第6話〜冥界王の姿〜
地上でギルとディルフに拾われたサクラ。
彼女はそのまま冥界へと連れてこられ、ついに“冥界の王”カルマと対面します。
ふわふわ優雅なカルマ王、登場です。
そして、サクラの今後を左右する「とっても大きな会議」が開かれることに――!
ゲートを抜けて辿り着いたのは、――冥界だった。
「……ここ……どこですか……!?」
怯えたようにサクラが声を漏らす。
ギルはニヤニヤと笑いながら答える。
「ここはね、人間を喰う悪魔たちがい〜〜〜っぱいの、最高にハッピーなとこ♡
だから……俺たちのそばにいてね♡」
「おい……」
ディルフがギルを横目で睨みつけ、サクラに向き直る。
「サクラさん、大丈夫ですよ。私と“ソレ”――ギルのそばにいれば、他の悪魔は“基本”寄ってきませんから」
そう言って、彼は優しくサクラに手を差し出した。
(まって……私、昨日、悪魔と……寝たの……? え?)
サクラは小さく震えながらも、ディルフの手を取る。そして、三人は冥界城へと向かっていく。
***
――冥界城。
思いのほか静かで、悪魔の姿は一人も見当たらない。ただ、どこからともなく“視線”だけが刺さるように降り注ぐ。
冥界城に自由に出入りできるのは、神の血を引く者――冥界王カルマ、その三つ子、そしてギルとディルフだけだ。
ふたりの祖父にあたるカルマは、この冥界を支配する存在でもある。
広く暗い廊下を進むと、漆黒の巨大な扉が現れる。その先は、冥界王カルマの私室。
「おじ〜ちゃ〜ん! ただいまぁ〜!」
ギルの軽い挨拶が部屋中に響く。
「カルマ様、只今戻りました」
ディルフの丁寧な報告の直後――部屋の奥から、カツン…カツン…と足音が響いてきた。
やがて、暗闇から現れたのは…
ふわふわにカールした明るい紫色の髪、細身の体、そしてにっこりと笑った顔――
それが、この冥界を治める王、カルマだった。
「やっほ〜! おかえりギルティー!
中央駅前の限定チョコあんぱん、買えた〜?!?!」
テンション高く、まるで軽口のように出迎えるカルマ。
「てか、なんで人間の姿なの? 笑」
「あ〜忘れてた! てか見てよ〜これ♡」
ギルがサクラを指さす。
「……おいおい、こりゃ人間の女だね!…懐かしいな〜」
カルマはサクラを眺めてニコニコしている。
「地上で感知された魔力と、この少女は関係があると見ています。そして、この少女に付きまとう者に関しても、調査が必要です」
ディルフが真面目な顔で報告するが、カルマの視線はずっとサクラに向いていた。
「オッケ〜。じゃあ……“でっかい会”やるから〜! 詳細はあとで冥メル(冥界メール)送るね〜」
そう言って、ヒラヒラと手を振りながら去っていくカルマ。
「……“冥界特別審議会”か。少し荒れそうだな」
ディルフが低く呟く。
「うわ〜、でっかい会やるんだ〜! だいぶ大ごとだねぇ〜……サクラちゃん、大丈夫かな〜?」
ヘラヘラ笑うギルの隣で、サクラは小さく震えながらディルフの服の裾を掴む。
「……大丈夫、なんですよね……?」
不安げなその問いかけに、ディルフは静かに微笑んだ。
「えぇ、安心してください。一度、私の家へ行きましょう」
***
――ディルフ邸(冥界)
「さぁ、上がってください」
そこはとてつもなく豪華で、品のある空間だった。
「……ねぇ、ディルフ〜、もう元に戻っていい? ずっと魔力使うの疲れるんだけど〜」
眉をひそめてギルが言う。
「ああ、そうだな……」
ふたりは同時に、悪魔の姿へと戻った。
「ひゃっ?! ……でぃ、ディルフさん、なの??」
サクラはつい声をあげる。
見た目がまるで獣のようになったディルフだが、そのたたずまいは品があり、優しい笑顔も変わらない。
「驚かせてしまいましたね。これが本来の“悪魔”である私たちの姿です」
「……あ、冥メル来てるじゃ〜ん! ってか、でっかい会まであと1時間?!
オレ、うち帰って着替えてから行く〜♡」
ギルはそそくさと部屋を出ていった。
***
ディルフとふたりきりになると、サクラは急に恥ずかしさを感じる。
そんな彼女に、ディルフは悪魔の姿のままそっと手を伸ばし、頬に触れる。
「怖いでしょうか?」
とても優しい声だった。
「……怖く、ないです……」
少し動揺しながらも、サクラはその手を拒むことはなかった。
ディルフはサクラの首筋をなぞり、腰に手をまわして体を引き寄せる。
「本当に……困りますね」
そう微笑むと、彼はそっとサクラの額にキスを落とした。
***
――ギル邸
そのころギルはというと、でっかい会に向けて服選びにいそしんでいた。
「ん〜、どれがいいかなぁ〜……せっかくだからオシャレしてかないとっ♡」
ルンルンでクローゼットを漁り、
「これに決めたぁ♡」
と、露出度の高い(かわいい)服を選んで、冥界城へと向かっていった。
そして――
ディルフとサクラもまた、冥界城へと向かうのであった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
優しげでどこか浮世離れした冥界王・カルマ。
ギルやディルフとはまた違った、ふわっと包み込むような存在感で、今後も重要な役どころになります。
次回は、冥界の上級悪魔たちが一堂に会する「特別会議」が開幕。
サクラの運命や、地上の異変、ゼファーの影もちらつき始めて……?
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