episode15:森の残響
「カイン!もういいよ!!」
攻撃の手をやめることなく、騎士を追い詰めていくカイン。必死に声をかけるけど、届くことはない。
……なんで?何が起こってるの?
こんな数の攻撃、絶対魔力切れになるに決まってる。
「カインってば!!」
埒が明かなくなり、防御魔法を展開しながら腕を掴むが、
「あつっ!」
あまりの熱さに手を離してしまった。そこで私は異変に気付く。カインの胸元が脈立つように赤く光っていた。よく見ると、紋章のような形をした赤い痣が、浮かんでいた。
「なにこれ……」
痣は魔力を帯びているが、カインの魔力ではない。もっと荒々しくて、熱い魔力。
「も、もうやめてくれ……」
騎士の声に、私はハッとした。
「カイン!その人死んじゃうよ!」
私は身を挺して騎士の前に立ち、防御魔法をはる。しかし、数秒も持たずにヒビが入った。
嘘でしょ……。
冷や汗がたれる。
カインは瞬きもせず、深紅の魔力を帯びた瞳で追撃してくる。
「あっ……」
パリンと言って防御魔法が割れた。赤くて熱い光が私の目の前に飛んでくる。
「カイン……」
死を覚悟したその時だった。
私の前に防御魔法が展開され、カインの攻撃を防いだ。私は、この魔法を知っている。これは……
「お父様……?」
後ろを見ると、お父様が立っていた。その奥には、鎧を身につけた騎士が、こちらを見下ろしていた
お父様は軽く微笑むと、カインのもとへと向かう。まだ攻撃を続けるカインの額に手をかざした瞬間、カインは崩れ落ち、お父様の腕に支えられた。
「よくやった、アーサー。」
奥から、低くて威圧的な声が聞こえた。
「え、カイン……?」
ぐったりとしているカイン。どう見ても意識を失っていることは確かだ。
お父様は、担ぎ上げたカインを奥にいる騎士に渡すと、私の方へと歩いてきた。
「お……父様……どういうこと?」
お父様は何も喋らず、私の体に手を向けて何かを唱えると、踵を返してそのまま歩いて行ってしまう。
……嘘でしょ。カインをどこに連れていくの?お父様は、何で何も言ってくれないの?
「さあ、行くぞ!」
倒れ込んでいた騎士はいつの間にか回収されていた。誰かの声と共に集団は去っていく。
抱えていた紙袋は、焼け焦げ、踏まれてひどい惨状となっている。
「なんでこんなことに……」
一人でどうすればいいのだろう……。
カインも、お父様も、もう目の前にいない。
ただ、森の静けさだけが、私の胸の奥に重くのしかかった。




