勘違い
なんて美しい青い瞳…もっと見ていたい…もっと見つめられたい…って、ダメよ。このままじゃまた飲み込まれてしまうわ…後戻りが出来なくなる。
なんとかこの空気を変えないと…とりあえず、話題を変えるのよ。何か、全く関係のない話を…
「そういえば、差出人不明の荷物が届きましたのよ。不思議ですわね。」
入学2日目のミーナに大した話題があるわけもなく、咄嗟に今朝の出来事を話した。
彼女の話に、フランカはやっちまったとばかりに額に手を当て、シストは、物凄く黒いオーラを放っていた。シモーネは、彼の放つ空気にビビりまくっている。
「それ詳しく聞かせて。何が送られてきたの?」
自分以外に彼女に近づく男などいなかったはず…そう思いながらも、膨れ上がる嫉妬心を抑えることができないシスト。思わず、焦った声が出てしまった。
完全に、他の男からのプレゼントだと思い込んでいる彼の雰囲気は、ますます殺伐としたものになっていく。
この話のオチを唯一知るフランカは、もう見ていられず、ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
とりあえず、二人から目を逸らし、窓から外を眺めて紅茶を啜った。
ミルクティーのはずなのに、何も味がしなかった。
「青い薔薇でしたわ。それも3本だけ。花束にならない少なさなのに、ご丁寧に金色のリボンまで巻かれていて…あれは一体何だったのかしら…」
右頬に手を当て、首を傾げ、悩むしぐさをしたミーナ。いつもよりも幼なげに見えるその姿は、愛らしさが爆発していたが、シストはそれどころではなかった。
「あ、それ…」
さすがに言えなかった。
それは、自分が贈ったもので、『愛する君に出会えたことは奇跡』という意味を込めただなんて。そんなの、恥ずかしい以前にカッコ悪すぎる。
「それって、はははっ、絶対にお前じゃ…いったぁ!!」
シストは、腹を抱えて笑い出したシモーネの足を思い切り踏んづけて強制的に黙らせた。
感情を抑えることなく、笑い出したシモーネのことを、フランカは恨めしそうな目で見ていた。
「それはきっと入学祝いとかじゃないかな?勿体無いから、部屋に飾るといいよ。」
「ええ、そうしますわ。」
シストは、なんてこのないように、にっこりと微笑んで大嘘を吐いた。
その隣で、シモーネはまだ肩を揺らしている。必死に笑いを堪えていた。フランカは、こっちまで笑いたくなるから止めてよとシモーネの背中を叩きたい気持ちを必死に堪えていた。
シストに凍てつく目で睨まれ、彼は、ようやく静かになった。
ランチタイム後、ミーナ達は午後の授業へと向かった。
ミーナの隣にフランカ、反対側にシストが、当たり前のように並んで座っている。
女子生徒に囲まれたシストはとにかく目立っていた。
公爵令息が刺繍の授業を受けるなど誰も予想しておらず、皆困惑している。
「ええと、モンタルドさん?なぜ、貴方がこの授業に参加しているのかしら…?」
一番困惑していたのは教師だった。
公爵令息に刺繍を教えるなど、畏れ多く、公爵からもし何か言われたら…と不安しかなかった。
「先生、授業は自由選択ですよね?」
シストは、にっこりと人好きのする笑顔を向けた。
「え、ええ。そうですわね。どうぞお好きになさって!」
シストの笑顔に、教師は速攻陥落した。
早口で言うと、赤くなった顔を誤魔化すように、黒板の方を向き、さっさと授業を始めた。
シストの笑顔を横から見つめていたミーナも、ぽっと顔を赤くしていた。