第60話 八層《エンドコンテンツ》
ボクたちは、古城跡のダンジョンに来ていた。ここが、いわゆる「八層」である。
「マスターツヨシ、来ました」
「よし! ワラビ斬り!」
ワラビの合図で、ボクはヒヒイロカネの剣を振った。
グレーターデーモンの群れを、一刀で切り捨てる。ワラビと融合させた剣で、一気に殲滅した。
「最初は一撃でぐったりしていたけど、慣れてくるもんだね」
呼吸を整えて、戦況を見極める。
「はい。マスターツヨシは、相当に強くなっています」
「けど、それ以上に八層はハードだ」
ボクたちのダンジョン攻略は、八層にまで及んでいた。
人が入り込める限界は、七層までだと言われている。
八層は、異世界に近い場所と言われていた。この階層の強さは、以前魔王ルクシオを討伐した裏ダンジョンに匹敵する。ボクらは、魔族だらけの八層を攻略し始めた。
飛び回っている蝶一匹ですら、四層のボスよりも強い。鱗粉を撒き散らし、精神異常攻撃を与えようとする。七層で鍛えていなかったら、全員がお互いを敵と見なして攻撃していたことだろう。
「こんな攻撃が、エルフに効くと思って?」
コルタナさんが、風の魔法を乗せた回転蹴りで、蝶の大群を切り刻む。
後始末は、ヒヨリさんのテイムスライムであるピオンが担当する。蝶型の魔物が好む花を、ピオンは次々と食べていった。
「みつのあじがするー」
「よかったですねぇ」
ピオンの食べっぷりに、ヒヨリさんも満足げだ。
ドラゴンを前にしたためか、敵を前にしてもまったく恐怖を感じない。八層と言えど、魔王ルクシオほどの強さを持つ敵はそうそういない。やはり、ルクシオや佐護の強さは、本物だったのである。まがい物の力では、なかったのだ。
「大丈夫なのか? もうそろそろ、敵さんの本拠地なんだろ?」
「いつかは来なきゃ、いけなかったのよ」
センディさんの質問に、メイヴィス姫が答えた。
八層では、魔物も本来の強さを発揮する。敵のテリトリーに、入ったことになるわけだ。つまり、異世界に近づくことになる。
この領域で魔物を抑え込んでおかないと、闇の勢力が地球へ溢れてきちゃうのだ。
我がパーティ最強のメイヴィス姫でさえも、八層までくることはめったにない。八層のモンスターとなれば、逆に地球への被害が及ばないからだ。魔素の少ない地球では、魔族が活動できない。八層でおとなしく、配下のモンスターに指示を飛ばすしかない。
ガッションガッションと、奇妙な歩行音が鳴り響く。
音の方へ、視線を向けた。
お金持ちの家に飾ってあるような鎧武者が、同じような武者を引き連れて歩いてくる。
「おいおい、甲冑のバケモンが現れたぜ」
センディさんが、刀に手をかけた。
武者のこめかみからは、角が生えている。あの質感は、本物の角だろう。ヨロイもなんだか、モンスターの身体をムリヤリ改造したような構造だ。
「気をつけて。あいつは、【デーモンロード】よ。古代日本では、【オニ】と呼ばれていたらしいわ」
大昔のサムライの手によって退治された、古の存在だという。
「アークデーモンも、連れているわ」
デーモンの種類は、動物型だったり鎧武者だったりと様々である。あのデーモンのデザインは、戦闘に最適化されているらしい。
アークデーモンは、遊園地ダンジョンに現れたボス三人衆に匹敵する。六層のボスクラスが、七層では中ボスとして、八層ではザコとして現れるのだ。
デーモンロードの強さは、ちょっと弱いルクシオに匹敵する。
「日本のダンジョンにおけるモンスターの強さは、あのオニたちが基準になっているのよ」
オニより強いモンスターを抑え込むため、異世界側はダンジョンに階層を作ったらしい。
ボクたちに向けて、鎧武者が指をさす。やる気だ。
「ワラビ、親玉を倒すよ!」
「承知しました、マスターツヨシ」
グレーターデーモンの剣や槍をすり抜け、大ボスに肉薄する。
ボクとワラビで、多角的に攻め込んだ。相手の死角をついて、剣を振り下ろす。
デーモンロードは攻撃を見もしないで、ジャストガードしてきた。
「くううう、さすが古のオニ!」
ルクシオから力を得た佐護も強かったが、こちらは歴戦の戦闘を重ねてきた本物である。魔力総量は、ルクシオのほうが上だ。しかしオニの積んできた戦闘経験は、段違いだろう。まるでスキがなく、こちらの攻撃を寄せ付けない。
「魔法で叩く! 炎と風を組み合わせて、【ファイアーストーム】!」
攻撃魔法を繰り出して、遠距離から攻め込む。
それでも、オニには通じない。剣で薙いだだけで、魔法が霧散した。
「いいともっ! その動きも読んでいたから!」
ワラビに、オニの足元に潜ってもらう。このまま一気に食べてもらえれば。
しかし、ワラビのブラックホール作戦も、ジャストガードで防がれる。
「強いです!」
「たしかに!」
戻ってきたワラビには、かすかに傷が入っていた。ミスリル製のスライムに、傷をつけるなんて。傷はすぐに塞がったものの、敵の強さを再確認する。
「ワラビ、ごめん」
「お気になさらず」
「違うんだ。こんな絶体絶命のときなのにさ、ワクワクしない」
つくづく、自分が戦闘に不向きな性格だと思い知った。
「わかっています。マスターツヨシ」
ボクがどんなに混乱しても、ワラビは冷静でいてくれる。
「あなたが戦闘狂だったら、ワタシはあなたについていきません」
「ありがとう。みなさん!」
ボクは、みんなに声をかける。
「撤退します。逃げましょう」
結局ボクたちは、攻略をあきらめてギルドに戻った。




