慣れろ大作戦
もうすぐ学園の寮で暮らすにも関わらず、ミーナの部屋は何故か模様替えの真っ最中であった。
フランカが持って来た紙を二人で手分けして、せっせと壁に貼っていく。
「よしっ!これで準備は整った。」
「すごく素敵な部屋になったわ。」
やり切った感の顔をしているフランカと、うっとりとした表情を浮かべるミーナ。
一緒に同じ部屋を模様替えしていたはずなのに、二人の反応は全く異なっていた。
それもそのはず、これがフランカの言っていた特訓のための部屋だからだ。
壁一面に張り巡らされているのは、シストの姿絵であった。
有名人且つすこぶる見た目の良い彼は、絵師によって姿絵を描かれることが多く、それが出回っているのだ。
フランカはそれ買い占め、ミーナの部屋に持って来た。この顔を日常的に視界に入れることで、無理やり慣れさせるというのが特訓の趣旨らしい。
シストの顔面が大好物であるミーナにとって、これはご褒美でしか無かった。
「こんな美男子に囲まれて過ごせるなんて…至福の極みね…」
ミーナは、うっとりを通り越して、恍惚とした表情を浮かべ始めた。
「ちょっと、ミーナ!これは特訓なんだからね。この顔を目にしても、真顔で平常心を貫くのよ。そこ!行ったそばから口元緩んでる!」
「だって…こんな素敵なお顔がたくさん…あ、今目が合ったわっ」
「顔を赤らめるな!動揺を見せるな!興味があると思わせるな!」
「ふぇ…」
「ちなみに、こんなのも作って来たのよ。」
フランカが自慢げに取り出したのは、またしてもシストの顔だった。
だが、手にしているそれは、絵姿から切り取られた顔部分のみであった。
こんなことが周囲にバレれば、間違いなく不敬罪で捕まるだろう。
フランカは、取り出したシストの顔を自分の顔を隠すように重ねた。
「ミーナ、愛している。今晩、君の部屋に泊めてもらってもいいだろうか。」
フランカは、声を低くして愛の言葉を囁いた。シストのフリをしているつもりらしい。
「ええ、喜んで!」
「こらっ!!」
「いたぁっ!!」
完全に目がハートマークになっていたミーナは、甘い誘惑に快諾してしまった。
すかさず、フランカはシストの顔で彼女の頭を叩いた。
「嫁入り前の女子が男を部屋に上げるな!私は、ミーナが心配でたまらないわ…」
「じょ、冗談よ。いくらなんでも、部屋に上げるなんて、、ねぇ?」
「はぁ…」
この子なら絶対にやるわと心の中で思ったフランカは、盛大にため息を吐いた。
「仕方ない…美形を前にするとミーナがポンコツになることが分かったから、私が徹底的に鍛えてあげるわっ!」
こうして、シストの想いなど微塵も知らない二人は、フランカの叱咤の元、ミーナのシストの顔に慣れる特訓が始まったのだった。