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結婚するまで落ちない女になるって決めたけれど、もうすでに無理そうです。  作者: いか人参


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シストの口撃


シモーネのエスコートで馬車から降りたフランカの目の前にある建物は劇場だった。


様々な建物が立ち並ぶ王都に、独特の形をしたかなり大きな建物が建っている。

この国唯一のこの劇場は、貴族からの人気が高く、休日とあらば多くの人で賑わう。


だが、休日であるはずの今日、他の人の姿はどこにもなく、閑散としている




「これ…今日休みなのかしら?誰もいないわよ。」


フランカは、ここに連れて来た張本人に、なんでここに連れて来たのよと非難めいた視線をぶつけた。



「今日はモンタルド公爵家の貸切だからな。」


シモーネは、フランカの視線をさらりと躱し、なぜか自慢げだった。

誰もいない中、正面の入り口に向かおうと、フランカの手を引く。



「ちょっと待ってよ…ここを貸切って…一体いくらかかって…いえ、野暮なことを考えるのはやめますわ。この国一番の貴族様でしたものね…」


普段のミーナに首ったけのシストを見ているとつい忘れがちになるが、モンタルド公爵家は王族に匹敵するほどの実力を持つ一族である。劇場の一つや二つ貸切にするなど、造作でもないことなのだ。



「そういうこと!じゃ、俺らも行こうか。」


「え?貸切なら私たちは入れないんじゃ…」


「俺の家名を忘れてないか?ペンテ子爵家はモンタルド公爵家の分家にあたる。この名を使えば、公爵家の貸切に割り込むなんて容易い。きっと驚くだろうなぁ、どんな顔するかな、シストのやつ。くくっ、楽しみすぎる。」


「…やっぱりやめておけば良かったわ。」


ミーナのことが心配で、ついシモーネの誘いに乗ってしまったが、やはりこれは彼の娯楽でしかなかった。

フランカは、彼の悪ふざけに加担してしまったことを後悔していた。



「そんな顔するなって!せっかく来たんだから、演劇も楽しんだらいいじゃん。な?」


「誰のせいよ、まったく…」


まるで危機感のないシモーネに、フランカは呆れ返っていた。






シストはこの日、王都ならではの体験をしてもらおうと演劇の席を取っていたのだ。


この劇場は、建物自体がかなり古く、個室という席が存在しない。そのため、二人きりを満喫したかったシストは、劇場を貸し切るという大胆な手を使った。


先ほどの昼食の席で、ミーナのことを甘やかすことに成功したシストは、二人きりで鑑賞できる状況に期待を寄せていた。今度はどうやってミーナのことを甘やかそうか、そんなことで頭の中がいっぱいであった。




「正面中央の席にしようか?」


人っこ一人いないこの劇場で、シストはミーナの手を引き、楽しそうに席を選んでいる。一方のミーナは、困惑の表情を浮かべていた。



「シスト様、今日はなぜ人がいないのでしょう?いつもこんなに空いておりますの?」


「あぁ、いつもは人で溢れかえっているよ。今日は、ミーナと二人きりになりたかったから、他の方々には遠慮してもらったのさ。」


悪びれる様子もなく、さも当然という口調であった。

『二人きり』という言葉を強調し、すぐ隣にいるミーナの頬をするりと人撫でした。それは誘惑しているような手つきだった。



「…っ!!」


肌に優しく触れてきたシストの手の感触に、ミーナの顔は一気に赤く染まった。

薄暗い劇場内でなければ、羞恥に染まった顔をシストの前に晒してしまっただろう。


なんとか悲鳴は上げずに済んだミーナ。



うっひゃ!!!びっ、びっくりした…いきなりのお触り…もそうだけれど、シスト様の手がものすごくすべすべしていたわ…これがイケメンの実力…頬擦りしたくなる心地よさだったわ…


手の感触までかっこいいとか、もう人間離れが凄すぎる…


とにかく、声を上げずに済んで良かった…暗がりで顔の色も分かっていないでしょうし、自然を意識して、自然な流れで、自然な会話を…



「あれ?ミーナ、もしかして、今のでドキドキしてくれた?僕のこと、感じてくれたの?嬉しい。」


シストは余裕たっぷりに言い放った。

顔が見えなくても、彼が怪しい笑みをしていることは容易に想像がつく。



な、なななな、なな、何ですって!?し、シスト様のSっ気が更に増しているわ!!!!あの風貌にこの攻め姿勢…相性が良過ぎる…そんなつもりはないのに、あの瞳に見つめられると、ドキドキが止まらないわ…


このまま攻められて、シスト様に落ちていきたい…


…いや、ダメよ。

こんなデート初回で陥落されるなんて、そんなチョロい女になっては、すぐに飽きられてしまうわ!


この状況が惜しいけれど、輝かしい未来のために、心を鬼にして、今はクールに突き放さないと!!



「まぁ、シスト様ったら。私はいつでも貴方のことを感じておりますわ。今更何をおっしゃいますの?」


ミーナは、小指を立てた手を口元に添え、悪女のような笑みを浮かべた。


ちなみにこれは、学園に入る前にフランカと読み漁っていた恋愛小説の中に出て来た経験豊富な娼婦が太客に言うセリフだ。



「嬉しい…君がどんな時に僕のことを感じるのか具体的に教えて?もちろん、僕からも言おう。公平じゃないからね。」


シストはミーナの言葉に動揺することもなく、ノリノリで答えて来た。

このデートの主導権は完全にシストに握られていた。



ぎゃああああああああ!!!想像と違ったわ!!シスト様が照れて話を有耶無耶にする作戦が台無し!!!!でもそんなシスト様も素敵!!


やっばり私はシスト様に溺れる運命なのかも…それも悪くないわ…



シストにやられっぱなしのミーナは、戦意を喪失し、楽の方へと傾きつつあった。

徐々に自分に押されていくミーナに、それが嬉しくて仕方のないシストは、口撃の手を緩めることはなかった。




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