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【SS】第7話 カテイ【修正ver.1.0】

作者: 小指の人

※6/12 00:22

・文章、誤字脱字を修正しました

・表現方法を変更しました


※6/11 00:15

・「間引きを行ったのは誰か」を明記しました

・「ベビーブーム」の引き金を追記しました

・言い回しや表現方法を修正しました

この国は、多子若齢化(たしじゃくれいか)に頭を悩まされている。

多子若齢化とはいわゆるベビーブームのことであり、政治的な背景から、雇用の促進や経済的負担の緩和を引き金とし、自立する若者が増えたことで出生率が爆発的に上昇した。

しかし、その反動により職に就くことができず、自立が困難になる若者が増えたのも、よんどころない事情であろう。

だが、家計が圧迫された末に非人道的な間引きが各家庭で行われるなど、心いたたまれない問題が全国に暗い影を落としていた。

そんな社会問題を解消すべく、国会においては昼夜を問わない議論が繰り広げられていた。


繰り返し()り行われた議論の末に、今後の方針が決定した。

現代のテクノロジーを最大限に生かすことを前提とし、公的機関から全国の新婚夫婦の元へと、成長するロボットを与える運びとなった。

そのロボットは三年の間に赤子から成長し、家族の一員として過ごすことになる。

これは平等に与えられた義務であり、三年間の時を経て、育児の資格があるか否かを決定するための重要な取り組みであった。

しかし、奮闘したであろう三年間が終わるとロボットは廃棄しなければならないという、厳しい決まりでもあった。


とある新婚の夫婦はそれが楽しみでならなかった。

与えられたロボットに人間らしい名前を付け、共に学び、共に遊び、時には(しつけ)を行い、愛情を注いで育てた。

二年が過ぎたころ、法案が可決された折には首を長くして待っていた子育てだったのだが、厳しい規則に違和感を抱き始めていた。


自分たちが愛情を注いで育てたロボットを、なぜ手放さなければならないのか。


妻は特に反対の意思を示し、出産や子育ての判断となる指標をロボットに推し量らせるのはおかしいのではないか、と考えていた。

一方の夫はというと、妻の意見に耳を傾けつつも国が定めた法律を天秤にかけ、後者に重みを置かざるを得ない状況であると頭では理解していた。


三年が経過しようとしていたある日のこと、夫婦の元に国からの通知が届いた。

そこには次のような文面があった。

「本日を持ちまして、あなた方夫婦には育児の資格が無いものと判断いたしました。なお、この通知から三日以内に、ロボットを回収しに伺います。」

だが、夫婦にとっては驚く内容ではなかった。法案が可決した日から、嬉しさとは裏腹に覚悟を決めなければならない現実を、自然と受け入れていたからだ。


とはいえ、三日後には手塩にかけた我が子が連れ去られてしまう。

国からの通知を読んだ夫婦は、慌てて家を飛び出した。

愛する我が子を渡すまいと、息も絶え絶えになりながら必死になって走った。


しかし、とうとう公的機関の使者に追いつかれた二人は、涙を浮かべて我が子を抱きしめた。

無情にも連れ去られてしまう我が子を目の前にし、泣き崩れる妻を夫は辛うじて支えるのであった。

「やっと授かった我が子なのに」と、涙と共にこぼれた妻の言葉を両手いっぱいにすくい上げた夫は、「私たちにはあり得ないことだったではないか。少しでも良い思い出をくれた我が子のために、しかりと送り出してあげよう。私たちはすぐにまた三人で暮らせるようになる。」と、妻の耳元でか細く(ささや)いた。


頭に霜を頂いた老夫婦は、晩節に一片の輝きを与えてくれた国に対して感謝の意を表し、三人で過ごした自宅へと、蹌踉(そうろう)とした足取りで引き返すのであった。

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