第10話〜HELLS CLUB・後編〜
魅力的で誘惑的な魔力に包まれる冥界1危険なクラブ、HELLS CLUB 。
そこで出会った上級悪魔の〝ビート〟…
酔い潰れたギルの横でサクラとビートの危険な駆け引きが…?
前回のHELLS CLUBの後編になります。
ーー時は少し遡る。冥界城、ドーマの私室にてーー
ディルフは父であるドーマから、一人残るようにと告げられていた。
「父上……何か、気になることでも?」
ディルフが慎重に問うと、ドーマは鋭く光る眼差しで彼を射抜いた。
「……お前、あの人間に情が湧いたわけではあるまいな」
「……!」
「得体の知れん小娘だぞ。今後、生かしておくとも限らん。場合によっては――処分対象にもなり得る」
その声には、容赦も遠慮もなかった。
「神の血を引くお前が、なぜそのような愚かなことを……」
ドーマは、冥界王カルマの直子にして、獣性を宿す悪魔でもある。彼の嗅覚は、冥界でも群を抜いて鋭い。
サクラが冥界議会に現れたその瞬間――彼女とディルフとの繋がりは、既に見抜かれていたのだ。
ディルフの表情がわずかに歪む。
「……分かっています。
ですが彼女から溢れる魔力とは別に、私は……彼女の“人間性”に興味があるのです」
「ほう……お前がそこまで入れ込むとはな」
ドーマは重く低く息を吐き、再び警告を与える。
「気をつけろ、ディルフ。お前は冥界において重要な戦力だ。
女に心を囚われて、隙を見せた時――それがお前の終わりとなりかねん」
そう言い残すと、彼は小さく舌打ちしながら訓練場へと歩き去っていった。
「……(あの人間の魔力に惹かれた、か)」
その背中を見送りながら、ディルフはしばらく立ち尽くしていた。
サクラへの想いを否定しようとするたび、自分の未熟さばかりが浮かび上がる。
だが、感情は――もう、引き返せない場所まで進んでいた。
頭を冷やす必要がある。
そう判断したディルフは、地上へと向かった。
冥界の医師でありながら、地上でも人間の医療に従事する彼にとって、その“逃げ場”は意外と近くにあったのだ。
(……サクラのことは、ギルに任せておけば問題はないだろう)
ーー彼はそう信じ、地上での仕事に戻っていった。
ーーそして、時は戻り。冥界娯楽施設《HELLS CLUB》ーー
ギルが魔薬で酔いつぶれ、カウンターに突っ伏している間。
サクラは、カウンター越しに立つビートと向き合っていた。
「まったく……困りますね」
ビートはギルの様子を見て、微笑む。
「サクラさん。何か他に飲まれますか?」
優しく、落ち着いた声。
その声音だけで、サクラの心拍が上がる。
身体が熱く、ふわふわとして――クラブに入った時から、ずっとこの感覚が続いていた。
それは、まるで。
支配されているような、導かれているような――なのに、それが心地良く、気持ちよくすら思えるのだった。
「……あの、ビートさんの魔力って……とても……その……気持ちいい、ですね……」
天然すぎる直球の感想。
ビートは思わず、本物の笑みを零した。
「それは褒め言葉として、受け取っていいのでしょうか?」
「は、はいっ……!」
「……私は淫魔の上級悪魔ですので。相手の心を惑わせ、魅了し、魂や肉体を頂くのです」
静かに、それでも真っ直ぐに自分の“本質”を語るビート。
サクラは、それを受け止めようとして、言葉がごちゃごちゃになる。
「……なるほど、だからビートさんって、こんなに綺麗でかっこよく見えるのかな……?
……じゃ、じゃなくて! 淫魔だからってわけじゃなくて! そもそもかっこいいです!」
何を言っているのか、自分でも分からなくなるサクラ。
ふと顔を上げると、ビートと目が合った。
吸い込まれそうな瞳。
あまりにも美しいその視線に、思考がさらにぼやけていく。
「……あの、ビートさん……こっち、来ますか……?」
その問いに、ビートは微笑む。
「……サクラさん。あまり、私の目を見つめないほうがいいですよ?」
にこりと笑ったその瞬間――サクラはハッとして視線を逸らした。
(わ、私なに言ってんの〜〜!!)
「まぁ……こっちの方が、あなたを近くに感じられますし、いいかもしれませんね」
視線を逸らした隙に、サクラの隣にふわりと現れるビート。
「えっ、ビートさん?! ち、近付きすぎちゃダメなんじゃ……」
「嫌なら退けますが?」
微笑むビートに、サクラは顔を赤らめ、横に首を振った。
その瞬間――
ガタンッ!
突如、ギルがカウンターで身を起こした。
「ふぁぁあ〜、寝ちゃってたぁ〜」
目を擦りながら、ビートとサクラの距離に気付き――
「……ん? なになに〜〜? 俺が寝てる間に距離縮まってるじゃ〜んっ♡」
にやにやと笑うギル。
サクラは、これ以上の雰囲気はまずいと思い、ギルの腕を掴んで立ち上がる。
「あっ、あのっ! 今日はありがとうございましたっ! ギルも起きたので、帰ります!!」
そう言ってギルの手を引き、クラブを後にした。
ーー《HELLS CLUB》門前ーー
「サクラぁ〜そんなに俺の手、握っちゃって〜♡」
「……っ!」
パッと手を離し、サクラは真剣な顔でギルを見つめる。
「ギル……ビートさんって、いつもあんな感じなの?」
「ん? あんなって?」
「なんだか、そばにいると……体が……その……」
「火照って、感じちゃう?♡ わかるぅ〜〜」
ギルは笑いながら肩をすくめた。
「ビートの魔力って、そういうのなの♡」
「…………」
「……まぁ、ビートがあんなにサクラに近付くとは思ってなかったけどねぇ」
ギルは言葉を続ける。
「一応、守る立場でもあるから“手は出さない”とは思うけど……
サクラをその気にさせるくらい、俺たち悪魔にとっちゃ余裕だからね〜♡」
ギルは冗談めかしながらも、どこか本気のような口調で語る。
「ビートはその中でも特に、相手を惑わすことに特化してるし。
サクラも……まぁ、一応気をつけてね。……無駄かもだけどっ♡」
サクラは頬を赤らめながら、小さくコクリと頷いた。
そうして、二人は静かにディルフ邸へと帰っていったのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ビートはサクラを狙ってますね〜
ギルも面白がって、大して守る気はないですよね。
さぁ…ディルフの葛藤はどうなるか?
サクラの気持ちは今どこにあるのでしょう。
今後の展開にじわじわ効いてきそうですね…
X(旧Twitter)にてHELLS CLUBのギル×サクラのイラスト上げてるので、是非覗いてみて下さい。
プロフにリンク貼ってます〜