突然の来客
ーコンコンコンッ
「コルティ様」
自室で恋愛小説を読んでいたフランカは、ノックの音に驚いて顔を上げた。
その声から、寮の使用人であることは分かったが、一体自分に何の用だろうと不思議に思いながらドアを開けた。
「どうかなさいましたか?」
「コルティ様宛にお客様がいらっしゃっています。来客用ロビーでお待ちになっております。」
「…はい?」
フランカは自分を尋ねてくる人物に心当たりが無かった。
遠方の家族が訪ねてくるのは有事の際だろうから、こんなに穏やかに呼び出されたりしない。
「誰かの反感でも買ったのかしら…」
フランカは、外行きのドレスに手早く着替え、訳も分からないまま、相手が待つというロビーへと向かった。
「会えて良かった。」
「なぜ、シモーネ様がこちらに…?」
まさかのシモーネの登場に、フランカは思い切り顔を顰めた。
それもそのはず、ここは女子寮、家族でも婚約者でもない男性が気軽に来て良い場所ではない。
「ミーナ嬢のこと心配なんじゃないかと思って。」
「え!?ミーナに何かありましたの!?ま、まさか…もうシスト様の手の内に…」
わなわなと怒りに震え出したフランカは、ポケットからハンカチを取り出すと、令嬢らしからぬ力で握りしめた。
爪が手のひらに食い込んでしまいそうだ。
「…一旦落ち着けって。そうならないように、誘いに来たんだ。よしっ!これから一緒に様子を見に行こう!」
彼は、ヘラヘラと笑いながら、気軽な口調で言ってきた。相変わらずの彼の態度に、フランカはため息を吐きかけたが、なんとか堪えた。
「それは…ご友人のデートを覗き見るおつもりで…?」
「うーん…それは良くないな…じやあ、言い方を変えよう。フランカ嬢、今流行りの観劇を観に行かないかい?たまたま偶然に良い席が取れたんだ。」
「たまたま、ねぇ…?」
取ってつけたような言い訳を決め顔で言ってくるシモーネに、フランカは思わず訝しげな目を向けてしまった。
「そう睨むなって。フランカ嬢も心配なんじゃないの?ほら、シストはたまにやり過ぎるからさ。今日は二人きりだし、余計にさ。」
「…確かに二人からは危険ね…シスト様に迫られたら、ミーナの歯止めが効かなくなるわ。」
「は…心配するところおかしくね?」
「言っておくけど、私お金持ってないわよ。」
一気にシモーネの扱いが雑になったフランカ。彼の言葉を軽く無視して、ちゃっかり、お金を払わない宣言をしてきた。
「ご心配なく。俺にだってそのくらいの甲斐性はある。ちなみに、ちゃんと馬車も用意してあるからな。」
「観劇の時の飲み物も?」
「へいへい」
フランカの可愛い我儘に、シモーネは仕方ないなと呟いて苦笑していた。
「宜しければ、お手をどうぞ。」
「まぁ、気が利きますのね。」
フランカは、彼の気取った言い方にやり返すように、わざとらしく両手で口を隠して、驚いたように目を丸くした。
その反応に、シモーネはククッと笑い声を漏らしていた。
彼女に睨まれる前に、紳士の顔に戻り、フランカのことを馬車までエスコートしていった。
フランカと並んで歩くシモーネの横顔には、優しい笑顔が浮かんでいた。
嬉しそうに隣を歩くシモーネのことを、フランカは犬みたいな人ねと微笑ましい気持ちで見ていた。




