第53話 ヒヒイロカネの剣
半分になった金の盾を、センディさんに見せる。
「ソードでいいんだな? アーマーじゃなくて」
「はい。ワラビと相談して、決めました」
「わかったぜ、ツヨシ。じゃあ」
「はい。冒険者は続けます」
ボクはテイマーだ。ボクが死ぬと、ワラビが死ぬ。ならば、ボクの生存率を上げた方がいい。
ワラビは、ミスリルソードをすべて食べている。そのまま、ヒヒイロカネも半分食べてもらった。残ったヒヒイロカネで、剣を作ってもらうことにした。
「なら、何も言わんさ。待ってろ」
センディさんが、自分の武器を下げようとする。
「待て」
たくましい老人が、センディさんの手首を掴んだ。いつの間に、ここに現れたんだ?
「お前は、自分の剣を打て。この者の剣は、ワシが打ってやろう」
「おやっさん」
センディさんが、老人の方を向く。
たしか、この人はセンディさんの師匠とか言っていたっけ。
「我が名は神室 弦太朗。ツヨシ殿、ワラビ殿、甥のセンタロウが世話になっておる」
カムロさんは、センディさんのお父さんの弟さんらしい。兄ではなく、おやっさんと呼ばせている。
センディさんの本名は、神室 扇太郎というんだって。幼い頃から、センディさんはお父さんからビジネスを、カムロさんから剣術と鍛冶を教わってきたという。
「ツヨシ殿とワラビ殿、いつぞやは助かった。感謝する」
カムロさんが、ボクとワラビに頭を下げた。
「いえいえ、そんな。ボクたちは、あなたに何もしていません」
「仲間の仇をとってくれた。礼とはいかんが、お主の剣を打とう」
「ありがとうございます」
ボクが金の盾を差し出すと、カムロさんがさっそく盾を剣に加工し始める。
センディさんの師匠に、剣を作ってもらえるなんて。
「攻防一体の剣とな?」
「はい」
幅広ながら振りやすく、攻撃も防御も兼ねる剣がいい。
「サンプルを見ますか? ワラビが、モーフィングできるのですが」
今のワラビなら、ミスリルソードを再現できる。
「よい。お主の筋肉の付き具合や、ワラビ殿の質感などを見れば、おのずとこの鉱石をどう扱えばよいか教えてくれる」
すごい……。あっという間に、剣ができあがっていく。ボクの理想の形に。
「まだ、一時間も経っていない」
「おやっさんの鍛冶スキルは、尋常じゃねえんだ」
人の体つきを見ただけで、カムロさんはその人にあった武器を作れるんだとか。
「なにを言うとるんじゃ? 時間をかけすぎるから、魔剣に魅了されてしまうんじゃっ。魔剣を叩くときは短時間で集中的にやれと、あれほど言うたじゃろうが!」
「あいすいませんね!」
ヤケ気味に、センディさんの刀を打つ手が激しくなった。
できあがりを待っている間、ワラビと状況を観察する。
「ワラビ、また危ない目に遭うかもしれない。ワラビにもしものことがあったら、耐えられないよ」
カムロさんの口ぶりだと、ダンジョンの魔力が強くなったっぽいし。
「それは、マスターツヨシがお気になさることではありません。むしろ、あなたは自分の身を守ることをお考えください」
「あはは。そうだね」
よく考えたら、ワラビは不死身だった。ワラビが死ぬときは、ボクが死んだときである。
「ごめんね。あやうく、ワラビに全部を委ねるところだった」
ダメだね、ボクは。ボクは、ワラビのテイマーなんだ。自分やワラビの生き方は、自分で決める。
「あまりご自分を責めないように」
「うん」
武器ができあがったようなので、見せてもらう。
ボクは、息を呑む。ため息すら、つけない。
見た目は、淡い桃色に輝く剣である。ミスリルの時よりも細いが、ワラビを武器化することを想定して細身にしたらしい。
「刀でもよかったが、使い勝手のよい剣がよかろうと、この形にしておいた」
「ありがとうございます」
「いやなに。魔王が去ったのだ。今後ダンジョンは、なにが起きるかわからぬ。センタロウには」
作業をしながら、カムロさんが険しい顔をした。
「といいますと?」
「勢力の拮抗が、乱れておるのじゃ」
なんでも、魔王ルクシオという最大勢力が消滅したことにより、異世界じゅうが群雄割拠になっているという。
「スライム『ごとき』に負けたクズ魔王」「そんなに弱い魔王だったとは」「面汚しの魔王より、自分が統治したほうが地球のため」
魔王ルクシオ敗北の報は、散々な言われようだとか。
「ダンジョン配信は、異世界でも行われているからな。動画を見たヤツらが、イキって地球に攻め込もうとしているようだぜ」
ん? 前に聞いた話と違う。
「ほとんどの魔王は、地球を警戒していると聞きましたが?」
「それは慎重派の話じゃ。ルクシオより弱い輩が、地球で一旗揚げようと息巻いておるのじゃ」
なんか、迷惑系配信者のようだな。
「とはいえ、いきなりは攻め込んでは来ぬだろう」
「なぜですか?」
「聞けば、この付近の山でドラゴンが目覚めたとの話じゃ。其奴を恐れて、各世界の魔王も侵攻できぬという」
ドラゴン……。
「自分の意思で侵略も平和的交流も選ぶ魔王に対し、ドラゴンは自然災害のようなものじゃ。触れれば、すべてが灰に変わる」
「大昔の地球にも、ドラゴンが数匹いたからな。守り神的な存在もいれば、悪さをするドラゴンも……」
センディさんが話そうとした矢先、メイヴィス姫とコルタナさんが、ダンジョンから戻ってきた。ひどい顔をしている。
「どうしたんですか? 血相を変えて」
「さっきギルドから連絡があって、ヒヨリがさらわれたって!」
ボクは、剣を落とす。
「誰に?」
「ドラゴンよ!」
(最終章に続く)




