episode11:王都での寄り道
王都の大通りは、朝なのにも関わらず、人の声でにぎやかだった。
子どもたちが笑いながら駆け回り、それを見守る大人たち。
演奏隊の笛の音に、通行人が思わず足を止め、楽しげに笑い合う。
私もつられて笑顔になり、カインに「あれ見て!」と何度も声をかけた。
露店が並ぶ通りに近付くと、香ばしい匂いに、お腹が勝手に鳴りそうになる。
「さっき朝ご飯食べてましたよね……?」
キラキラとした目で食べ物を見る私に、カインは呆れたように言う。
「何言ってるの。これは別腹よ!」
「はいはい……何が食べたいんですか?」
「えっとね……」
私は視線を彷徨わせ、通りの角に焼きたてのパイを売る屋台を見つけた。
「カイン!あれ食べよ!」
私は、目を輝かせて飛びつく。
「すみません!アップルパイ2つください!」
「はいよー!」
威勢のいいおじちゃんが、すぐに焼きたてのアップルパイを袋に入れてくれる。
「君たち、旅行客?」
「ええ、レーゲルトから来たんです。」
そう言うと、おじちゃんは目を丸くした。
「れ、レーゲルトから!?よく来たもんだなぁ。楽しんで行きなよ!」
「ありがとうございます!」
ファリンネにぶん投げられてここまで来たことは、心に閉まっておく。
紙袋を受け取ると、1つをカインに手渡した。
「いただきます!」
道の端でパイにかぶりつく。
「んー!!」
あまりのおいしさに、ほっぺをおさえる。
口に入れると、焼きたてのパイ生地がサクッとほどけて、中から温かいりんごの甘酸っぱい香りがふわっと広がる。
カインも笑顔で頬張っている。
「やっぱり焼きたては別格ですね。」
自分の作るアップルパイ、完璧に近いと思っていたけど、まだまだ練習が必要ね……!
街のにぎわいの中で小さな幸せを味わった後、しばらく通りを歩いてみる。そんな中、ふと道の端に見えた小さな魔導具店に目を留めた。
「カイン見て!魔導具店がある!初めて見た!」
「入ってみましょうか。」
店内に入ると、古い木の棚と魔導具の光が混ざり、ちょっと神秘的な空気が漂う。
小さな鈴の音が鳴り、微かに魔力の残り香が鼻をくすぐった。
「いらっしゃい」
声がした方を見てみると、椅子に腰かけて、魔導書を読んでいるおばあちゃんがこちらを見ていた。
「ゆっくり見ていきなね。」
「ありがとうございます」
店内には見たこともない魔導具がたくさん置いてあった。棚には光る玉や浮かぶ小瓶、小さな杖、オルゴールの箱などが並んでいる。
ふと目に入った、おしゃれなペンを手に持つと、1人でに動き出して私の似顔絵を書き始めた。どうやら浮遊魔法がかかっているらしい。
「うそ、私こんな怖い顔してる……?」
出来上がった絵を見て、私は不安になる。
「もともとそのようなお顔立ちです。心配いらないですよ。」
カインは、褒めてるのか貶してるのか分からない返し方をしてくる。
奥に行くと、小さな小箱が置いてあった。中を開けると、オルゴールが入っていて、軽やかな音と共に精霊たちが現れて踊り出す。
「うわぁ、綺麗ねぇ」
「魔導具ってすごいですね」
カインは隣で感心している。
ふと時計を見ると、もうすぐ昼ご飯の時間だった。北の森に行くまでの時間も考えて、店を出ることにした。
「カイン、ここで昼ご飯も買っていこう!」
「そうですね、そうしましょ。」
店を出てすぐ近くの屋台でサンドイッチやパンを購入。
「森で食べよ!」
「……なんか買う量多くないですか?」
あまりに種類が豊富でたくさん買ってしまったのだ。
「ま、まあ森に着く頃にはお腹減ってるでしょ」
「それ自分が食べたいだけでしょ」
「……」
「俺も食べたいからいいんですけどね。……あ、馬車が来てます。行きましょルウ様。」
指を指したカインは、先に歩き出す。
「あっ、ちょっと待ってよ!」
「ルウ様、馬車が行ってしまいますよ。」
王都の賑やかさと小さな冒険の余韻に包まれながら、二人は笑い合った。
北の森はまだ少し先。でも、今日の思い出だけでも胸がいっぱいだった。




