episode10:始まりの朝
「おはようございます、ルウお嬢様。」
ファリンネの声で目を覚ました。
朝日がカーテン越しに差し込んでいる。私は大きく伸びをした。
「ふわぁ……おはよファリンネ。」
星夜祭の日から2年が経った。私は14歳となり、心も体も少し大人に近付いた気がする。
「今日は確かカイン様と、北の森に行かれるのでしたよね。」
「ええ。早く支度しなきゃ。」
そう、長年夢見ていた北の森に、ようやく行くことができるようになったのだ。馬車や、王都の宿は結構な値段がするため、お金を貯めるのに大分時間がかかってしまった。北の森は王都にある。楽しみで仕方がない。
下に降りると、珍しくお母様が座っていた。紅茶を飲んでいるらしく、甘い匂いが漂ってくる。
「おはよ、ルウ。」
「おはよう、お母様。珍しいわね。」
「やっと一息つける状態になってね。」
私はお母様の前に座り、ラミレスが用意してくれたパンとスープを食べる。
「そういえば、今日北の森に行くのよね。」
「ええ!お金貯めるの長かったわ……」
「お金なら渡すって言ってるのに。」
「自分で貯めなきゃ意味ないのよ。」
「そう?ならいいんだけど……」
食べていると、朝の鍛錬をし終わったカインがやってきた。
「……んほよ、カイン」
「食べながら喋らないでくださいよ……。おはようございます、ルウ様。」
カインは12歳になった。まだまだ子供なのに、昔より背が伸びて、汗を拭う仕草までなんだか大人っぽい。私より大人っぽく見えるのは、なぜなんだ!
「わたしはケベットに見逃してもらったのに今日も鍛錬するなんて、頑張り屋さんなこと。」
「ルウ様がいきなり腕を上げましたからね。俺がケベット様にお願いしたんですよ。」
「んふふふ。ビビってなさい。」
「煽らないでください。」
そんな会話をしていると、お母様がクスッと笑った。
「2人とも夫婦漫才みたいになってきたわねぇ。」
「え、どこが……」
「いいのいいの。」
お母様は紅茶を飲み干すと立ち上がった。
「それじゃあ、そろそろ部屋に戻るわね。2人とも気を付けて行くのよ。」
「うん」
「カインくん、ルウのことよろしくね。」
「もちろんです。」と、カインは頭を下げる。
お母様は、カインの肩をポンポンと叩くと、去っていった。
私は、残りのスープを飲み干すと、支度に取り掛かった。
「ファリンネー!そろそろ行くねー。」
支度が終わり、カインを呼んだ私は部屋の掃除をしているファリンネに声をかける。
「分かりました。」
「カイン、もう行ける?」
「……俺はとっくに支度終わってますよ。」
……すみませんね、服が決められなかったんですよ。
「それでルウ様。北の森までどうやって行くのです?」
「フッフッフ。馬車を乗りついでいくの。ちゃんとリサーチ済みだから安心して?」
「……正直めちゃめちゃ心配です。」
この人全然私の事信頼してないわね……。
「まあ、いいわ。」
私は荷物の確認をする。1週間分の荷物だから大荷物になっちゃったけれど、仕方がない。
「昨日見た時より増えてる気がするんですけど、それ自分で持てるんですか?」
カインが床に置いている私の荷物を見ながら言う。
実は昨日の夜、いろいろ不安になって予備をたくさん詰め込んだのだ。
「こんぐらい持てるわよ。筋肉だってついたし……あれ」
持ち上げようとしたが、数センチしか上がらなかった。
「おかしいわね。昨日までは持ち上げられたのに。」
「持ち上げられるだけじゃダメでしょ。貸してください、俺が持ちます。」
カインは軽々と持ち上げる。
さすがカイン!ケベットにしごかれてるだけあるわね!
「めちゃくちゃ重いんですが……これ、ファリンネ様の魔法でどうにかなりませんか……?」
いや、いくらファリンネが風の精霊だからといって、荷物を軽くなど……。
「先に宿にでも送り届けましょうか。」
「え!そんなことできるの!?」
「わたくしですので。」
「すごいですね、ファリンネ様。」
「崇め称えてもらっても構いませんよ。」
自信満々なファリンネを一旦放っておいて私は考える。
これもしやファリンネに王都まで連れていってもらうこと出来るんじゃないの……?
「あ、あのさファリンネ……。」
「何でしょう、ルウ様。」
「私たちをそのぅ……王都に連れていくとか……できたりします?」
少しの沈黙。
「……可能です。」
その瞬間、私はガックリと崩れ落ちた。今までの時間なんだったんだ!!!
「早くそれ言いなさいよ!!」
「自分の力で行きたいと奥様に申していたではないですか。」
「他に方法がないと思ったからよ!!」
「良かったじゃないですか。重い荷物を持たないですみますね。」
カインがガンッ、と荷物を置いて言う。
それは、そうだけれども……。
「……じゃあ、ファリンネ。お願いしてもいい?」
「お任せ下さい。」
その瞬間、風が巻き起こった。
「ちょっと待って!!家の中でやるの!?」
「心配ご無用です。所要時間は2分ほど。帰りはこちらから魔力探知を行って飛ばすのでご安心ください。行ってらっしゃいませ。快適な空の旅を……」
「ちょっ……!」
私たちの周りに強い風が吹き始め、そしてファリンネは私たちを、
「うわああああっ!!」
放り投げた。
「はやいはやいはやい!!」
気付くと空を飛んでおり、景色がどんどん変わっていく。
「カイン大丈夫!?」
カインの様子を見ると、死にそうな顔で悶えていた。
何が快適な空の旅よ!
私は目を閉じて風に身を任せる。
しばらくして目を開けると、大きくそびえ立つ王宮が見えてきた。
「カイン!!もう着くわよ!!!」
すると、突然急降下を始めた。
「きゃあああっ!!!」
ぶつかる!と思った瞬間、1回フワッと浮上し、そのまま地面に尻もちを着く。
「いたっ!」
「ルウ様、大丈夫ですか……?」
疲れた顔でカインが手を差し出してくれる。
「ええ、なんとか。……わぁ」
カインの手をとって、立ち上がった私は素晴らしい光景に息を飲む。
そこには見たこともないほど大きな街が広がっていた。
白い石で造られた建物がずらりと並び、朝日を受けて淡く光っている。
そして、たくさんの人が行き交っている。
私の村の一日分より、ここでは一分で会う人のほうが多いかもしれない。
通りには朝市が開かれていて、焼きたてのパンの匂い、スパイスの香り、誰かが歌う軽やかな笛の音が混ざり合っていた。
「カイン!!すごいわね!」
「ええ、本当に……」
カインも驚いて辺りを見回している。
「お金もあるし、寄り道していきましょ!」
手に取った私の荷物はファリンネが魔法がかけてくれていて、さっきの倍軽かった。
左手でカインの手を掴むと、私は歩き出した。




