フランカの提案
え…うそでしょ…せっかくあんなイケメンと婚約出来たのに、またすぐに捨てられるの…??飽きられるって…私また失敗するの…?
ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ、絶対にイヤ。
あの時は、人生初の彼氏に浮かれまくって目の前の現実から目を逸らして、何も見ようとしていなかった。
けれど、今は違う。
前世での失敗を活かして、チャンスを掴んだ現世で本当の幸せに繋げるんだ…!
「フランカ!私飽きられたくないわ。絶対に捨てられたくないの。お願い…一緒に方法を考えて。」
ミーナは、フランカの手を両手で握りしめ、泣きそうな目で縋った。
フランカは、昔から彼女のこの瞳に弱い。
「…分かったわよ。親友の一生に関わることだから、私も協力するわ。」
「わぁ!フランカ、大好きっ!!」
ミーナは、喜びを爆発させてフランカに抱き付いた。
ひどく嬉しそうな顔をしているが、そもそも、すぐに飽きられるなどフランカが根拠も無しに勝手に言い出したことである。
ミーナは、前世のトラウマで頭がいっぱいになり、そこまで考えが至っていなかった。
季節は巡り、春の入学時期が近づいて来た頃、ミーナ達の周りでは、入学準備に慌ただしくなっていた。
学生達は、王都にある屋敷から馬車で学園に通うのが通常であり、普段領地に居を構える者でも、王都にタウンハウスを用意して、そこから通う者がほとんどである。
だが、稀に、経済的な理由でタウンハウスを用意出来ない者や諸事情で通学が難しい者のために、学園には寮が併設されている。
学園のすぐ隣に位置し、徒歩での通学が可能だ。
門番も夜間点呼もあり、安全面に十分に配慮されている。
ミーナのことを心配した両親は、タウンハウスがあるにも関わらず、入寮を決めた。シストとのことを不安視していたからだ。
ミーナが寮生活になること聞いたフランカは、じゃあ私もと言い、同じく寮を選んでいた。
寮は、家具付きの個室で、同じ建物内には食堂もあり、使用人も常駐している。そのため、用意するものは休みの日に着る服くらいで、特に準備をする必要はない。
準備のいらないミーナとフランカは、忙しくないはずなのだが、連日、ミーナの部屋に篭り、何やら二人は多忙を極めている。
「ミーナ!新しいやつ仕入れて来たわよ!」
「さすがフランカ!頼りになるわ!」
フランカが持って来たのは、大量の雑誌だった。
表紙の色合いや挿絵、タイトルから、やや大人びた雰囲気の内容であることが分かる。
「フランカ!これ参考になりそうじゃない?」
そう言って、爽やかな笑顔で取り出した雑誌には、堂々と、『魅惑の身体で殿方を虜にする方法』と書かれている。その文字の隣には、胸元が大きく開いた服を着た女性の挿絵まで書いてある。いかがわしさ満載だ。
「ミーナ…それどういう意味か分かって言ってる?貴女には100年早いわ…」
呆れたフランカは、彼女の手から雑誌を奪い取ると、ポイっと部屋の端に投げ捨てた。
「もう少し、ミーナでも出来そうなやつを…」
フランカは手元にある雑誌をパラパラとめくり、真剣な顔で、内容に目を通していく。
フランカの提案で、平民の間でひっそりと流行っている恋愛雑誌から、飽きられないための秘訣を探ることになったのだ。
彼女は、王都に領地の特産品を送る役を担う使用人に頼み込み、帰りの馬車に最新の恋愛雑誌を詰んでもらっていた。
それで二人して、恋愛雑誌を読み漁ることに忙しくしているというわけだ。
「これよ!」
ようやく見つけた一冊をフランカが自信満々に掲げた。
そのタイトルは、『愛されたいなら、絶対に絆されるな!』というかなり強気なものであった。
いまいちピンと来ないミーナは、何それー?という顔で見ている。
「これに書いてあったわ。落ちない女は、最後まで求められるって!つまり、簡単に手に入らない女を演じれば、相手が必死になって追いかけてくるってことよ!」
「それは一理あるかもしれないけど…あんな天使みたいな顔で迫られたら…私耐えられないわ。なし崩し的に許しちゃう。」
「その可愛らしい顔で、そういうことを言うのはやめなさい…」
フランカは額に手を当て、変なところで大人になるミーナに、ため息を吐いた。
「とにかく!落ちないように頑張るしか……あっ!良いことを思い付いたわ。…ミーナ、特訓するわよ。」
悪巧みを思い付いたかのような、いたずらっ子の笑みを見せたフランカ。
こうして、秘密の入学準備によって、二人は更に忙しくなったのだった。