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第2話 スライム「ワラビ」の観察日記

 ボクは朝食も取らず、すぐに冒険者ギルドへ。ここが二四時間営業で助かったよ。


「お待ちしておりました、ツヨシさん。『ダンチューブ』であなたの動画、見ましたよっ。すっかり有名人ですねー」


「はい。おかげさまで」


 今までボクが撮ってきた分の三〇倍、ワラビで視聴者数を稼いでしまった。


「そうではなくて! ボクの住所などが、特定されてしまっていないでしょうか?」


「ないですね。我がギルドのカメラは、性的なコンテンツ、及びプライバシーに関するものには、修正が入ることになっています」


 この手のトラブルは、ちょくちょくあるらしい。


 配信切り忘れて、入浴したり着替えたりなど。恋人とイチャイチャする場面が、あったときも。クレジットカードを、間違って晒してしまうことだってある。


 中にはモンスターを相手に、エッチなことをする動画もあるそうだ。

 もちろん一発NGで、アカウントごと消滅である。


 だが一応、ギルドが処理をしてくれるという。


 さすがに暴言を吐いていたとかは、流されてしまうそうだが。


「ツヨシさんの場合、住所までの道のりなどは公開されていません」


 近所の人だと特定してしまいそうだが、とのこと。


「よかったな、ワラビ。安眠を妨害されることはなさそうだ」

「もしよろしければ、我々の提供する『冒険者の宿』などもご提供させていただきますね」


 配信業に専念したい人は、そちらを利用することもあるそうだ。だが、そうなると完全にギルドの管理下となるが。


「それがお嫌でしたら、ダンジョン近くのマンションに住むという手もございます。やや、お高いですが」


 こちらは、かなり稼いでいる人用の家である。


「考えておきます。ありがとうございます」


 ワラビを撫でながら、ボクはお姉さんに頭を下げた。


「動画、よかったです。『あーんしているところ、すこ』ってコメントは、わたしが打ったんですよー」


 うっとりしながら、受付のお姉さんは語る。『すこ』って……。


 なんだか、ギルドにまでファンができてしまっているな。


「ですが、スライムをテイムして使役する冒険者は、少ないんです。ほら、やっぱりどうせテイムするなら、強いモンスターと契約したいらしくて」


 テイムできるモンスターは、一人につき一体だけらしい。


 それで、スライムは不人気なのだとか。


「こんなにカワイイのに」


 ボクが言うと、ワラビがぷるんとボクの肩の上で飛び跳ねた。


「いいご主人さまと出会えて、よかったですね。ワラビちゃん」


 プルプルッ、とお姉さんの声にワラビが呼応する。


「今日はどのダンジョンにいたしますか?」

「いつもの階層へ」


 ボクはそろそろ、次の階層へ向かおうと思っていた。しかし、ワラビを強くするほうが先だ。


『こんにちは。ツヨシです。今日は、スライムのワラビを育てたいと思います』


 階層の入り口で、ボクは配信を始める。こんなとき、スマホやカメラを構えないってのは楽だ。武器を装備していては、撮影機材を携帯できない。できるだけ動きやすい格好で、冒険したいもんね。


 ゴブリンを相手にする。まずはボクが適当に弱らせて、ワラビにとどめを刺させた。


「よし。やったぞ。成功だ」


 ボクは手を叩いて喜んだ。テイムしてから、初勝利である。


 ワラビは、ゴブリンを吸収した。

 といっても、グロい描写などはない。ワラビが抱きついたら、勝手にゴブリンの死体は光の粒子となって分解された。後は、持っていた石斧とカブトだけになる。


 ゴブリンの所持品も、ワラビは分解して養分とした。


 この調子で、ゴブリンを狩り続ける。



 ワラビが、ゴブリンの死体を分解しているときだ。

 洞窟の裏道に、光るものが。


「危ない!」


 ボクは、ワラビをかばうために前へ出る。


「痛い!」


 隠れていたゴブリンアーチャーに、腕を射抜かれてしまった。


「この!」


 落ちていた石斧を、ダンジョンの奥へ投げ飛ばす。

 アーチャーの顔面に、石斧がクリーンヒットした。どうにか、倒せたようだ。


「大丈夫か、ワラビ……」


 なんだか、急に身体から力が抜けてきた。腕が、青くなっている。当たった矢に、毒が仕込まれていたのか。


 プルプルーッ、と、ワラビがボクに駆け寄った。ボクの腕にしがみつき、念入りにマッサージをする。


 段々と、身体が軽くなっていく気がした。ワラビが、毒を吸い出してくれたのか。


「ありがとう。ワラビ。助かったよ」


 ボクは治った腕で、ワラビを撫でる。


 もしワラビがいなかったら、ボクはこのダンジョンに取り残されてモンスターに食べられていたかも。


 身体は回復したが、体力が落ちていた。ここは、引き返さないと。


 帰り道でモンスターを狩ろうと思ったが、どういうわけか何も出てこない。


 これ幸いと、出口へ急いだ。


「動画を見ました。大丈夫ですか、ツヨシさん?」


「おかげさまで」


「救援部隊を派遣しようとしたのですが、ご自分で解決なさっていたので、見守ることにしました」


 帰り道でモンスターに襲われなかった理由は、冒険者たちが退治してくれていたからか。感謝しないとね。


「今日はキミの好きなのを買ってあげる。助けてくれたお礼だから」


 報酬をもらって、いつものスーパーへ。

 とあるコーナーへ立ち寄った瞬間、妙なことが。

 プルプルッ、と、一際ワラビが飛び上がる。


「桃が、ほしいのかい?」


 そういえば、フルーツを食べるかどうか、チェックしていなかった。レモン味のポーションを、飲んだんだ。果物だって、食べるよね。うっかりしていた。


「じゃあ、買えるだけ買ってあげるね」


 ボクが桃を買うと、ワラビが喜んだ。

 他のお客さんも、微笑ましく見つめている。

 そそくさに、ボクは自分の買い物を済ませた。見世物じゃないからね。


「はい。あーん」


 桃を切り分けて、ワラビに食べさせる。


「うわ、すごい」


 あれだけ買ってきた桃が、一瞬でなくなった。飛びつき具合が、他の食材と比較しても段違いである。


「こんなに食いついてくれるなら、モモって名前にしてあげたらよかったかもね」


 そんなことを話したら、ワラビが横移動した。ワラビという名前、気に入ってくれているんだな。それはテイマーとして、ちょっと誇らしい。


「キミがしゃべれたら、もっとキミのことを知れるんだけど……」


 まあ、高望みしてもしょうがないよね。


「ボクは、キミが言葉を話せなくても、大好きだよー」


 撫でてあげると、ワラビはプルプルっと寄り添ってきた。ああ、かわいいなあ。


 さすがに今日は疲れた。もう寝よう。






 翌朝、ボクは聞いたこともない女性の声で目を覚ました。


「お仕事の時間です。起きてくださいマスターツヨシ」


「う、ん……あれ? キミは、ワラビだよな?」


「はいマスターツヨシ。レベルが上がって、言葉を話せるようになりました」」


 なんと、ワラビがボクに語りかけてきたではないか。

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