第24話 もう一人のスライムテイマー ヒヨリ
センディさんがミスリルの剣を作り終えるまで、ボクはダンジョン巡りをすることにした。
ほとんど、ソロプレイである。ワラビの戦闘も、見ておきたい。ボクとワラビでどこまでやれるか、試したかった。センディさんが必要としていそうな、アイテムの収集も忘れない。
「えっと、魔力増幅装置になる魔力石は、これか」
遺跡ダンジョンのボスである大蛇から、アイテムをゲットした。
二層にボクたちの敵は、いなくなっちゃったみたい。なので、三層をソロ攻略してみようと思ったんだけど。
「ボクのレベルは今、三五ちょっとか。第三層で、苦戦するかもね」
大蛇相手では、辛勝だった。ギリギリの戦いである。相手もワラビではなく、ボクの方ばかり攻撃してきた。相手も、誰が強いのかわかっているのだ。
大蛇さえもとともしないゴーレム使いのピグまりに、ボクは勝ってしまった。だからいけると、思っていたんだけど。
「適当にアイテムを掘った後は、切り上げましょう」
「うん」
ボクたちは、三層から二層、一層へと戻る。
「ん?」
一層まで戻ってくると、水色の小さい物体がボクの足元についてきた。
「これは、スライムだね」
「そうですね」
「どうしよう?」
ボクはワラビをテイムしている。ので、もう契約できないんだけど。
「待ってください。このスライム、すでにテイムされていますね」
ワラビが、水色スライムの状態を確認をした。
スライムの頭上に、『テイマー・ヒヨリ』と名前が書かれている。
「たしかにテイム済みだ。なんの用事なんだろう?」
ボクたちが思案していると……。
「たすけてぇ」
遠くの方で、声がした。
「行ってみよう!」
水色スライムに案内されて、ボクとワラビは森ダンジョン一層の奥へと進む。
そこでは、少女が高い木の枝に捕まってジタバタしていた。降りられなくなったのか。
枝の下は、硬い地面になっている。もし落ちてしまったら、大変だ。
「待ってて。ワラビ、お願いできる?」
「はい」
「そこの人! ワラビがクッションになるから、手を放していいよ!」
ボクは、枝にいる少女に声をかけた。
「はいいいい。えいっ」
少女は、木の枝から手を放す。
「ひゃあああああ! うわっぷ」
ワラビに顔から突っ込んだけど、どうにか無事なようだ。
「ケガはない?」
「はい。ありがとうございますぅ」
「ボクは、ツヨシ」
「存じ上げております。そちらは、ワラビさんですよね?」
うわあ。ワラビ、すっかり有名人だね。
「ワタシは、ヒヨリっていいます」
「ヒヨリさん、マスターツヨシ同様、よろしくお願いします」
「ご丁寧に。ワタシも、スライムとお話したいな」
ワラビを見て、ヒヨリさんはうらやましそうに話す。
「キミも、スライムテイマーなんだね?」
「先日見つけて、名付けてテイムしました。このコは、ピオンといいます」
ぶどうのピオーネがスキだから、そう名付けたらしい。
「テイム前に、好物がわかったの?」
「ガム型のディスポイズンポーションがあったので、それを食べさせたら好物だとわかりました。おひとつどうぞ」
ボクとワラビも、ガムをいただく。おいしい。みずみずしくて、唾液が絶え間なく出てくる。
「この唾液がガムの薬効と混ざり合って、消毒になるんです」
ボクは、毒のダメージを受けていない。しかしこのガムを噛んでいると、虫歯とかが治りそうな気がした。
「知らなかった。そんなアイテムなんて売っていたっけ?」
「ワタシが開発したんです。ワタシ、メインジョブが【ハーバリスト】なので」
ハーバリストとは、薬草からポーションを作り出すジョブである。回復魔法もこなす、後衛の要だ。モンクなどの聖職者と違って、アンデッド特効などはできない。が、回復魔法においてはスペシャリストである。
となると、サブジョブがテイマーなのか。聞いた感じだと、ハーバリストとして生計を立てているみたいだし。
「じゃあ、お一人で冒険なんて大変でしょう?」
「はい。一人だと、一層を回るのも一苦労で」
パーティを組むにも、戦闘が苦手なハーバリストを雇う人は少ない。そこでヒヨリさんは、モンスターとパーティを組めるテイマーを選んだ。
「それでもワタシ、ドジで。今日だって、みなさんがいなかったら大ケガをしていました。本当に感謝しています。ガム以外にも、お礼をしますので」
「いえいえ。困ったときは、お互い様だよ」
気になることを、ボクは聞いてみる。
「キミは、ギルドが提供した家屋に住んでいるんだよね?」
「そうなるんですかね?」
ヒヨリさんは、テイマーになったばかりらしい。なので、今はまだ自宅のアパート住まいだという。
「テイマーは等しく、ギルドの監視下に置かれるって聞いたけど」
「おそらく、ワタシもそうなるんでしょうね」
「抵抗感はない?」
「ありますが、知り合いのテイマーは、そこまで気にしていないそうですよ」
衣食住は、充実しているらしいが。女性なら、なおさら監視されて暮らすのはしんどいだろうな。
「マスターツヨシ。わたしはヒヨリさんとパーティを組むことを提案いたします。ヒヨリさんさえよければですが」
ワラビが、提案をしてくる。
「いいの? でもこれ、ナンパになっちゃうかもしれないよ?」
出会い目的と思われたら、嫌われちゃうよ。
「もしくはマスターがヒヨリさんから採取依頼を受けて、素材を提供するとか」
「それは、ありがたいです! でもいいんですか、ワラビさん?」
「はい。その節は、お世話になりましたので」
妙なことを、ワラビはいい出した。
「え? ワタシ、ワラビさんとは初対面ですが?」
「いいえ。なにせわたしは、あなたが作ったポーションに助けていただいたので。あの、はちみつとレモン水のポーションに」




