第55話 再現ドラマ
「ヒヨリさん! 無事ですか?」
「ん? あ、ごめんなさい、ツヨシさん。おいしくて、夢中になっていました!」
慌てて口を拭いて、ヒヨリさんがペコペコと頭を下げる。
一方、ピオンはずっと「おいしーおいしー」と、カレー皿に身体を乗せていた。
「うちはもっと豪勢な食事も用意できるんだけど、誘拐だからね。食べやすいものを出してやってる」
「おかわりー」
「あいよ」
ピオンのリクエストに応えるかのように、ランさんが手を叩く。
仲居さんのような姿の女性たちが、ゾロゾロと現れた。仲居さんも頭に角が生えている。おそらく彼女たちも、竜人族なんだろう。
「カレーのおかわり、二人分。アタシももらおうかね」
「かしこまりました」
すぐに仲居さんたちは、カレーのおかわりを持ってくる。ヒヨリさんの分も持ってきた。
「なにもされていませんか?」
「はい。なんともないです。竜人さんたちには、よくしてくれています」
カレーを食べながら、仲居さんたちに髪を乾かしてもらっている。
「あのー、首にタオルを巻いているんですが、どうしたんです?」
「これは! さっきまで、オフロに入っていて!」
カメラのすぐ隣が、露天風呂になっているらしい。
それでショウトウル、「あんな姿を」とかほのめかしていたのか。
「着替え中だったのさ。まあ間仕切りはしてあるんだけどね、恥ずかしいだろうよ」
まぎらわしい……。
「どうして、捕まったの?」
「実は、魔族に追われていたのです」
「魔族!?」
「逃げていたところを、ドラゴンさんたちに助けていただいて」
一層に魔族が現れるなんて、前代未聞である。
「もっと詳細を、教えていただけませんか?」
ギルド関係者である石田さんも、詳しく聞きたがっていた。
「それは、動画の様子を見ていただければ」
ヒヨリさんが、空中に指を立てた。動画再生の項目を、拡張現実で表示する。あとは再生バナーをクリックするだけなのだが……。
「……あれ?」
何度やっても、再生されない。再生自体はしているのだが、動画は中央にグルグルが回っている。いわゆる、遅延状態だ。
「ナノマシンに、ノイズが走っているようですね」
石田さんによると、この行為は魔族の常套手段らしい。周囲に電波障害の結界を張って、自分たちの姿・言動を特定させないようにしているのだ。
「じゃあ、ウチらで再現ドラマでもやるかねえ?」
またランさんが、手をパンパンと叩く。
ゾロゾロと、仲居さんと清掃員の男性が団体でやってきた。
「この子の映像を吸い上げたから、再現ドラマをやるよ。お嬢ちゃん役はあんた。スライム役はあんたがやりな」
ランさんが、指を鳴らす。
仲居さんと清掃員さんの頭に、紙でできた似顔絵を頭が乗っかった。ヒヨリさんとピオンの絵だ。
他の人の頭には、魔族らしい二人組の似顔絵が、清掃員のリーダーには、ショウトウルの似顔絵が乗る。
「じゃあ、再現ドラマ、スタート」
パンと大きく、ランさんが手を叩いた。
「ひゃー」
ヒヨリさん役とピオン役の人が、小走りで部屋を一周する。その後ろを、魔族が追いかけていた。
「まてまてー。スライムを連れた冒険者は皆殺しだー」
そんな状況に、なっていたのか。
「待てい!」
ドンと、魔族の前にショウトウル役の清掃員さんが立つ。
「ボアー」
清掃員さんが、大きく口を開けた。ブレスを吐いた仕草をする。
モウ一体の魔族が逃げようとしたが、ランさんご自身が登場し、ブレスを一発。
魔族が灰になったのを表現するため、魔族のイラストをグシャグシャにした。そのまま魔族役の従業員は、本来の仕事に戻る。
ブレスに吹き飛ばされ、ヒヨリさんは木に頭をぶつけて気絶した。
「魔族が、一層に現れるとはな」
「体に負担がかかってでも、スライムを連れた冒険者を仕留めようとするなんてね」
魔力の塊である魔族は、魔力が乏しい一層のダンジョンではまともに行動できない。エネルギー供給を受けられないからだ。
「竜人は純粋なドラゴンと違って、人と交わっています。そのため、ダンジョンから受ける影響が少ないのです」
石田さんによると、そうらしい。
「どうするんだい? ギルドに持ち帰る?」
気絶しているヒヨリさんを、ランさんが抱え上げた。
「いや。スライムを連れた勇者は、オレサマが倒さないといけねえ。やつには、借りがある」
「そうだけどさあ!」
「この子は、その仲間だろ? 誘拐したら、勇者が必ず助けに来る」
ランさんは少し考えたが、「危険な目に遭わせない」ことを条件に、ヒヨリさんを連れて行くことにした。
ピオンはヒヨリさんをかばっていたが、ランさんに抱え上げられてしまう。
「アタシら竜人は、ダンジョンにある『回復の泉』を管理しているのさ。その調査で魔族の気配を察知して、このお嬢ちゃんを連れて帰ったってワケ」
ヒヨリさんはムリヤリ連れて行かれたのではない。ショウトウルとランさんが話し合った結果、連れていかれたのか。
「なぜ、あなた方と戦わなければいけないんです? ボクと因縁があるように言っていましたが」
聞きたいことは、山ほどある。ボクはひっきりなしに、ランさんへ質問を投げかけた。
「アタシらは、あんたたちに倒されたワイバーンの親分……っていえば、わかるかい?」
ボクは、ハッとなる。




