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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
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episode12:北の森へ

「……ウ様、ルウ様。もうすぐ着きますよ。」

「ん……」


カインに声を掛けられ、私は目を覚ます。

どうやらいつの間にか眠っていたらしい。


「うわぁ……」


外を見ると、目に堂々とした白い壁が飛び込んできた。塔は空に届きそうな高さで、屋根の金色の紋章が陽光を反射してきらめいている。


「カイン!カイン!すごいね!」


感激して身を乗り出していると、カインに首根っこを掴まれた。


「危ないですからちゃんと座ってください。」

「……わざわざ掴まなくても」

 

馬車に1時間半近く乗り、ようやく王宮の前までたどり着いた。

調べたところ、馬車では直接北の森には行けないらしい。ここからは徒歩で行くことになる。


馬車が王宮の壮大な門の前で止まった。

馬車の扉が開き、私たちは石畳の広場に降り立つ。

目の前には、息を飲むほど壮大な王宮がそびえ立っていた。塔の影が広場に長く伸び、風に揺れる旗がきらめく。


「すごい……」

「本当に大きいですね…… 」


横でカインも感激している。

しばらく見上げたまま固まっていると、カインが軽く咳払いをした。


「北の森に来たんですよね?」

「……その通りです。」


私は我に返って、名残惜しく王宮から視線を外した。

広場の端を見ると、そこから森へと続く細い道が伸びていた。敷石はここまでで終わり、その先は土の道に変わっている。

いよいよだ……!

馬車の前を離れ、私たちは森へと続く小道へと足を踏み入れた。王宮の白い壁が遠ざかるにつれ、街の喧騒も少しずつ薄れていく。


「森って王宮から歩いて行ける距離にあるんですね。」


歩きながらカインが言う。


「いやいや、近いようで意外と歩くよ?道も険しいし。途中でへこたれないでよね。」

「……その言葉、そっくりそのままお返しします。」


歩くこと数分、最初は平らだった道も次第に小石や木の根が増え、足元が不安定になっていく。

でも、森へ近づくほど風が涼しくなり、どこか胸が弾んだ。

やがて、小川が流れる場所に着いた。

陽の光が水面できらきら跳ね、木漏れ日が揺れている。

ここで少し休憩を取ることにした。


「カイン……疲れた」


ドサッと座り込み、弱音を吐く私に、カインは眉をひそめる。


「もうですか?まだ30分しか歩いてませんけど。」

「30分は歩いたじゃない……」

「最近魔法の腕が上がってきて焦ってましたけど、体力の方はまだまだみたいですね。」


ニコッと微笑みながら煽るカイン。

煽り性能が高いのよ……。


「ま、まあ最近あなたずっと鍛えてるものね。脳みそまで筋肉にならないように気をつけることね。」


嫌味を言ってやると、


「まあ、俺ぐらいの頭脳なら少しぐらい脳筋になってもいいかもしれませんね。」


と、返してきた。

こりゃダメだ、と思った私はもう黙るしかない。

やけくそになってさっき買ったパンを食べ始めると、カインがニコニコしながらこっちを見てきた。


……こっち見るんじゃないわよ。


私は無言でカインの手に、パンが入った紙袋を差し出す。


「ありがとうございます」


カインは笑いながらパンを受け取り、食べ始めた。

静かだけど心地いい。そんな時間が過ぎた。


パンを食べ終え、またしばらく歩く。険しい道をどんどん進んでいくと、木々の影が一段と濃くなり、ひんやりとした風が頬を撫でた。

カインが足を止め、指さす。


「……入口、あれではないですか?」


私は思わず息をのむ。

頭上を覆うように樹々がそびえ立ち、葉のざわめきがまるで生き物のように響いていた。

森の奥は薄暗く、昼なのにどこか神秘的で、少し怖い。


「すご……本当に、森だ……」


山頂まで行けるんだろうか。ここで綺麗な景色が見えるんだろうか。

心臓が高鳴る。ワクワクと不安が同時に押し寄せてきた。

そんな私の隣にカインが立ち、静かに言った。


「ルウ様、行きましょう」


私は大きくうなずき、一歩踏み出す。足元の落ち葉が、かさりと音を立てた。

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