第5話〜繋がる夜〜
お読みいただきありがとうございます。
今回は少し甘くて、ちょっぴり大人な夜のお話です。
心の距離が少しずつ縮まる、そんな一夜を描きました。
コンコン―――
ドアが開くと、そこには先ほどのキリッとした姿とは違い、濡れた髪を下ろし、ガウン姿のディルフがいた。
「…!!? ご、ごめんなさい!」
サクラは耳まで真っ赤になり、慌てて顔を両手で覆う。
「……どうしました?」
先ほどと同じ穏やかな微笑みを浮かべながら、ディルフが問いかけた。
「…あのっ、私ひとりであの広い部屋にいると落ち着かなくて…怖くて……。私は床でも構いませんので、同じ部屋にいちゃダメですか…?」
真っ赤になりながら話すサクラを見て、ディルフは思わず笑みをこぼす。
「あの……だめ、ですか…?」
「えぇ、構いませんよ。ですが、床はいけません、こちらへどうぞ」
ディルフは優しくベッドへと誘う。
「あ、え、あの…私ベッドじゃなくていいです!」
「表情がコロコロと変わって面白いですね。とても可愛い人だ。それに……。いいえ、何でもありません」
少し間を置いてから、彼は冗談めかして言った。
「今日は怖い思いをしたんですから、同じ布団で寝ましょうか?」
その言葉に、サクラは本当にベッドに上がってきた。少し驚いた様子のディルフは、紳士的な笑みを浮かべる。
「サクラさん…あなたのその天然さ、危ないですよ。本当に」
「え、ごめんなさい!でも一緒に寝ても良いなら一緒に、ね、寝たいです…」
「もちろん、構いませんよ。ですが、私も男なので…そこは分かっていますか?」
頬を赤らめながら小さく頷くサクラ。その様子に、普段冷酷な悪魔の彼から、思わず本当の微笑みがこぼれた。
もしかすると、サクラの持つ魔力のせいなのかもしれない。本人も気づかないうちに、魅了されているのだろうか。
二人でベッドに入る。
シーツに肌が擦れる音が静かに響く。
「サクラさん…あなたからとても良い香りがします…」
髪をそっと撫でながら、ディルフが低く呟く。
「えっ?!あ…」
サクラは戸惑いながら体を強張らせる。
「また赤くなってますよ」ふっと笑う。
「あなたと一緒にいると、触れたくなってしまう……ダメでしょうか?」
ディルフはサクラの頬を優しくなぞる。
小さく首を横に振るサクラ。その仕草がまた愛しく思えてしまう。
ディルフの指先が、割れ物を扱うように慎重に、そして丁寧にサクラの身体に触れていく。触れるたびに、胸の奥がじんわりと熱を帯びていった。
蝋燭の灯りが揺れ、夜はゆっくりと深く堕ちていく。
やがてその世界には、二人の鼓動と重なり合う吐息だけが残された――。
*
――朝。
地上の眩しい光が街を照らす頃、ディルフとサクラはベッドの上にいた。
「き、昨日は、あのっ…あ、ありがとうございます…」
顔を真っ赤にしながら言うサクラに、ディルフは微笑みながら返す。
「私こそ、ありがとうございます。コーヒー、淹れてきますね」
そう言ってリビングに向かうディルフ。
すると――
ガチャっ、と玄関の開く音がした。
「た〜だいまぁ〜! はぁぁあ、疲れたぁ〜」
酒と薬の匂いをぷんぷんさせて、ギルが帰ってくる。
そして、ふと鼻をひくつかせた。
「ん? まって…なにこの匂い…?!
……ディルフちゃん、人間連れ込んでな〜にしてたの?♡」
ディルフはため息をつきながらサクラに声をかける。
「サクラさん、こっちへ来てくれますか?」
(え、あのサイコ悪魔のディルフが…?)とギルは内心驚きつつ、サクラと対面する。
「わ…わたし、さ、サクラで…」
サクラが名乗り終える前に、
「わあ!!すっごい可愛い♡ なになに?
夜はどうだったぁ〜?♡
てか、めっちゃ良い匂いする…なんなの?この子」
テンション高く話すギルに驚いて、サクラはディルフの背中に隠れる。
「調査の件と関係があると見ている。……それに、この魔力、何かある…」
「ん〜、じゃあ、冥界連れてこっ!♡」
「おい! 何も知らないまま連れて行けるか!」
「ディルフさん……〝めいかい〟ってなに?」
サクラが小さく問いかける。
ディルフは少し考えた。今回の地上での魔力感知とサクラとの関連性を感じ、ギルの案も一理あると判断した。
「サクラさん。これから先、私について来てくれませんか?」
その言葉はまるで、プロポーズのようだった。
顔を赤らめながら頷くサクラ。
「じゃ、行くよ〜ん!」
ギルが魔力を解放し、冥界へのゲートを開く。
「?! ディルフさん……コレって???」
「危ないことは起きませんよ……」
ディルフはそう囁きながら、そっとサクラの肩を抱き、ゲートへと足を踏み入れた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
今回はディルフとサクラの距離が一気に縮まる回でした。
静かでやさしい夜の雰囲気と、ギルの騒がしい登場……。
次回からいよいよ冥界編、始まります!
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