第33話 仕掛けだらけのアクティビティ・ダンジョン
ボクたちは再び、四層ダンジョンへと向かう。
正規ルートへの入り口には、ウェアウルフが待ち構えていた。配下に、大量のオオカミを従えている。
剣を抜いたボクの前に、コンラッドが。
『ツヨシ殿。ここは、我に任せよ。お主たちを、消耗させるわけにはいかぬ』
コンラッドが、先陣を切った。
ボクたちは、取り巻きのオオカミを片付ける。
「素早いから、気をつけるのよ。コンラッド」
『承知。では、いざ参る!』
盾を前に突き出し、コンラッドが剣を構えた。
ウェアウルフが、爪をジャキンと伸ばす。
『ぬうう。【シールドバッシュ】!』
コンラッドは、敵の爪を盾で弾き飛ばした。
ウェアウルフの爪が、ミスリルの盾で破壊される。
カウンターで、コンラッドはモンスターの心臓に剣を突き刺す。
コンラッドがやると、なんてことのない動作に見えた。ウェアウルフも弱く見える。しかし、実に高度な読み合いの末に勝利したのだ。
並の冒険者なら、もっと苦戦していたに違いない。
「見事だ。入り口は、あっちだぜえ」
ウェアウルフが、事切れる。
「獣人型のモンスターばかりね」
「ほんとに、キャストのつもりなんだろうな」
コルタナさんとセンディさんが、武器をしまう。
「見てください、あれ!」
眼の前に、ボルダリングやパルクール用のアクティビティが。
「ニャハハハ! オイラの」
頂上には、ジャジャとかいうワータイガーが立っていた。
四層のボス自らが相手か。
「今から、オイラの部下を放す。このケットシーは、特殊な魔法を施しているために無敵だ。戦えないが、攻撃しても死なない。首輪に引っ掛けているカギを取ったら、お前たちの勝ちだ」
ケット・シーの首輪には、番号の書かれたウォード錠がぶら下がっている。
「三つとも取れば、次の部屋が開く。オイラと戦いたかったら、部下を捕まえてみるんだな!」
ジャジャが、三匹のケット・シーを開放した。そのまま、ジャジャは姿を消す。
「この! 待て!」
センディさんが、俊足でケット・シーを追いかける。
「カギをゲット……できないわ!」
コルタナさんも、翻弄されている。
「いくわよ。あいた!」
パルクール用のポールに足を引っ掛けて、メイヴィス姫がずっこけた。
「大丈夫ですか、姫?」
ヒヨリさんが、目を回した姫を抱き起こす。
「とんでもないわね、このダンジョン!」
「手分けをしましょう。ボクはあの建物の屋根にいるケット・シーを捕まえます。みなさんは、なんとか残りを捕まえてください」
ボクは、時計塔にいるケット・シーを指さした。
「大丈夫か? あの時計塔は、一〇階建てのビル並だぞ?」
「だから、ボクとワラビでいいと思うんです」
落下しても、ワラビがいるから痛くない。
「行きます!」
ボクはワラビを引き連れ、時計塔の建物の壁を伝う。
「モーフィングだ!」
「承知しました。マスターツヨシ」
ワラビが分裂して、ボクの手足に取り付く。壁はレンガ作りで、所々に凹凸がある。普通の攻略だと、この僅かな窪みや突起に指を引っ掛けるんだろうな。でも、ワラビがいるからその繊細な動きは必要ない。
「おりゃあああああ!」
怒涛の勢いで壁を登ってくるボクに、ケット・シーも驚いている。さらに高い教会の方へと逃げていった。
「待て!」
ボクはさらに、ケット・シーを追いかける。
「ケット・シーが、教会の中に入りました」
ステンドグラス窓を突き破って、ケット・シーが教会の中へ逃げ込む。
「おっとととお!」
教会の内部は、ハリボテでしかなかった。木の板の一本道しかない。建物の下は、礼拝堂である。
そんな狭い通路を、ケット・シーは悠々と伝っていく。
「スケボーだ。モーフィング!」
ワラビをスケボーに変形させて、敵を追いかける。
追いつかれるなんて思っていなかったのか、ケット・シーがスピードを上げた。しかし、木の板が抜けてしまう。
絶望的な顔になって、ケット・シーが落ちていく。
「危ない!」
ボクはジャンプして、モンスターを抱えた。
「ワラビ、クッションだ! 頼む!」
幸い、ワラビが巨大化して大きなクッションになってくれる。
「大丈夫、ワラビ、痛くない?」
「問題ありません。それよりマスターツヨシ、カギは?」
「このとおり」
ボクは、ワラビにカギを見せる。
「ほかの人たちは、苦戦しているみたいだね」
センディさんとコルタナさんは、まだおいかけっこしていた。鉄パイプだらけのジャングルジム相手に、苦戦をしている。
ひとまず、二人のお手伝いをするかな。
「ワラビ、こちらで威嚇して、二人にカギを取ってもらおう」
「はい。その作戦で参ります」
ボクは敵に対し先回りして、ジャングルジムを登る。
ワラビは、障害物をすり抜ける能力を持つ。その要領で、ボクはワラビにコートへとモーフィングしてもらう。人間ではありえない動きで、ケット・シーを追い詰めていった。
驚いたケット・シーが急ブレーキをかけて、そのスキに両サイドからセンディさんたちが敵を挟み込む。ようやく、二つ目のカギが手に。
「最後は、姫とヒヨリさんのパーティだ」
「ああ、大丈夫そうです」
ケット・シーは、ヒヨリさんのスライム【ピオン】に懐いていた。自分からカギまで渡している。
「問題なかったわね」
コルタナさんが呆れた。
ほんとに、ピオンはモンスターに愛されているなあ。部屋の入り口まで道案内までされているし。
「それにしても、ピオンってこんなに愛されキャラだっけ?」
「きっと、ツヨシさんからいただいた、これのせいです」
とある携帯食を、ヒヨリさんが見せてきた。
「ああ! その手があったか!」
ヒヨリさんが持っていたのは、ネコ用のおやつである。
昔、ワラビにあげようとして、拒否されたのだ。




