ランチタイム
今日も昨日と同じように、ミーナのことを女子寮まで迎えにきたシスト。
厳密に言うと、ミーナと約束をしているわけではないため、これは単なる待ち伏せだ。
朝から花束攻撃を仕掛けたシストは、彼女の反応を楽しみに寮の前で待ち構えていた。
昨日とは打って変わり、周囲に女子生徒の姿はない。ミーナとの時間を邪魔されたくないシストが手を回したのだろう。
シストは、自分の方に向かってくるミーナを見つけ、顔を綻ばせた。
「おはよう、ミーナ。」
「おはようございます、シスト様。」
シストは、期待に満ちた笑顔で微笑みかけた。どうやら、彼女から花束について何か言われることを楽しみに待っているらしい。
だが、残念ながら、花束に対する感想は無かった。
きゃあああああああ!!!
朝からご尊顔をこんな間近で…刺激が強いわ…それにしても、美人は三日で飽きるなんて言葉があるけれど、美男子は何度見ても飽きないわ。
もうね、ずっと見ていられるの。本当は真正面からガッツリ見たいのに、、、横から盗み見しか出来ないのが悔しいわ!!
チラチラと見てくる自分のことをミーナに、シストは、『きっと、恥ずかしくて口に出せないのだろう。なんて可愛らしいんだ…』とかなり都合の良い解釈をし、一気に上機嫌になっていた。
ん?なんかすれ違ってないかしら???
いつもの通り、一歩後ろを歩くフランカは、首を傾げながら二人の後をついて行った。
この学園の授業はすべて選択式になっている。
女子生徒が貴族としてのマナーや教養を身に付ける授業を、男子生徒が領地経営や文官や神職など専門職に関する授業を選択することが多い。
ミーナとフランカも、他の女子生徒と同様、女子に人気の授業を中心に選んだ。
「ミーナは何の授業を取ったんだい?」
お昼休みに、向かいに座るシストが尋ねてきた。
今日は、彼からの提案で、フランカとシモーネの二人も交えて、食堂に来ているのだ。
楽しい学友同士のランチタイムのはずが、相変わらずシストの目にはミーナしか映っておらず、デートのような雰囲気を漂わせていた。
フランカとシモーネは別グループのように、隣で静かに紅茶を啜っている。
「女子に人気なものはひと通り…テーブルマナー、ホストの心得、刺繍の基本、花のいろは等ですわ。」
シストからの問いに、ミーナは指を折りながら必死に記憶の中を探った。
目の前に座るシストのせいで、思考が上手く働かず、半分も思い出せなかったのだ。
一生懸命指を折るミーナの姿に、シストは口元を綻ばせていた。
「運命だね。僕も同じ授業を取っているよ。」
「は…」
「え?」
「はぁ!?」
しれっと言ったシストの返答に、彼を除く全員の声が重なった。
公爵令息には絶対に必要のない授業の選択に、ミーナは理解が追いつかなかった。
フランカとシモーネの二人は、『いくらなんでも、それはやり過ぎ…』と、声には出さず、ツッコミを入れていた。
「そちらの授業に興味がありましたの?男性では珍しいですわね。」
ミーナは、心から不思議そうな顔でシストのことを見た。
「1秒でも長く君と一緒にいたくて、同じ授業を選んだんだよ。…迷惑、だったかな??」
シストは不安に青い瞳を左右に揺らしながら、伺うようにミーナのことを見てきた。
普段の彼とは違う、弱々しい姿に、ミーナの心は鷲掴みにされた。
呼吸が上手くできない。