第41話 魔王からのコメント スパチャ付き
魔王ルクシオからのコメントが、ボクの攻略動画についていた。カギ探しイベントの時だ。
『ここに気づくとは、さすがだな』
『しかし、余の配下は強い』
『勝てると思うな』
『テイムのスライムかわいい。ほしい。部下のスライムよりかわいい』
まあ、偉そうだよね。ワラビって、魔王にまで人気なんだ。
「ご丁寧に、スパチャまで送ってきやがって」
【スーパーチャット】、いわゆる投げ銭として、五〇万円をくれていた。冒険者の動画サイトでは、一日に飛ばせるスパチャの最高額である。
「ギルドで対策を練ってもらおうぜ」
「はい」
コメントの件は、ギルドに一任した。
今日は一日、作戦会議をすることに。
「昨日に報告があった後、ツヨシさんの動画に魔王からのコメントがないかどうか、探知AIに探させました」
石田さんから、そう報告を受けた。
魔王からのアカウントから、居所などを探知できないかどうか、探ったという。
「ですが、巧妙な技術で潜伏先を特定できません」
書き込み先を検索しても、近所のネカフェにつながるらしい。それも、人間の冒険者ばかり。
「三ヶ月前から、粘着していたコメントが発見されました。私は不愉快だったので、ミュートしていましたね。すいません」
「ミュートは、当然のことでしょう。石田さんがあやまることなんて、ありませんよ」
コメントに結界を張ってギルドからのハッキングを阻害しているか、配下に書かせているかだという。
コメントを打った冒険者に共通点はないか、現在も調査中らしい。
「では、スーパーチャットの代金として、五〇万円を」
五〇万円を、石田さんはポンと差し出した。
動画配信サイトと違って、冒険者の配信では課税されない。ギルドなどの運営から、天引きもされない。額面通り、もらうことができる。それらすべての手数料・税金などは、送り主が払ってくれているからだ。
つまり魔王は、五〇万以上を払っている計算になる。
「この五〇万、魔王に返したいんですが」
敵からの餞別なんて、いただけない。
「では、パークボスの三人に渡せばいいのでは?」
魔王へ直接アクセスはできない。
「パークに潜んでいる魔族三人を倒せば、魔王の居所もつかめるでしょう」
「マスターツヨシ、律儀にお返ししなくてもいいのです」
「でも、こんな高額のスパチャを、よりによって魔族からもらうなんて」
「いいじゃないですか。もらっておいても。なにも、ワイロではありません」
ワイロなら、もっと高額になってくるだろうと、ワラビは語る。それこそ、五〇〇〇万円くらいだと。お金の話になると、案外シビアだね、ワラビって。
「ツヨシさん、あくまでも、お金はお金です。受け取るのを悪く思う必要は、ありません」
無下に断っては、かえって失礼ではとのこと。
「そうですね。では、それまで五万円だけ、預かっておきますね」
ボクは五万円を、財布にしまう。
一般的な動画サイトでの、スーパーチャットの上限額だ。
残りの四五万円は、返そうかな。
「姫様は、魔王ルクシオって見たことないんですよね?」
ボクが問いかけると、メイヴィス姫もコルタナさんも首をかしげた。
「ええ。実物は、見たことがないのよ」
だから役に立てないと、姫が石田さんに詫びる。
「頭をお上げください」
「ええ。でも、伝説級の魔王ってことは、わかっているの」
歴史資料館にも、魔王の姿は載っていた。でも、どれも抽象的でハッキリしない。龍っぽかったり、幽霊みたいだったり。
「実質、勇者が戦ったのは、黒い勇者の方なの」
「そっちのほうが、有名ですよね。死闘だったと」
「そうなの。魔王っていわゆる神様みたいな存在だから、直接手を下すと世界の時空が歪んじゃうレベルなのよ。だから黒い勇者を従えて、代理で戦わせるの」
黒い勇者か。
「こちらですね」
ワラビが、石田さんから紙とボールペンをもらった。ペンを取って、スラスラとイラストを描く。
「絵もうまいんだね、ワラビって」
「そうでもありません。幼い子どものラクガキみたいです」
「うまいよー。ボクなんて、ここまで再現できないよ」
全然、歴史資料を見ていなかった証拠だね。
「ちゃんと歴史までチェックしているワラビは、エラいよ」
「ありがとうございます。では描けましたので」
黒いヨロイを着た棒人間と、赤いヨロイを着た棒人間が戦っている。
「まさしく、伝説の勇者と、魔王に仕える黒い勇者との戦いを物語っているわ」
メイヴィス姫が、イラストを見てうなった。
「これ、ツヨシさんとワラビさんみたいですね」
「ほんとだー。ツヨシとワラビー」
ヒヨリさんとピオンが、赤い棒人間を指差す。
「これは、勇者よね」
「はい」
コルタナさんの言葉に、ワラビが反応する。
勇者の方は、まるでワラビを着ているみたいだ。
「異世界でも話題になったのよ。あなたのこと」
「ボクが?」
「ええ。勇者の再来なんじゃないかって」
「うーん。動画の話でしょ?」
いくらなんでも、こじつけだろう。
「でも、忘れないで。だからこそ、あたしはあなたを追ってきたのよ?」
メイヴィス姫が、真剣な目でボクを見る。




