御礼がしたい
放課後、寮に帰ってきたミーナは、自室でフランカにこっぴどく叱られていた。
「腐っても貴族令嬢でしょう!口が滑ったって人前で外泊なんて言ってはダメよ!変に迫られでもしたらどうするのよ!」
「シスト様だったら…嬉しい、かも…」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、口元はニンマリとしている。
ミーナは、シストのこととなると、全てを好意的に受け止めてしまう。
「やっぱり私は、あんたが心配だわ…」
呆れたフランカは、いろんな感情を通り越して、遠い目をしていた。
気を落ち着かせるために、食堂から持ってきた紅茶を一口啜った。
「ねぇ、ちょっと相談なんだけど…」
紅茶を啜って現実逃避をしていたフランカに、ミーナは、なにやらモジモジと恥ずかしそうに切り出した。
細かく瞬きをするたびに長いまつ毛が揺れ、儚げな印象が増す。もっと見ていたいと思わせる瞳ををしていた。
相変わらず、その見た目だけは、高位貴族に引けを取らない完璧さであった。
「…なによ?」
「その…シスト様への御礼何がいいかなって。何をあげたら喜ぶかしら…」
「え?何に対する御礼?何かあったかしら?」
「やだなぁ、もうっ!今日のお昼休みに話してたじゃない。シスト様との、で、デートの話。」
自分で発したデートという単語に、ミーナは、ぽっと顔を赤らめ、クネクネと左右に揺れている。
「それは覚えてるわよ。で、どうしてその話が出てくるのよ。」
「え?だって、シスト様がデートをしてくれるのよ?何か代価が必要でしょう。こんなの、タダでお受けしたら天罰が下るわ。」
「は…」
シストのことをアイドル扱いしてしまってるミーナは、課金という感覚がなかなか抜けない。隙あらば貢ぐクセが身体に染み付いている。
「うん、ミーナの気持ちは分かったから…せめて、刺繍したハンカチとか令嬢らしいものにしてね?金品は絶対にダメよ。」
「やはりそうよね。一番高級なハンカチと刺繍糸を用意するわ。」
「ほどほどにするのよ…」
翌日、早速、白いハンカチと刺繍糸を手に入れた。授業でも使うため、学園内で買うことが出来るのだ。
次の休みまで時間がないため、ミーナは自室で黙々と針を動かしていた。
元々手先が器用なミーナは、休憩を取ることも忘れ、日が沈むまで作業に没頭した。
「ミーナ、そろそろ夕飯に…」
合鍵を使って入ってきたフランカが、ひょっこりとリビングに顔を出した。
夕飯に誘うためにミーナの部屋を訪れたのだが、フランカは、目の前の光景に目を疑った。
ミーナが一心不乱に針を動かしているハンカチには、布の端を縁取るように、『シストあいしている』の文字が繰り返し繰り返し縫われていた。それは、深い愛を通り越して、狂気の沙汰であった。
作業に没頭したミーナは、無意識のうちに、シストへのありったけの想いを針に乗せてしまっていたのだ。
「ミーナ、新しいハンカチを買いに行くわよ…」




