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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
14/41

episode14:守る者

「……恐れ入りますが」


重苦しい雰囲気の中、カインが口を開いた。


「北の森は王都に属してはいますが、王家に属する聖域とは聞いたことがありません。ましてや北の森が聖域なら、なぜ全域を立ち入り禁止にしないのですか。」

「口答えをするな、ガキ。北の森の全てが聖域なわけではない。立ち入ってよいのは中心部までだ。」


さらに騎士は、説明を続ける。


「聖域は、この森の中心部から北側全てで、そこにだけ結界が張られている。結界は、王宮所属の結界師により張られたもの。入れるはずがない。」


騎士の目が鋭く細められ、私の右手へ向けられる。


「だが、結界が破られた……。」


空気が一段と冷えた。


「説明してもらおう。なぜお前らのようなガキが結界を破れたのか。」


私は聞かれて混乱するが、張り詰めた空気の中、頑張って口を開く。


「あの……結界を破ったのって本当に私たちなんですか?」

「……結界が、ガキに破られるほどのものだと蔑んでいるのか?」


騎士の声は、ひどく冷たかった。


「ち、違います!そんなつもりじゃ……!」


否定しようとした瞬間、騎士が一歩踏み込んできた。


「ならばどう説明する。」


低く、威圧するような声。

胸の奥がぎゅっと締め付けられ、呼吸が浅くなる。言葉が見つからない。


「そ、それは……私たちも気づいたら中心部にいて……!」

「言い訳か。」


その一言が落ちた瞬間、空気がひび割れたように張りつめた。

そして、騎士の手が突然、私の腕を乱暴に掴んだ。


「いたっ……!」


さっきの傷がまた開き、鋭い痛みが走る。


その瞬間―


「離れろ!!」


森を震わせるほどの声で、カインが叫んだ。今まで聞いたことのない怒気に満ちた声だった。

彼は騎士の手を力任せに振り払うと、私を背に庇い、鋭い眼で騎士を睨みつけた。


「ルウ様に触らないで下さい。それ以上は、許さない。」


いつもの柔らかい雰囲気は完全に消え失せている。あまりの迫力に、騎士がわずかに身じろぎした。


「なにを……従者風情が……!」

「従者でもなんでも、関係ありません。」


カインは一歩踏み出し、騎士の威圧を正面から受け止める。


「ルウ様を傷つける者には、たとえ王家の騎士であろうと、俺は……黙っていません。」


森の空気がさらに冷え、騎士とカインが対峙する。騎士は、フッと鼻で笑うと剣を構えた。


「従者風情で王宮所属の騎士に歯向かうとは……。不敬罪で斬り捨ててやろう。」


騎士の剣が、森の薄光を反射して凶悪な輝きを放つ。


「カイン!!」

「炎の精霊よ、我が手に集え、剣となせ─」


カインが詠唱した瞬間、炎を纏う剣がカインの右手に現れた。そして、騎士の剣を受け止める。

ガツンという重い音が、森の中に響いた。


「ルウ様!離れていてください!」

「でもカインが!」

「俺は大丈夫ですから!」


受け止めてはいるものの、子どもと大人の力の差は、歴然だ。どんどん押されている。

魔法で援護をしたいが、私の腕では、まだ完璧に操作することはできず、カインに当ててしまうかもしれない。結局私は行方を見守ることしか出来ない。

すると、突然騎士がこっちを向いてなにかを唱えた。その瞬間、風の刃が私に向かって飛んでくる。


「えっ……」

「……ルウ様!!」


あまりにも急なことで、防御魔法でさえ出すタイミングがない。


「ルウ様!」


カインに手を引っ張られ、私は魔法の攻撃範囲から抜け出した。同時に持っていた紙袋が全て滑り落ち、地面に散らばる。


「カイン血が……」


刃がかすったのだろう。頬に血が一適流れていた。カインは、私の声を聞き流すと、騎士と向き合う。


「……卑劣な真似をして恥ずかしくないのですか?」

「こういうのも戦略だ。」

「……もういいです」


……なんだろう。カインの雰囲気がいつもと違う。深紅の瞳も魔力を帯びている。


「炎の烈火よ、我が意に従い敵を討て─」


空中に槍をかたどった炎が浮かぶ。見たことある魔法だけど……


「え……?」


数もいつもの二倍近くあるし、炎がいつもより赤く燃えている。

騎士も何かがおかしいことに気付いたようだ。

炎の槍が空中で揺らめき、微かな光を散らす。

カインが手を振り下ろすと、次々と槍状の炎が飛び出し、騎士めがけて飛んでいく。

ボンッ、ボンッ、と炎の槍が宙を裂いて森に炸裂音が響き、深紅の光が辺りを赤く染めた。

騎士は剣を振るい防ごうとするが、炎の槍は一瞬の隙間を逃さない。


「……なんだ、この数は!」


息を呑む騎士の声と、炎の炸裂音が森の静寂を突き破る。

深紅の瞳に魔力がほとばしるカインの姿。

私はその光景を眺めることしかできなかった。

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