝しながら男は去っていった。


「あー、また家修理しなきゃだなぁ……」


自分で爆破した家を見やっているアイゼ様を横目に、女性が優しく声を掛けてくれた。


「ルウラちゃん、もし行くところないんだったら、うち来るかい……?」


あまりのありがたさに、私は胸を打たれて声が出なくなる。


「体もボロボロじゃないか。今日はもう休んだ方がいい。」

「……いいんですか?」


頑張って絞り出した声は、震えていた。


「全然いいよ。……行こうか。」


女性は、私の手を優しく引いてくれた。

今日は、色んなことがあった。

女性の優しさが胸に染みて、私はポロッと涙を流してしまう。

どこからか夕ご飯の香りが漂ってきて、心の奥がじんわりと温かくなった。

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