【番外編】シストの作戦勝ち
「ねぇミーナ、君は甘いのと淡白なのとどちらが好みかな?」
爽やかな秋空の下、ミーナのことを寮の門まで迎えに来たシストが唐突に尋ねてきた。
小首を傾げて可愛らしい表情を作り、ミーナの返事を待つ。
え、なになになになに!!?
朝っぱらからなんのご褒美タイムですか!!おいくらですの!!
あぁいつにも増して、大人びた顔と甘える時の顔の使い分けが絶妙だわ…それにどんどん手慣れてきているようにも見える…
ま、まさか…この私の好みに寄せてきてくれている!??推しているのはこっちのに、推しの方から歩み寄ってくださるなんて、、、なんて最高なファンサなのっ!!これぞ推しの鏡!!ああもう至高だわ…
「ミーナ?」
「し、失礼いたしましたわっ!ええと、どちらも大好きですっ!!」
シストの言葉をミーナが否定するはずがなく、またもや何の話か聞かないまま即答してしまった。
にっこにこの笑顔をシストへと向ける。
一方、まだ彼女の満遍の笑みに対する耐性を会得していないシストは、ぎこちなく視線を逸らして乱れた呼吸を整える。
「ミーナ、僕は君の好きなものを知りたいんだ。」
顔を晒したまま、苦しそうな声で想いを吐露したシスト。その表情は切なく、ミーナの胸を締め付けた。
「ご、ごめんなさい…シスト様のことを困らせるつもりなんて無かったのです…」
「ごめん。ミーナは何一つ悪くない。君に聞かないと分からない僕の不甲斐なさのせいだ。そんな顔をさせてしまって本当にすまない…」
長いまつ毛を伏せ、俯くシスト。
ななな、なな、なんて美しい角度なの!!不謹慎だなんてそんなこと分かっているけれど、美しい顔が切なげな表情をする破壊力の凄まじさよ………これはもう芸術品に違いない。どんな一流の彫刻も彼には敵わないわ!
この切なくて美しい姿を、彫刻にして後世に残したい…これは紛れもなく国宝級だわ。そしてあわよくばそのレプリカを我が物に…
「決めたよ。」
「え?」
先ほどまでとは打って変わって、どこか吹っ切れたような明るい声音で言い切ったシスト。
ミーナには彼が何を言っているのかさっぱりだったが、堂々とした姿の彼はやはり魅力的であり、ああこの顔も好きだわ…と何も考えずに見つめ続けていた。
「ミーナが一番好きなのは、強気な態度の僕だと思うんだ。」
「えっ…」
だ、だだだた、大正解ですっ!!もちろん、甘い顔も儚げな顔もキョトン顔も大好きですが、あの強気な態度は堪らんのでございます…
はぁ…思い出しただけでも動悸が….…
あの一瞬のことだけで、ご飯何杯でもお代わりがいける不思議…こんなこと、はしたないって言われるから言葉に出来ないけれど、本当は声高に叫びたいっ!!強気なシスト様に敵無しっ!!
「お、お恥ずかしながら…その通りにございます。もちろん、普段の知的なご様子も甘いお顔も可愛らしい一面も全て大好きだということには変わりありませんわ。」
「ミーナって、本当に僕の枷を外すのが上手いよね。そんなに僕のことを煽ってどうするつもり?何をして欲しいの?」
穏やかな顔はそのままなのに、一転して捕食者の目でミーナのことを見下ろしてくる。
これまで感じたことのない冷たい視線に、ミーナは全身に震えが走った。
きゃああああああっ!!
こんなシスト様見たことないわっ!これは強気というよりもはやドS!こんなに美しい顔で普段蜂蜜のように甘い彼が見せる攻めの姿勢…全身のゾクゾクが止まりません…ちょっとさすがに刺激が強すぎて、動悸が…呼吸が…そんな気はないと思っていたのに、この顔でこの目でこの声で罵られたら…って、それは流石にまずいわっ!!!その扉は絶対に開けちゃダメなやつ…私、一生戻ってこられない自信があるもの…
「ミーナ」
またもや脳内で思考を暴走させるミーナに、シストは詰め寄ってきた。
「僕以外のことを考えていたら許さないよ?」
彼女の全神経を自分に向けさせるように、ミーナの腰に手を回し、鼻先が触れるほど顔を近づけてくる。
「そ、そんなことは決して…」
あまりの近さに、ミーナが耐えきれず顔を晒そうとしたが、シストの手によって阻止されてしまった。
自分の瞳から逃げないよう、ミーナの頬に手を添えて動きを封じる。逃げられなくなったミーナは、せめてもとぎゅっと目を閉じた。
「俺から目を逸らすな。」
目を閉じることしか身を守る手段が無くなったミーナに、シストはそれすら許さないと言ってきた。
彼女の頬に手を添え、至近距離で瞳を見つめ、そして目を逸らすなと要求してくる。それは強気な態度以外の何物でも無かった。
な、なななんて!!?い、今なんておっしゃいまして!!?これまでに一度も聞いたことのない乱暴な口調なのに、どうしてこんなにもときめいてしまうのっ!!!
そしてまさかのここに来て一人称俺っ!!半端ない破壊力だわ……つ、強気なシスト様最強過ぎます………!!
もうどうともなさってくださいませ。ご要望とあらば私はシスト様の下僕になる覚悟も…
「噛み付くなよ。」
シストは目を閉じるとミーナの顔を手で固定したまま唇に向かってきた。
キスされると思ったミーナは、ぎゅっと強く瞳を閉じる。
近づいた彼の唇から吐息と体温が伝わる。もうそれだけでミーナは発狂寸前であった。
ついにキスされる……あのシスト様にっ!!!
ミーナが心の中でシストに溺れる覚悟を決めた瞬間、ぴたりと彼の動きが止まった。
訪れないその時に、ミーナが恐る恐る目を開けるとはにかんだ笑顔のシストと目が合った。
「やっぱりミーナにはとことん甘くしたいんだよね。」
先ほどの強気で俺様な態度から一変、いつもの蜂蜜のような蕩ける笑顔を向けてきた。
「えっ…」
驚くミーナの髪を人撫ですると、彼女の頬を押さえていた手を顎に移動させ、優しく上を向かせる。
「ミーナ、僕は君のことが何より愛しい。どれだけ月日が経とうともこの想いが色褪せることない。だって僕は、生涯君に恋し続けるんだから。」
潤んだ瞳で見つめながら、感極まって掠れ声で愛を伝えてきたシスト。
彼の想いに、その声に、その蕩けるような笑みに、ミーナは全ての感覚を奪われた。
目も耳も鼻も手も、それらに備わっている機能は全てシストからの愛を感じるためのものだったのだと、本気でそう思うほどに。
「私もシスト様のことが一生大好きです。この気持ちが大きくなることあっても、減ることなどあり得ませんわっ。」
「ありがとう、ミーナ。心から愛してる。」
シストはゆっくりと唇を近づけ、優しく触れるだけのキスをした。
このためにいつもより早い時間に迎えに来ていたシスト。何度も何度もシミュレーションをしたこの展開。
ようやく念願叶った彼は、例えようのない至福に包まれていた。
そのあまりに多幸感溢れる二人の姿に、寮から出たばかりのフランカは回れ右をして正門を使わずに裏門から出て行ったのだった。
いつだってシスト様が優勢のようです(´∀`)果たしてミーナが勝てる日は来るのだろうか(;´д`)




