幼馴染のフランカ
「ミーナ、それで?お茶会はどうだった?」
目をキラキラさせながら、前のめりになって聞いてきたのは、ミーナの幼馴染のコルティ男爵家のフランカだ。
ミーナが領地に戻ってきた翌日、早速フランカが彼女の部屋を尋ねてきたのだ。
クセのある赤毛に、顔にあるそばかすが特徴的のフランカは、牧場が良く似合う風貌をしている。実際、コルティ家の領地には広大な面積の牧場があり、牛乳やチーズ等の加工品を王都に卸している。
二人は同い年で、田舎貴族同士ということもあり、幼い頃から仲が良い。
何かとミーナの部屋にフランカが遊びに来ており、二人でおしゃべりを楽しむのが日課だ。
今回、親の仕事の都合で王都のお茶会に参加出来なかったフランカは、ミーナから話を聞くのを心待ちにしていたのだ。
「お花が素晴らしかったわ。田舎の花とは全然違うの。物凄く綺麗に整えられていて、花屋みたいだったわ。」
庭園の様子を頭に思い浮かべ、なるべく詳細に伝えようとしているミーナに、フランカは呆れた顔をした。
「そんなの当たり前でしょ…お茶会の会場は王都にある王家所有の土地なのよ。こんな田舎と比べてどうするのよ。そして、私が聞きたいのはそんなことじゃなくて…」
ソファーに座っていたフランカは、ローテーブルに手を付き、身を乗り出してミーナに迫った。
「良い人はいなかったの?結婚相手を探すためのお茶会でしょ?」
「えっと…出来ました…」
キラキラした瞳で見つめてくるフランカからそっと目を逸らして、不自然な方向に目を向けたまま呟くように言った。
「え!?はっ!?ミーナ、貴女恋人が出来たの!?うそ、やだーーーー!!!貴女、男なんて興味ないって言ってたじゃない!!」
フランカは、自分で恋の話を期待したにも関わらず、自分と同じだと思っていたミーナに恋人が出来たという事実に驚きが隠せない。
置いてかれた感に、胸がザワザワしている。
「…モンタルド公爵家の人よ。」
「な、何ですって…!!?」
驚愕のあまり、フランカはソファーから勢いよく立ち上がった。
モンタルド公爵家の1人息子のシストは、その美貌と身分の高さから、国中の令嬢が憧れの対象とするほど、人気が高い人物だ。
このパーチェ王国には、生まれたばかりの王子しか子どもがおらず、シストは、現在結婚適齢期に当たる女性の相手として最も身分の高い未婚男性となる。
「うそでしょ…なんであんな高貴なお方が…男爵令嬢の恋人に…一体、二人の間に何があったのよ…詳しく聞かせてもらうわよ。」
一気に感情が昂ったフランカだったが、今度は糸が切れたように、ポスッとソファーに座り込んだ。
「恋人というか…婚約を申し込まれたんだよね…それで承諾したってだけなんだけど…」
「はぁっ!?初対面じゃないの?それがどうしていきなり婚約になるのよ!」
「それが…お茶会の時に木陰で寝てたところを見られただけなのよ。本当に不思議だよねぇ…」
他人事のように、のほほんと話すミーナに、フランカはもう呆れるしかなかった。
一方のミーナは、へらへら笑いながら、呑気に紅茶を啜っている。
「待って…ちょっと整理させて欲しいわ…」
片手を挙げたフランカは、時系列を整理しながら再度ミーナに事情聴取を行っていった。
「なるほどね、婚約の理由は分からないけれど、相手の顔が抜群にタイプだから、何も聞かずに了承したってことね。」
「はい、おっしゃる通りでございます…」
何度も話を聞かれる内に、段々と取り調べを受けている気持ちになってきたミーナは、膝に手を置いて背筋を伸ばし、言葉遣いが敬語になっていた。
「これは、私の推理だけど、恐らく、彼は貴女の見た目に一目惚れしたのよ。」
フランカは、これが答えだ!と言わんばかりに、ビシッとミーナのことを指差した。
「へ…そんなことあります…?」
未だ敬語のミーナは、コテっと首を傾げた。
傾けた方の肩に、ゆるくウェーブの掛かった艶のある黒髪が流れた。
茶色の瞳をまん丸くさせ、無警戒にキョトンとする顔は、庇護欲を掻き立てられる。
それに加え、白く透き通るような肌や長いまつ毛が、彼女に人形のような美しさを与えていた。
今は田舎におり、周りに年頃の男性がいないため、ミーナに自覚が無いのだが、彼女は王都なら誰もが振り向く美少女であった。
「まったくミーナは…来年は学園に通うのよ?ちょっとは自覚しなさい。それと、このままだと危険よ。」
「な、何が危険なのでしょうか…」
固唾を飲んでフランカの答えを待つミーナ。
勿体ぶるように間を置くと、フランカはゆっくりと口を開いた。
「このままじゃ、すぐに飽きられるわよ。」
「え…」
フランカの言葉に、ミーナは前世のトラウマが頭をよぎった。