第20話 メイヴィス姫の本気
ピグまりが、ワイバーンの背中に乗った。
「ウチが直接魔力を注ぎ込んだワイバーンに、勝てるかな?」
ワイバーンが、ピグまりを乗せて天井ギリギリまで飛ぶ。
「あはは! 【ケミカルボム】!」
リュックからマジックハンドで、ピグまりがポーションの瓶を放り投げる。
着弾した瓶が、ピンク色の爆発を起こした。青い爆発も発生している。
「焼夷弾だ!」
「こっちは、装備を凍らせる爆弾だわ!」
センディさんは服の先が焦げて、コルタナさんは杖がわずかに凍った。
「あはは! やっちゃってワイバーン!」
煙の向こうから、ワイバーンがブレスを吐く。
「ぬうう!」
コンラッドが前に立ち、センディさんたちをブレスから守った。
「お返しよ! ライトニング・アローッ!」
杖を弓代わりにして、メイヴィス姫が雷の矢を放つ。
矢が、ワイバーンの目に当たった。かすっただけだが、相手を混乱させるには十分である。
「あわわ! 待った待った!」
さすがのピグまりも、バランスを崩す。
だが姫の放った二発目は、ピグまりに当たらない。ハンマーで打ち返されてしまう。
「あーもう、ワイバーンを怒らせちゃったね。お姫様の丸焦げなんて、どんだけバズるんだろうね!」
邪悪な笑みを浮かべて、ピグまりはワイバーンの照準をメイヴィス姫に合わせる。
「そうはいくか!」
ボクはワラビとともに、ダンジョンの天井まで登っていた。
みんなはピグまりの注意をボクから離すため、ワイバーンの相手をしてくれていたのだ。
「スライム使いのツヨシ……ノコノコ、ヤラレに来るなんてさ。くらいな、ケミカルボム!」
大量のポーション瓶を指に挟んで、ピグまりが撒き散らす。
「ほっ。はっ」
ワラビは、あっさりとポーションをすべて食べてしまった。身体の中で爆発したみたいだけど、なんともないみたい。
「身体は大丈夫?」
「問題ありません。マスターツヨシ。むしろ相手の攻撃に、適合できそうです」
とんでもないな。ワラビは。
「もう武器がありませんよ、ピグまり。投降してください。人も呼んでいます」
「たしかに絶体絶命だけどさ。だがね、こいつはどうかな? スパルトイ!」
なにを思ったのか、ピグまりはワイバーンの背中にハンマーを叩き込んだ。五枚のウロコが、ワイバーンの背中から飛び出す。ウロコが、ガイコツの形を取った。
「やっちゃって、スパルトイ!」
ガイコツ剣士が、ボクたちに襲いかかる。
「ここは、ボクの出番だ」
ボクは剣を、背中の鞘に納めた。鞘をホルスターから外す。
「ふん!」
切るのではなく、ガイコツに鞘を叩き込む。ガイコツは、切っても刃をすり抜けてしまう。叩いて攻撃するほうが、手っ取り早い。
ガイコツが復活しないように、コアはワラビに飲み込んでもらう。
ピグまりがガイコツを追加しても、同じだった。
「腐っても、バズってる配信者だけあるねえ」
「覚悟してください!」
ボクは、剣を抜く。
「するかっての!」
ピグまりが、ワイバーンから飛び降りた。マジックアームで衝撃を抑え、走り去る。
「逃さないわ!」
メイヴィス姫が、杖から雷撃を放った。
しかし、ワイバーンが姫へ向けてブレスを放つ。
『いかん。姫様!』
コンラッドもろとも、姫がワイバーンの炎に包まれた。
「メイヴィス姫!」
そんな。メイヴィス姫が……。
「あはは! 黒焦げになった姫を撮るのはできなかったけど、うまくいったみたいだね」
逃げ去りながら、ピグまりが勝ち誇る。
次の瞬間、コンラッドの剣がピグまりの背後に飛んできた。ブランド物リュックを、剣が突き刺す。
「ひっ!」
ピグまりが、恐怖でずっこけた。
「まったく。この姿をお見せすることになるとは」
炎が一瞬にして霧散し、そこから少女が現れる。メイヴィス姫に似ているが、雰囲気がぜんぜん違った。コンラッドのヨロイを着ている。
「なんだてめえは!」
「メイヴィスだよ。ホンモノの」
本物の、姫様だって?
ワイバーンが、再度ブレスを放とうとする。その顔からは、怯えが見えた。
「そうはいくか!」
ボクは、ワラビで包み込んだ拳を、ワイバーンの横っ面に叩き込む。
ワイバーンが、目から火を吹いた。口を塞いだことで、体内の炎が腹で爆発を起こしたらしい。絶命したワイバーンが、地面へ墜落した。首が、起き上がれないピグまりのすぐそばに倒れ込む。
「ひっ!」
虎の子のワイバーンが死に、今度こそピグまりは戦意を喪失してしまったらしい。
「バカな。ウチの全力を注ぎ込んだワイバーンを、たった一発で。スライムのくせに!」
メイヴィス姫が、ピグまりの元へ歩いていく。
「来るな!」
ピグまりが、トゲつきハンマーを振り回す。
姫は、ハンマーを手で払った。
それだけで、ハンマーが砕ける。
「どうした、それまでか?」
デコピン一発で、メイヴィス姫はピグまりを倒した。
強いゴーレムを操るほど、本人は弱体化するのか。だから、切り札は取っておいたのだろう。
「無事ですか、姫?」
「なんともない」
「その姿は?」
「普段は、力を分散しているのだ。わたしはエルフの父と召喚獣の母との間に生まれたのだよ」
ヨロイを外しながら、メイヴィス姫は元に戻る。
「人と関わるときは、姫本来の姿になるの」
『有事の際は、我と合体するのである』
姫とコンラッドは、二人で一つなのか。
応援のギルド職員が駆けつけ、ピグまりを拘束、連行していった。




