第66話 横槍
慌てて、ヒヨリさんがボクから離れた。
「いいんです。えっと。ありがとうございます、ランさん」
ボクが礼を言うと、ランさんは「いやいや」と手をヒラヒラさせた。
「あんたが無事なら、それでいいんだよ」
ドラゴンの里にある回復の泉は、ダンジョンにあるものとはケタ違いの効果を発揮するという。死にかけでも、たちどころに回復してしまうらしい。ただ、冒険者のように特殊な訓練を受けている者でないと、かえって身体を悪くするという。
「それにしても、見せてもらったよ、ツヨシ。あんたの鎧通し」
「ほぼ、不意打ちに近かったですけど」
ワラビに剣に擬態してもらって、スキルを打ち込んだのだ。魔王戦のときにやったのと、ほぼ同じ戦法である。
「それでも、夫にヒザをつかせたんだ。大したもんだよ、あんたは」
続いてランさんは、気絶しているメイヴィス姫も、服のまま泉につけた。
姫は、コンラッドとも分離している。
彼もろとも、ランさんは回復の泉の中へ放り込んだ。
「ふうう。生き返ったわあ」
『同感である。ドラゴンのブレスをまともに受けて、五体満足でいられることのなんたる幸運か』
メイヴィス姫とコンラッドが、瀕死の状態から元に戻る。
「ドラゴンの里って、回復の泉もすごいのね!」
足湯だというのは、黙っておこう。
「女将、動画がすごいことになっています」
再生数やコメントが、見たこともない数になっていた。異世界でも配信されているから、とんでもない数値を叩き出している。とても、目で追いかけきれない。
といっても、ほとんどが『うおおおお』とか『やったー』くらいのコメントだけど。
『鬼瓦ワラビちゃん、すこ』
これ絶対、石田さんだよね? スマホを腰に隠しているし。
「女将! 巨大な飛行物体が大量にこちらへ向かっています。この反応は、同族ですね」
「なんだって?」
仲居さんからの報告に、ランさんが顔を歪めた。
「どうしたんです?」
「おおかた、さっきの勝敗を不服と思ったんだろうね。直接殴り込んできやがった」
たしかこの戦闘って、生放送だったんだっけ。それを見たドラゴンたちが、乱入してきたと。
「見ろよツヨシ! あれ!」
センディさんが、西の方を指差す。
青い塊が、こちらに向かってきた。クジラかと思ったけど、クジラなら空を飛ばない。
あれは、ドラゴンだ。ドラゴンの大群が、こちらに飛んできている。
空を、ドラゴンたちが覆い尽くす。すごい光景だな。
「おいおい。これ、全部相手にしろってか? 勘弁しろよ」
さすがにセンディさんも、刀に手を置く気力すらない。ただ、ドラゴンだらけの空を見上げている。
「ごもっともね。どう考えても、勝ち目はないわ」
コルタナさんも、杖を手から落っことす。
「話し合いってわけには、いかないのでしょうか?」
「それは、ランに任せましょう」
ヒヨリさんとピオンを、メイヴィス姫が抱きしめる。
「マスターツヨシ、お守りします」
使命感からか、ワラビが頼もしい言葉を放った。
だが、ボクはワラビを制する。
「いや。いいんだ。ランさんに任せようじゃないか」
どれだけ相手が敵意を持っていても、すぐに攻撃はしてくるまい。それは、ドラゴンのプライドが許さないだろう。
「なんだい! 勝負はもうついているだろうが!」
空にいるドラゴンたちに向かって、ランさんが怒鳴り散らす。絶望的な景色だと言うのに、まったく臆していない。この場にいるドラゴン全員をブチのめすかのごとく、怒りをあわらにする。
やっぱりショウトウルより、ランさんのほうがおっかないよね。
「納得できるかえ! どちらかが倒れるまで戦うのが、ドラゴンとのケンカというものじゃろう!」
一族の長らしき、髭をはやしたドラゴンが、前に出てきた。
血の気が多いドラゴンたちが、「そうだそうだ」と息巻く。
「不甲斐なき、ショウトウルよ! 人間相手に土をつけるとは!」
「んだと? 俺様のジャッジに納得できねえってんなら、俺様がまとめてテメエらの相手をしてやんよ!」
ショウトウルが、リーゼントを直した。
「なんだ? 俺様にだけやらせておいて、自分たちは高みの見物を決め込むってか? で、弱っているところを叩くと。いつからドラゴンは、そんな日和った戦い方になった?」
「黙れ! 貴様がとどめを刺さんというなら、我々が仕留める!」
髭ドラゴンが、ボクに突撃してきた。他のドラゴンも続く。
「クソジジイが。悪いな、ツヨシ。俺様が追っ払うから、お前たちは逃げろ」
「いえ。ボクも戦います」
自分が撒いた種だ。ボクが戦うのが筋だろう。
「もういっちょ行くよ、ワラビ。鬼神のヨロイ!」
ボクは再度、鬼神のヨロイを着込んだ。ワラビも、鬼瓦スライムに変わる。よし。ヨロイは、元通りになっていた。さすが、鬼神の力が宿るだけある。
「な、【鬼神ヨロイ】じゃと!?」
「あのテイマーが連れているやつ、【鬼瓦スライム】だ!」
ブルードラゴンたちが、ボクたちの姿を見て驚く。
「すいませんでしたーっ!」
着陸と同時に、ドラゴンたちが土下座をした。




