第28話 ミスリルソード
今日は、メイヴィス姫とコルタナさんに稽古をつけてもらう。
ボクが強くなれば、それだけワラビも強くなれる。ボクが足を引っ張っていては、ダメだよね。そう考えて、トレーニングすることにした。
「なかなか筋が良くなっているわ、ツヨシくん。あとは、油断しないこと」
「はい。ありがとうございます」
修行を終えて、ボクはコルタナさんに礼をした。
いくらミスリル製の武器といっても、使いこなすにはボク自身が強くなる必要がある。ヘタくそが取り扱えば、立派な武器に腕を自分で切り落としかねない。センディさんは、そう教えてくれた。現役の剣士に言われたら、そのとおりだよね。
「ツヨシさん、みなさん。お昼ごはんができました」
ヒヨリさんが、食卓からボクたちを呼ぶ。
「ありがとうございます」
訓練を中断して、ボクは手を洗う。
今日のお昼は、畑で採れた野菜を使った薬効おでんである。
とても薬草を使ったとは思えないくらい、おいしい。
「しいたけのダシが、すごく出ていますね」
ボクはしいたけというと、すき焼きの隅っこでくたくたになっているイメージしかなかった。こんなに引き立つのか。
「スライムたちも、ありがとうね」
畑のお世話は、ピオンの分体がやってくれている。ピオンが自分を分裂させて、畑の仕事をやっているのだ。これでヒヨリさんも、ダンジョンへ潜っていける。
「ツヨシ。いよいよ、ミスリルの剣ができあがった」
センディさんが、疲れ切った顔でそう告げた。
「ようやくなんですね」
これまでの訓練で、ボクはどれだけ強くなれたのだろう? ミスリルソードを持つのにふさわしい腕前なのか、今ここで試される。
食後、みんなでセンディさんの工房へ向かった。
「これが、ミスリルソードだ」
鞘が、幅広い。
「刀や、ツーハンドソードにもできたんだけどな。ツヨシの技量を考えて、分厚いブロードソードにしてみた。振りやすくて防御もしやすいように、短めにしてある」
ボクは、剣を抜いた。
淡いピンク色の刀身が、鞘から姿を表す。
「普段使いのショートソードに近くて、扱いやすそうです」
握り込みも振りも、今までの剣と変わらない。だが、振っただけでその強さは理解できた。これなら、なんでも切り捨ててしまえそうだ。
「ヤバいだろ、この万能感ってやつは? 銃を持ったやつがなっちまう、独特のものだ」
「はい」
神様になった気分と、形容すればいいだろうか。そんな高揚感に、ボクは襲われた。これは、道を踏み外してしまいそうである。
「ミスリル銀にこもった微量の魔力が、お前の精神を侵食しているんだ」
まさかセンディさんも、そこまでは想定していなかったらしい。気がついたら、ミスリルを受け取ってからずっとダンジョンに潜っていなかった。コルタナさんに指摘されるまで、ずっとトンカチを振っていたらしい。ミスリルの魅力は、それだけ強いのである。
「そうなんですね」
「スキルポイント、余ってるだろ? 一でもいいから振っておけ。剣に魂を奪われてしまうぞ」
「わかりました……ふうう」
ボクは、精神耐性のスキルを取った。それだけで、心が落ち着く。
「柄に魔法石を大量に取り付けた。普通は必要ないんだけどな。ワラビと連携するなら、なんでもできる方がいいかなって」
各種魔法が扱える魔法石が、あちこちに散りばめられていた。柄の先端にある魔力石は、足りないボクの魔力を補助してくれるという。
ワラビをここに固定しても、いいそうだ。
「すごいね。ワラビを武器にして戦えるよ」
「マスターツヨシと一体化して戦えるなんて、夢のようです」
さっそく、縛った麦わらで試し切りをする。
「ダンジョンのモンスターで試さないあたり、ツヨシらしいな」
「ほんとね。乱獲に走らない性格は素敵よ」
センディさんとコルタナさんが、ボクを称賛してくれた。
そこまで、考えたわけではない。単に、無害な相手で試し切りがしたいだけである。
家畜を育てる用ではない。訓練用に、取っておいたのだ。
紙を切るように、スパスパと真っ二つになる。
ボクは、なんの力も入れていない。
繊維が複雑なはずの麦わらが、面白いくらい切れた。麦わらでは、もはや練習台にすらならない。
「石でやってみるか」
岩場までボクらを連れていき、センディさんは岩石を切ってみせろという。
「剣が折れちゃわないですか?」
「構わない。オレの鍛冶が、それだけの腕前だったってだけさ」
もし剣が折れたら、別の鍛冶屋に叩いてもらえとのこと。ムチャクチャな。
「てい!」
一か八か、岩山を切り裂いてみた。
やはりなにも力を込めなくても、岩はスパっと切れる。
「すごいです、ツヨシさん!」
「ほんとね。コンラッドでも、ここまで丁寧に岩を切れないわよ!」
ヒヨリさんとメイヴィス姫が、手を叩く。
「ありがとうございます、センディさん。すごい剣ですね」
「おう。オレが作ったんだからな」
「それで、今後はどんなスキルを上げていけばいいのでしょう?」
「そうだな。武器で防御もこなす剣士っつったら、やっぱパリィだろ」
パリィ、つまり【ジャストガード】を取れという。
「普通の剣でジャストガードなんざやったら、武器がぶっ壊れてしまう。だから、受け流しが主流になるんだ」
反面、ミスリルならそのままカウンターに持ち込めるくらい耐久性が高いらしい。
岩場を舞台に、スパーリングを行う。
「いくぞ」
センディさんが、ボクに斬り掛かった。
「くっ【ジャストガード】!」
「タイミングが早い! 攻撃の軌道を変えられてしまうぜ」
その後、何度もジャストガードの練習に明け暮れた。
たしかに武器はいい。しかし、ボク自身の強さも要求される。
ジャストガード、できるに越したことはない。




