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初めてのお買い物


「おいおい、まだ買うのかよ…もう3件目だろ…お前、宝石屋でも開くつもりかよ…」


シモーネは呆れた顔で、隣を歩くシストを見た。彼は普段通り涼しい顔をしているが、どことなく機嫌が良さそうであった。



 

ミーナから婚約の了承を得た翌日、シストは友人のシモーネを誘い、買い物に出掛けていた。


自発的に何か物を買いに行くなど、幼少期の記憶を辿っても、恐らく今回が初めてであった。

シストは、いつもと違う自分に、少し不思議な感覚で王都を歩いていた。



朝からシストの買い物に付き合わされているシモーネは、宝石屋巡りに疲労困憊していた。

興味のないものにひたすら付き合わされることは苦行でしか無かった。


シストとは長い付き合いのシモーネだが、彼から初めて買い物に誘われた。珍しいこともあるもんだと二つ返事で了承したのだが、今は後悔しかない。



シストは、王家御用達の宝石店を訪れては、似たような青色の宝石がついた貴金属ばかり購入している。

同じような青色を比較しては悩み、悩んでは両方購入するという豪快な買い物を繰り返していた。



「好みが分からないからな。種類を揃える必要がある。」


シストは、至極当然とばかりに言い切った。



「その割には、お前の色一色だけどな…。これ、全部ブレッサン嬢へのプレゼント?」


「…誰それ?」


「は?お前の婚約者候補だろ!?ブレッサン侯爵家のアイーダ嬢!お前の次に身分が高い、ブロンドヘアの美女だよ!!」


シモーネは語気を強め、『美女』の部分を強調して伝えたが、シストの反応は薄かった。



「婚約者候補?そんなの僕にはいない。僕の婚約者はただ1人だけだ。」


シモーネの言葉に、シストの機嫌が一気に悪くなった。

元々感情が表に出にくい性格をしているシストだが、彼の纏う空気が冷え込んだことで、シモーネは彼の苛立ちを感じ取った。



「はぁ…またお前の『黒髪の少女』の話かよ…いい加減、現実を…」


「やっと見つけたんだ。」


「は…それ、本気かよ…」


「ああ。ミーナ・パトローニ、それが黒髪の少女の名であり、僕の愛しの婚約者だ。」


ミーナの名を口にした瞬間、シストの纏う空気が一気に柔らかく穏やかなものへと変わった。

初めて見るシストの優しい表情に、シモーネは目を見開いた。



「お前、本気だったんだな…それにしても、見つけただけじゃなくて、もう婚約を結んでいるとは…そんなにすぐ、どうやって口説いたんだよ。ズルい、俺にも教えろ。」


馴れ初めが気になって仕方のないシモーネだったが、最後の方は本音が漏れていた。



「まだ婚約を取り付けただけだ。これから口説いて彼女をモノにする。」


シストは、獲物を捉えるような鋭い目つきで空を仰ぎ見た。



「は?それどういう意味だよ…」


「まだ話したことないからな。」


「はぁ?話したことがなくて、婚約を申し込むとかアリなのかよ…。お前、どんだけ神経図太いんだよ…」


「公爵家の看板とこの顔だからな。それは、強気にもなるだろう?」


「…お前、清々しいほどにムカつくな。こっぴどく振られてしまえ。」


「次は、西区の宝石店に向かうぞ。」


「…へいへい。」


精一杯の負け惜しみすら流されてしまったシモーネは、仕方なくシストの背中を追った。


たが、言葉とは裏腹に、シモーネの顔には笑みが溢れていた。親友が、長年の空想の片思いを現実の片思いに変えられたことを嬉しく思っていたのだ。



あわよくば、このまま二人が両思いに…



絶対に本人に言うつもりはないが、心の内だけでそんなことを祈ったシモーネであった。





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