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底辺ダンジョン配信者、干からびたスライムを育成していたらバズって最強コンビへ成長する  作者: 椎名 富比路
第六章 黒い勇者との戦い

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第50話 グレート・ワラビ・ソード

 ボクは、ワラビを剣へと変えた。刀身も、より幅広になっている。柄には魔法石をはめ込む穴があり、そこに小さいワラビが顔を出す。


「グレート・ワラビ・ソードです」


「ワタシとマスターツヨシは、これで完全に一つとなりました」


 呼びかけに呼応して、剣を構成しているワラビが光った。


「ほう。以前の勇者は、ヨロイに変わって余の攻撃を防いでいた。この世界の勇者は、剣で余に対抗するか」


 魔王が、両手に黒い炎をまとわせる。


「ボクって、そんな大げさなものかな?」


「魔王の前に立つものは、みな勇者です。マスターツヨシ」


 勇者にボクがふさわしいかどうかなんて、この際関係ない。ただ、魔王を仕留めなければ。


「これで、あなたにトドメを刺す」


「やれるものなら、やってみせい! 【闇の溶岩(オスクロ・ラヴァ)】!」


 黒い溶岩状の炎を、魔王が放つ。


「ワラビ、いくよ! 【ウインド・カッター】ッ!」


 あの炎に直接触れたら、危険だ。剣の中にいるワラビが、魔法で風の刃を構築した。


 黒い溶岩が、分裂する。やはり、全方位に広がるか。蛇のように、ボクたちに絡みつこうと迫る。


 ウインドカッターで、溶岩を切り刻む。ワラビの肉体もそのまま使っているため、威力が尋常ではない。


「お返しだ!」


 風属性に溶岩をまとわりつかせて、ウインドカッターを浴びせる。


「ぐお! カウンターだと!?」


 さしもの魔王も、対応が遅れた。自分の魔法が反射されるとは、思っていなかったらしい。


「だが、所詮はニンゲンの反射速度よ! 魔王のスピードには追いつけまい! 【闇の溶岩】!」


 溶岩の蛇が、更に数を増やす。


 だがボクはワラビを的確に操って、攻撃を捌き切る。


「バカな! ニンゲンごときに、この魔王の連続攻撃が受け止められるとは!?」


「人間だって、成長するんですよ」


 ボクはずっと、ワラビの戦い方を身体に刻み込んでいた。そのため、ワラビの制御に関してはお手の物である。ワラビがどう動いて、どのような位置にいれば効果的に動けるか、すべて把握していた。


 ワラビがどれだけ奇想天外な動作をしても、ボクは追体験できる。自在に、ワラビを操れるのだ。


 ウインドカッターに混じって、ワラビの身体もミスリルの刃となって魔王を切り裂く。


 魔王の頬が、ワラビの剣で傷ついた。


「あなたはわかっていない。もう決着はついているんです」


「なにを……こしゃくな!」


 さらに、溶岩で津波を起こす。今度は、ウインドカッターでも抑え込めない。


「ワラビ、戻って!」


 大急ぎで、ワラビをもとに戻す。


「【フロスト・ノヴァ】!」


 そちらが全方位攻撃なら、こちらは全方位の防御魔法だ。

 ワラビを介して、氷属性のドーム型バリアを張る。


 溶岩が、凍りついた。


「なんと!? 魔王の炎をただの氷結魔法ごときで防ぐか!」


 この人、まだ気づいていないんだな。


「無理です。あなたの負けなんですよ、魔王。もうあきらめてください!」


「なにを? 余が人間に敗北など、ありえんことだ!」


 やっぱりだ。


「おのれ。死ねい!」


 魔法攻撃が通じないと見たのか、格闘戦に。


 ボクは、魔王の攻撃をことごとく受け流した。


「なんだと!?」


 死角からの蹴りも、正面からの拳も、すべて当たらない。


 それどころか、魔王は動きを止めてしまった。


「なぜだ! なぜこの身体は動かぬ!?」


「いくらあなたが不死身の存在でも、佐護(サゴ)は違います」




 佐護はもう、死んでいる。




「なんと? 動け、佐護よ! もっとまともに動かんか!」


「ムリですよ。もう彼は、限界を超えてしまったんです」


 ボクはソードで、魔王が被っている仮面を切り捨てた。


 仮面の下には、口から血を流した佐護の顔が。


 生気がないどころか、ゾンビよりひどい顔になっている。


「自分のテイムした人間の限界を、計算に入れていなかった。そんなあなたに、勝ち目なんてない」


「ええい。情けない奴! ならば、テイムスライムと取って代わってくれようぞ!」


 魔王ルクシオが、佐護の着ているヨロイから抜け出す。


 同時に、佐護の身体が灰になった。


 小さな魔王が、ボクに襲いかかってくる。


「ワラビ、最大の一撃を」


「承知しました。マスターツヨシ」


 最後の一閃にて、魔王を両断した。


「バカ、な……」


 魔王が、黒いチリとなる。


 同時に、ヒヨリさんたちを覆っていたツタが消えてなくなった。


「やったみたいだな、ツヨ――」


「みんな無事!? 助けに来たわよ!」


 上空から、メイヴィス姫が舞い降りる。大量の兵隊を従えながら。


 だが、降下した場所が悪く、センディさんを踏みつけてしまう。


「あわわわ! センディ、ごめんなさいいいいい」


「いいんだよ。ったく最後までしまらねえ」


 頭を擦りながら、センディさんが起き上がった。


「ツヨシ、師匠の敵を取ってくれて、ありがとうな。といっても、師匠は死んだわけじゃないが」


「いえ。ワラビががんばってくれたおかげです」


 活躍したのは、ボクよりワラビだ。


「なにをおっしゃいます、マスターツヨシ。あなたでなければ、テイマーは佐護と同じ運命を辿っていました」


「そうなの?」


「はい。ワタシが限界を……魔王をも超えた力を発揮できたのは、あなたが強かったからですよ」


 ホントかな。全然、実感がないや。


「さて、脱出よ。全員、ついてきて!」


 崩れていくダンジョンから、ボクたちは脱出した。

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