はやる気持ち
「それで、僕たちの結婚式はいつにしようか?僕は、卒業前でも構わないと思っているのだけど。」
アイーダと和解したことで嫌がらせもなくなり、穏やかな日々が戻ってくると思っていたのだが、上機嫌のシストがぶっ込んできた。
いつもの4人で昼食を取り、紅茶を片手に談笑を楽しんでいたのだが、シストの一言で場の空気が一変した。
あたかも話の続きであるかのように、笑顔で切り出したシスト。
だが、全くもってそのようなことはなく、ここにいる彼以外の全員に取って寝耳に水の話であった。
「え…私たちの結婚式…?」
シストの言葉に、ミーナは驚きを露わにした。
まだ好き避けが残っている彼女だったが、『結婚式』というあまりに魅力的な言葉に、シストの顔を真正面から捉えた。
驚いた拍子にフォークを落としてしまったが、隣にいたフランカが空中キャッチを決めていた。
う、そ…。本当に????本当に、シストは私と結婚してくれるの??
それなら、気が変わる前に結婚してしまいたい!!こんなに素敵な人絶対に逃せないわ!!彼も卒業を待たなくて良いって言ってくれているし…絶対に早い方がいいわ。
もうすぐ夏季休暇があるから、夏季休暇中とか?あ、でも、ドレスとか色々準備があるのかしら…うーん…一ヶ月くらいで何とかなるかな…?なるべく、最短で…
「ええ!よろこっ…んぐっ!」
ミーナは、レストランの店員のような威勢の良い返事をしようとしたが、フランカがフォークに刺したチーズをミーナの口に突っ込んできたため、言い終えることが出来なかった。
こらっよく考えてから返事をなさい!とフランカはミーナのことを目で叱った。
彼女は、飛び付こうと思っていたエサを目の前で取り上げられたような、そんな仔犬のようにしょんぼりとした顔をしていた。
「お前な…そう気を急ぐなよ。ミーナ嬢と二人きりで出掛けたことすらないだろ?まずはそこからだな。」
シモーネが珍しく、至極真っ当なことを言った。
良くやったわ、シモーネ!!!やれば出来るじゃない!!フランカは、心の中で、彼に拍手喝采を送っていた。
すかさず、自分もシモーネの話に乗っかる。
「ミーナ、王都に来てから碌に外に出ていないし、せっかくだから、シスト様にご案内頂いたら?」
とにかく結婚話から気をそらせようと、フランカはシストの方を見ながら言った。
彼女の目には、早く誘いなさいよという圧が込められている。
「ミーナと二人きり…デート…」
シストは口の中で呟くと、ようやくその言葉の意味を理解した。
「なんて甘美な響きなんだ…ミーナ、次の休みにデートをしよう。行き先は、僕に任せてもらえるかな?必ず君を楽しませると約束しよう。」
シストは、自信たっぷりに言い切った。
頭の中でもうすでに妄想劇が繰り広げられているのか、恍惚とした表情を浮かべている。
あ、ちょっと間違った…かも??
シストの良すぎる反応に、フランカは一抹の不安を抱いていた。
しかし、もう言ってしまったことは仕方ない。頑張ってねの気持ちを込めて、ミーナの背中をポンっと軽く叩いた。
頑張れと言われたミーナだったが、彼女は脳内パニックの真っ最中であった。
で、デートですって…!!!??
婚約者同士のデートって、どこまでするのかしら…ハグ?キス?そ、そそ、それとも…??
寮だから、外泊なら事前申請が必要なんだけど、念のため申請しておく?私の考え過ぎ??いやでも、せっかくいい雰囲気になって求められて、そこでやっぱり帰るなんて…そんなの出来ないわ…そう考えると、申請はすべきね。
あ、でも…もしそれがシストにバレて、引かれたらどうしよう!!!!
万が一にでも、そんなことになったら、恥ずかしくて死ねるわ。
ああどうしよう!!!!!!!!!!!!!
「ねぇ、フランカ、外泊の許可って、」
「ゴホッゴホッゴホッ」
いきなり耳打ちしてきたミーナの言葉に、フランカは紅茶を吹き出した。
シモーネは、いきなり吹き出したフランカに、笑いを堪えながらハンカチを差し出していた。




