学園生活の始まり
「「自分の部屋より豪華だわ…」」
ミーナとフランカの声が見事に重なった。
明日から始まる学園生活のため、二人は三日かけて王都にやってきた。
王都についてすぐ、これから自分の住処となる寮の部屋を訪れ、その豪華さに呆気に取られている。
部屋に入ると、小さいながらも玄関のスペースがあり、ソファーセットの置かれたリビング、ミニキッチンと続き、さらに奥の部屋には天蓋付きの広々としたベッドルームがあった。もちろん、お風呂とトイレも備わっている。
白とクリーム色を基調とした部屋は暖かみがあり、白で統一された調度品も相まって、令嬢が好みそうな可愛らしい雰囲気になっていた。
フランカの部屋は、ミーナの隣で、全く同じ作りをしている。
元々寮の利用者はかなり少ないため、自由に部屋を選ぶことが出来たのだ。
「今日からここに住めるなんて夢みたい…」
フランカは、キラキラした瞳で、くるくると回転しながら部屋を見渡し、これから始まる学園生活に期待を寄せ、胸を弾ませていた。
「でもなんだか少し落ち着かないわ…」
ミーナは、不安そうな顔をしていた。
そんな彼女を励ますように、フランカは努めて明るい声を出した。
「大丈夫よ、すぐに慣れるわ。私もすぐ隣の部屋にいるんだから。」
「やっぱり、シストの姿絵を持ってくれば良かった…私、あの視線がないと眠れない気がする…姿絵が恋しい…」
「ああ、そっちね…。でも寮の部屋では自重しておきましょうね…。さすがにあんなのを同級生に見られたら、変人確定だわ…」
ミーナは、シストの姿絵で囲まれる生活にも慣れて慣れ過ぎて、その結果、何もない部屋に物足りなさを感じていたのだ。
ちなみに、あれだけの部屋の改造をして両親にバレないわけがなく…しっかりと見られ、二人は娘の狂気としか思えない行為に泣くほど悲しんでいた。
「これからは、本物のシスト様がいるんだから、いいじゃない!貴女は、彼の婚約者として明日から学園に通うのよ。」
「こ、、婚約者…完全に忘れてたわ…どうしよう、緊張してきた…気持ち悪い…うっぷ…」
「落ち着いて!ミーナは見た目が良いんだから、自信を持って、堂々と婚約者面していれば良いのよ。何かあっても、きっとシスト様が庇ってくださるわ。」
フランカは、緊張で死にそうになっているミーナの背中をさすり、必死に宥めた。
とにかく、彼女の学園生活が落ち着くまで、なるべくミーナのそばにいようと決めたのだった。
翌朝、制服を着て身支度を整えた二人は、朝食を取るために食堂に行ったのだがら他の人はおらず、ガラリとしていた。
朝のメニューは、卵の焼き方が選べるモーニングプレート一択であり、二人ともスクランブルエッグを選んだ。
食事を終えたミーナとフランカが寮の外に出ると、門の近くに人が集まっている様子が目に入った。
「ねぇ、これ何の騒ぎかしら?」
「入学式のイベント?でも、校舎は隣の敷地にある建物よね。なんで、こんな寮の前に人だかりが…」
不思議に思いながらも、二人が門の方へ歩みを進めていくと、人だかりがこちらに近づいているような気がした。
「え…なんかこっちに近づいてる?」
「だ、大丈夫よ、ミーナ。私たちは何も関係ないのだから、目を合わせずに通り過ぎましょう。初日から変なことに巻き込まれたくないわ。」
「そ、そうね。」
二人は、下を向いてなるべく道の端っこを歩いた。
早くここを通り過ぎたい一心で、自然と早足になる。二人とも、貴族令嬢とは思えない結構な速度で歩いていた。
ようやく門を抜けられると思った瞬間、頭上から声がした。
「おはよう、僕のミーナ。」
甘い声で名前を呼ばれたミーナが、反応して顔を上げると、そこには、金髪碧眼の天使のように美しい少年が微笑んで立っていた。
天使が自分の名を呼び、自分だけに微笑みかけてくれることに、ミーナは、歓喜を通り越して気を失いかけた。