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底辺ダンジョン配信者、干からびたスライムを育成していたらバズって最強コンビへ成長する  作者: 椎名 富比路
第五章 底辺配信者 対 魔族三人衆!

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第34話 スライムたちの癖《へき》

 一旦ダンジョンから出て、石田さんに状況を報告に向かう。

 カギで次のステージに行くのは、まだ準備が足りない。


「ケット・シーはネコの獣人なので、役に立つかなと思ったんですよ。でも、失敗したら危ないと思ったので。一旦ピオンで試してみたら、こうなりました。まあ、ほとんどはピオンのお腹に消えちゃいましたが」


「ごちそうさまー」


 実験として、ピオンに持たせていたのだという。


「一応、ドロップアイテムとして【マタタビスティック】を手に入れていたので、それも効果があったのかもしれません」


 ヒヨリさんはピオンに、マタタビのスティックも持たせていたらしい。


「え? ワラビ、そんなアイテムゲットした?」


「いえ。激レアアイテムです。ワタシは、持っていませんね」


 モンスターには、アイテムドロップ率がある。ケット・シーは、【ネコの爪】という魔法石を落とす。テイムモンスターに食べさせると、魔力がわずかに上昇する。これでも、結構レアアイテムだ。マタタビスティックは、それを上回るレアドロップ率を誇る。


 マタタビを、ヒヨリさんに見せてもらう。たしかに、マタタビの香りだ。


「最初はマタタビでおびき寄せる作戦でした。しかし、ピオンがネコおやつを食べ始めて、おっこちしちゃったんです。それで、ケット・シーが寄ってきて」


「あっさりカギを」


「はい……」


 この香りとおやつにつられて、ケット・シーがピオンにまとわりついたという。


「もうピオンは、戦闘要員にするのはかわいそうすぎて。せっかくなので探索系に極振りしています。幸運度を伸ばしました」


「うんがいいー」


 ピオンが、飛び跳ねた。


「とんだコミック・リリーフだな」


「でも、こういうタイプのモンスターが、最後に私たちに幸運をもたらしてくれるのよ」


「まったくだ」


 そのおかげで、ボクたちはカギをゲットできわけだし。




 受付まで、戻ってきた。

 センディさんが、受付の石田さんにウォード錠を見てもらう。


「見た目こそただのアンティーク錠なのですが、こちらを見てください」


 カギの持ち手を、石田さんが指差す。


「ここに、紋章がありますよね? これは、パークのロゴなんですよ。この三つの紋章をかけ合わせると」


 パズルのように、石田さんがカギを三つ重ねる。


「これで一つのカギになるのです」


 キーの持ち手が重なると、ウサギの顔のシルエットとなった。次の相手は、クビポロリとかいうウサギのキグルミキャラだろう。


「おおーっ」


「このキーは、お預かりします。次のフロアも、お気をつけて」


 貴重品アイテムを石田さんに預けて、ボクたちは一旦帰ることにした。



 

 家に帰りながら、ワラビと初めてであったときを思い返す。




 たしか当時のボクは、ドッグフードやキャットフード、果ては離乳食まで買ってきた。ワラビが何を食べるか、わからないためである。ワラビが普通の食べ物も消化できることを知ったのは、ありがたかったけど。




 ヒヨリさんが、ボクたちにシチューを振る舞う。


「あー、なんだか、生きて返ってきたなって気がするぞ」


 シチューを食べながら、センディさんが缶ビールを開ける。


「ツヨシさんが持て余していた食材は、すべてピオンが食べ尽くしました。実に助かっています。ごめんなさい。食費を払わなくて」


「いやいや。お礼をいうのはこっちだよ」


 事実ボクは、在庫の処理に困っていた。


 畑をお世話してくれているヒヨリさんやピオンに、こちらは頼りっぱなしだから。


「でも、ワラビって意外と好みがあるよね」


 ワラビは、大根を生で食べられる。しかし大根おろしにすると口にしない。具材ゴロゴロのシチューを食べることはあっても、具材が溶け切ったドロドロのカレーが出てくると落ち込む。


「ワタシは、溶かすのが好きなのです。元々溶け切っているものが、あまり好きではないので」


「なるほど!」


 ミスリルなんかの固形物のほうが、ワラビは好みなんだ。そりゃあ、離乳食なんて食べないや。


「じゃあ、桃は? ワラビの大好物だよね?」


「桃に関しては、種が好きなのです」


 ワラビの話を聞いて、ヒヨリさんが「ああ」と手を叩く。


「だからワラビさんの進化系統には、『ポイズン・スライム』があったんですね?」


「どういうこと、ヒヨリさん?」


「桃の種には、アミグダリンやプルナシンという毒があるのです。他にも、梅や杏にも含まれています」


 熟す前の桃の種には、毒があるという。体内に入ると、毒性を放つ。なんと、青酸カリと同じシアン化合物だ。


「といっても、アミグダリンの致死量は、およそ桃一〇〇個分だそうですが」


 じゃあ、安心かな?


「あーでも、ワラビなら一〇〇個じゃきかないかも」


「一日で、それだけ食べたりはしません」


 ワラビが、ふてくされる。


「なんだ。ワラビのそんな態度、初めて見るなぁ」


「ずっとワラビちゃんを見ているけど、どんどん人間っぽくなってくるわね」


 センディさんとコルタナさんが、ボクたちを見て笑う。


 ボクもワラビも、つられて笑った。


 薬局のお嬢様に育てられたピオンは、薬品系はもちろん、ペットフードも嫌がらずに食べる。


「ピオンが苦手なものって、なにかある?」


「そうですね……モンスターは食べませんね」


 ああ、ワラビと逆だ。


 ワラビは、なんでも溶かすことを楽しむ。


 ピオンは、薬品や健康食品も好んで食べる。


 スライムにも、それぞれの個体でいろんな(へき)や個性があるようだ。


「次は、四層の中心部だ。おそらく、モンスターラッシュになる」


 パークの目玉に、モグラたたきがあったらしい。


 その管理者が、クビポロリの元となったウサギキャラだったそうだ。

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