第50話 グレート・ワラビ・ソード
ボクは、ワラビを剣へと変えた。刀身も、より幅広になっている。柄には魔法石をはめ込む穴があり、そこに小さいワラビが顔を出す。
「グレート・ワラビ・ソードです」
「ワタシとマスターツヨシは、これで完全に一つとなりました」
呼びかけに呼応して、剣を構成しているワラビが光った。
「ほう。以前の勇者は、ヨロイに変わって余の攻撃を防いでいた。この世界の勇者は、剣で余に対抗するか」
魔王が、両手に黒い炎をまとわせる。
「ボクって、そんな大げさなものかな?」
「魔王の前に立つものは、みな勇者です。マスターツヨシ」
勇者にボクがふさわしいかどうかなんて、この際関係ない。ただ、魔王を仕留めなければ。
「これで、あなたにトドメを刺す」
「やれるものなら、やってみせい! 【闇の溶岩】!」
黒い溶岩状の炎を、魔王が放つ。
「ワラビ、いくよ! 【ウインド・カッター】ッ!」
あの炎に直接触れたら、危険だ。剣の中にいるワラビが、魔法で風の刃を構築した。
黒い溶岩が、分裂する。やはり、全方位に広がるか。蛇のように、ボクたちに絡みつこうと迫る。
ウインドカッターで、溶岩を切り刻む。ワラビの肉体もそのまま使っているため、威力が尋常ではない。
「お返しだ!」
風属性に溶岩をまとわりつかせて、ウインドカッターを浴びせる。
「ぐお! カウンターだと!?」
さしもの魔王も、対応が遅れた。自分の魔法が反射されるとは、思っていなかったらしい。
「だが、所詮はニンゲンの反射速度よ! 魔王のスピードには追いつけまい! 【闇の溶岩】!」
溶岩の蛇が、更に数を増やす。
だがボクはワラビを的確に操って、攻撃を捌き切る。
「バカな! ニンゲンごときに、この魔王の連続攻撃が受け止められるとは!?」
「人間だって、成長するんですよ」
ボクはずっと、ワラビの戦い方を身体に刻み込んでいた。そのため、ワラビの制御に関してはお手の物である。ワラビがどう動いて、どのような位置にいれば効果的に動けるか、すべて把握していた。
ワラビがどれだけ奇想天外な動作をしても、ボクは追体験できる。自在に、ワラビを操れるのだ。
ウインドカッターに混じって、ワラビの身体もミスリルの刃となって魔王を切り裂く。
魔王の頬が、ワラビの剣で傷ついた。
「あなたはわかっていない。もう決着はついているんです」
「なにを……こしゃくな!」
さらに、溶岩で津波を起こす。今度は、ウインドカッターでも抑え込めない。
「ワラビ、戻って!」
大急ぎで、ワラビをもとに戻す。
「【フロスト・ノヴァ】!」
そちらが全方位攻撃なら、こちらは全方位の防御魔法だ。
ワラビを介して、氷属性のドーム型バリアを張る。
溶岩が、凍りついた。
「なんと!? 魔王の炎をただの氷結魔法ごときで防ぐか!」
この人、まだ気づいていないんだな。
「無理です。あなたの負けなんですよ、魔王。もうあきらめてください!」
「なにを? 余が人間に敗北など、ありえんことだ!」
やっぱりだ。
「おのれ。死ねい!」
魔法攻撃が通じないと見たのか、格闘戦に。
ボクは、魔王の攻撃をことごとく受け流した。
「なんだと!?」
死角からの蹴りも、正面からの拳も、すべて当たらない。
それどころか、魔王は動きを止めてしまった。
「なぜだ! なぜこの身体は動かぬ!?」
「いくらあなたが不死身の存在でも、佐護は違います」
佐護はもう、死んでいる。
「なんと? 動け、佐護よ! もっとまともに動かんか!」
「ムリですよ。もう彼は、限界を超えてしまったんです」
ボクはソードで、魔王が被っている仮面を切り捨てた。
仮面の下には、口から血を流した佐護の顔が。
生気がないどころか、ゾンビよりひどい顔になっている。
「自分のテイムした人間の限界を、計算に入れていなかった。そんなあなたに、勝ち目なんてない」
「ええい。情けない奴! ならば、テイムスライムと取って代わってくれようぞ!」
魔王ルクシオが、佐護の着ているヨロイから抜け出す。
同時に、佐護の身体が灰になった。
小さな魔王が、ボクに襲いかかってくる。
「ワラビ、最大の一撃を」
「承知しました。マスターツヨシ」
最後の一閃にて、魔王を両断した。
「バカ、な……」
魔王が、黒いチリとなる。
同時に、ヒヨリさんたちを覆っていたツタが消えてなくなった。
「やったみたいだな、ツヨ――」
「みんな無事!? 助けに来たわよ!」
上空から、メイヴィス姫が舞い降りる。大量の兵隊を従えながら。
だが、降下した場所が悪く、センディさんを踏みつけてしまう。
「あわわわ! センディ、ごめんなさいいいいい」
「いいんだよ。ったく最後までしまらねえ」
頭を擦りながら、センディさんが起き上がった。
「ツヨシ、師匠の敵を取ってくれて、ありがとうな。といっても、師匠は死んだわけじゃないが」
「いえ。ワラビががんばってくれたおかげです」
活躍したのは、ボクよりワラビだ。
「なにをおっしゃいます、マスターツヨシ。あなたでなければ、テイマーは佐護と同じ運命を辿っていました」
「そうなの?」
「はい。ワタシが限界を……魔王をも超えた力を発揮できたのは、あなたが強かったからですよ」
ホントかな。全然、実感がないや。
「さて、脱出よ。全員、ついてきて!」
崩れていくダンジョンから、ボクたちは脱出した。




