第44話 五層攻略勢の証言
石田さんが「会ってほしい人がいる」と、ボクたちをモニター室まで案内してくれた。
画面の向こうにいるのは、冒険者らしい。
屈強な男女なのだが、全員が大ケガをしていた。
「彼らは?」
「五層の探索勢です。現時点で、最強の攻略者たちです。が、黒い勇者と思われる人物に、倒されました」
石田さんが以前話していた、北海道の攻略勢か。
「本当は、七〇人以上いた大部隊だったのですが、現時点で生き残りは、彼らだけです」
とにかく、話を聞いてみてくれとのこと。
『あんたが、スライムテイマーのツヨシと、スライムのワラビか』
ベッドで寝ている男性が、ボクは話しかけてきた。彼がリーダーなんだろう。
ボクは、「はい」と肯定する。
「えっと、黒い勇者と接触したとか」
『ああ。話には聞いていたんだが、とんでもない強さだった」
彼らパーティはボスを倒し、もうちょっとレベルを上げてから六層へ向かおうとしていた。
だが、再生していたはずの五層ボスが、少年に倒されている。
しかも、禁止されている冒険者同士の戦闘まで。
『オレたちはギルドの許可をもらって、その冒険者と戦うことにした』
しかし、手も足も出ずに倒されたという。
「五層の攻略チームが、そんな簡単に」
『しかも、あの子は私たちの元メンバーだったの』
女性冒険者が、苦々しく語った。
少年の画像が、モニタに小さく映し出される。魔物の甲殻を思わせるヨロイが、身体と一体化していた。もはや、人間ではないのだろう。
『こいつの名前は、【佐護】という。だが、みんなからは【ザコ】とバカにされていた』
一部の有識者は、佐護を養護していたが、ほとんどの仲間は彼を侮っていたらしい。
『佐護くんは、私たちの元斥候だったの』
つまり、「ダンジョンを先行して、敵の強さ・トラップの危険性を調査する担当」だったという。しかし、パーティのレアアイテムがなくなったことで、彼が責められた。結局その少年は、パーティを追い出されたという。
『後に、迷惑系冒険者の仕業だとわかったわ。でもそのときには、彼はソロ活動中に行方不明になった後だったの』
佐護少年は離脱後、テイマー登録をしていたらしい。コメントも、テイマーとしてボクに質問していたのだろう。きつい口調になっていたのも、「独り立ちしなければ」と切羽詰まっていたのかもしれない。
「これを見てください」
「テイマーとテイムモンスターのQRコードです。こちらがテイマー側、こちらがテイムされた側のコードです」
「形が、微妙に違いますね」
「はい。ですが佐護氏の場合、コードが人間と魔物で逆なんです」
佐護少年の手の甲を、よく確かめる。
たしかに佐護のコードは、ボクとワラビとはコードが左右対称になっていた。
「で、佐護というガキが、メチャメチャ強くなって復讐しに来たと」
『……もう、復讐なんて次元ではなかった』
佐護からは、火の粉を払う程度にしか思われていない気がしたそうだ。それだけ黒い勇者となった佐護との間には、大きな差があったと。
「彼らが残した戦闘データがあるので、ご確認ください」
石田さんが、映像を切り替える。ダンジョンで何が起きたのかを、再生した。この映像は、そこで寝ているリーダーが再生したものだという。
中年男性が、先陣を切って佐護に斬り掛かった。
「おやっさん!」
センディさんが、ボクを押しのけて前に乗り出す。
「知り合いなんですか?」
「あの人は、オレの刀の師匠だ!」
たしかに、戦闘スタイルがセンディさんによく似ていた。
佐護が、モンスターや下級魔族たちを召喚する。
「サモナーでもあるんですね?」
「魔王が、魔族や魔物を召喚しているんです」
中年冒険者は、魔族も魔物も蹴散らしていった。ボクたちが苦戦したヴァンパイアも、あっさり斬り伏せる。
拳や蹴りなどの徒手空拳で、佐護は男性の剣戟をさばく。
「強くなった」という称賛と、「悪魔に魂を売ったのか」という侮蔑からか、中年冒険者は、複雑な表情になっていた。
最終奥義らしい攻撃を、ベテラン冒険者が繰り出す。これは、センディさんのフィニッシュホールドと同じだ。
ベテランの刀が、片手で破壊された。
完全に、彼は佐護に遊ばれていたのである。倒そうと思えば、いつでも倒せたのだ。
男性冒険者の身体が、なんてことのないパンチで吹っ飛ぶ。
「おやっさんはどうなった? 死んだのか?」
『一命はとりとめた。だが、まだ意識が戻っていない』
その証拠に、彼はヒーラーには最低限の攻撃しか撃たない。絶大な攻撃力があるにも関わらず。
あまりの豹変ぶりに、半数のグループメンバーが逃げ出した。
しかし、佐護は無情にも執拗に攻撃を繰り返す。今度は手加減なしで、魔法も放つ。
『佐護くんが徹底的に痛めつけているのは、自分たちをバカにしていたグループのみ。私たちの被害は、比較的軽微だった。彼らを守ろうとしたときは、全力を出されたけど』
これが、佐護の蹂躙の一部始終である。
「全七三名のうち、生き残りは五人だけです」
石田さんが、そう告げた。
誰も、言葉が出ない。
「ぶっ殺してやる」
センディさんが、闘志を燃やしていた。




