第16話〜淫魔の刻印〜
今回は、冥界の夜をたっぷり描きました。
ビートの独占欲と、サクラの覚悟。
冥月の光の下、二人の距離はもう戻れません〜!
― ビート邸 ―
屋敷の大きな扉が音を立てて開くと、
真っ先に駆け寄ってきた影があった。
「……サクラ様……!」
低く、しかしどこか安堵の滲む声。
それはビートの忠実な従者・ボルムだった。
「……ボルム、私は大丈夫だよ」
その笑顔にボルムは一瞬まばたきをし、
胸を撫でおろしたように息を吐く。
「……サクラ様、彼にお気持ちは……伝えられましたか?」
問いかけにサクラはわずかに視線を伏せ、
声を絞り出すように小さく答える。
「……はい……でも、ディルフさん……とても……」
「……サクラさん、彼も上級悪魔です。
そう簡単に壊れるほど弱くはありませんよ」
その時、不意に背後から温かい気配が近づいた。
振り返ると、残酷なほど美しく微笑むビートが立っていた。
ゆるやかな微笑と共に、サクラの肩に触れる手は優しいのに、その奥底には鋭い支配欲が見え隠れする。
「……さあ、中へ入りましょう。
この屋敷には、あなたが休める場所がいくらでもあります」
そう囁く声は、耳にまとわりつく様な甘さを帯び、
サクラの胸をくすぐる。
⸻
部屋へと案内され、扉を開けた瞬間――
そこには、以前訪れた時よりもずっと整えられ、
まるで彼女のためだけに作り替えられた空間が広がっていた。
「……これ……」
驚きの声を漏らすサクラの後ろから、ボルムが微笑む。
「ビート様のご厚意ですよ。
サクラ様が安心して過ごせるよう、細部まで手を加えられたのです」
思わず頬を熱く染めるサクラ。
その視線の先で、ビートは柔らかく微笑み、
低く落ち着いた声で告げる。
「では……私は書斎にいます。
何かあれば、遠慮なく呼んでください」
静かに去っていく背中を見送りながら、
サクラは胸の奥で小さく呟く。
(……ここまでしなくてもいいのに……)
⸻
ボルムはそんなサクラをじっと見つめ、
口元に悪魔らしい笑みを浮かべる。
「サクラ様……ビート様がどのような悪魔か、
もうお分かりでしょう。
……とても優しく…なによりー
悪魔として欲を満たす為に手段は選ばない。
サクラ様を大切に思ってはいても、その欲を抑えていられる時間には、限りがあるのですよ」
その意味を理解した瞬間、
サクラの頬にじわりと熱が広がった。
「ボルム…私ちょっと休みたい…」
「そうですね…ではお着替え用意します」
ボルムは微笑みながらサクラの着替えを手伝った。
「…?!…ボルム?この服なに?!」
その服は随分と際どい。
「サクラ様の体がさらに美しく見えるよう私の方で用意させて頂きました」
ニコッと微笑むボルムに何も言い返せず、そのままベッドの上に寝転ぶ。
「ボルムありがとう… …少し、眠るね…」
そう言いサクラは眠ったのだった
― 冥界の夕刻 ―
コンコン、と控えめなノック。
その音と共に目覚めたサクラは目を擦りながら扉へ近付く。
「……はい」
扉を開けると、そこにはビートがいた。
柔らかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「サクラさん…起こしてしまいましたか?」
「……ぁ、ビートさん……」
「良ければ……少し、お話をしませんか?」
部屋へ招き入れると、彼はまっすぐに視線を絡め、
手を伸ばしてサクラの頬にかかる髪をそっと払う。
「………サクラさん」
ビートは怪しく微笑み、サクラの着ている服を見てから首元を細く綺麗な指でなぞる
「ボルムの仕業ですかね…?」
耳元で響く低い囁きに、サクラの心臓は早鐘のように打ち始める。
「……はい……ボルムさんが選んでくれて.…」
恥ずかしがりながら、露出した部分を隠す様に手を添えるサクラの額に軽く口付けをする。
その一瞬で、全身が熱を帯びていく。
「……本当に……困りますね。
抑えが効かなくなりそうです」
そう告げるビートの瞳は、優しさと危うさの境界で揺れていた。
「…ビートさん…私……嫌じゃ、ない…です。」
ビートはサクラの瞳を見つめる。
美しい悪魔の瞳にサクラは吸い込まれそうになる
ビートは今まで押さえていた魔力と欲が体から流れ出るのを感じた。
サクラの腕を優しく引きベッドに導く。
覆い被さる様にサクラの上に乗るーー
「…っ…ビートさんっ…」
ビートの魔力に包まれ体全体が熱く、疼く。
「……怖くは無いですか?」
耳元で囁くその甘い声に、サクラは頷く。
部屋の明かりは落とされ、冥月の薄暗く妖しい光だけが、部屋に差し込む。
衣擦れの音が夜の静けさに混じり、露わになった肌を冥月の光が照らす。
サクラは視線を逸らそうとするが、顎を指で持ち上げられ、逃げ場のない瞳に呑まれるように視線を合わす。
「もう、引き返せませんよ…」
囁きと同時に、唇が再び重なった。
長く、深く、息を奪うような口づけ――
その間に指先は迷いなく肌の曲線をなぞっていく。
そして、ビートの魔力と熱が深く押し寄せる。
一度繋がった感覚は途切れる事はなく、サクラの中に深く跡を残す。
ビートは何度も名を呼ぶサクラの声を、優しく唇で塞ぎ、その熱をさらに深めていった。
2人の吐息が溶け合い、冥界の闇にゆっくりと溶けて消えていったーー
ここまで読んで頂きありがとうございます!
堕ちましたね。
次回は空気をぶち壊しに“彼”がやって来ます。
お楽しみに〜