青薔薇
「くしゅんっ…」
「大丈夫?」
「なんだか寒気がするわ…」
「それは、間違いなくシスト様のせいね…」
寮に戻ってきたミーナとフランカは、寮の食堂でお昼ご飯を食べていた。
学園の食堂よりも家庭的なメニューが多く、二人は日替わりメニューのミートローフにパンとサラダとスープを付けたセットを食べている。
相変わらず他の人の姿はなく、広々としたテーブルを二人で悠々と使っていた。
「ん?どうしてシスト様が出てくるの…?あっ…もしかして…」
何かに思い至ったような言葉を止めたミーナは、驚愕の表情で、手にしていたフォークをテーブルの上に落とした。
普通なら皆から視線浴び、顰蹙を買う行為だったが、二人しかいない今、注目を集めることはなかった。
「シスト様が私のことを考えてくださってる…?私は今、彼の愛に震えてるのかしら…嘘っ…どうしよう…やっぱり私、今からシスト様の所に行って、自分の気持ちを伝えてくるわ!彼の愛に応えないとっ!今を逃したら彼の気持ちが変わってしまうかもしれないわ!」
本気で席を立とうとするミーナに、フランカはため息を吐きながら服を引っ張り、とりあえず椅子に戻した。
「ミーナ…ちょっと落ち着きなさい…。ここが女子寮で良かったわ…。タウンハウスだったら、間違いなく、毎日家に押しかけられていたわね。」
呆れ顔で放ったフランカの言葉に、ミーナはぽっと頬を赤らめた。赤くなった頬に両手を添えている。
シストが目にしたら、卒倒してしまいそうな愛らしさだった。
「…変な想像するのやめなさい。」
「だって…」
「そこ、もじもじしないの。本当に…そこだけ切り取れば、ミーナはとてつもなく可愛いのに、顔がタイプの相手にはまるでポンコツになるんだから。そんな顔、簡単に見せたらダメよ?」
「へへへー」
「顔が緩んでるわよ…」
シストの顔を思い浮かべたミーナは、にこにこ顔でフォークを拾い、大きめに切ったミートローフを次々に口に運んで行った。
機嫌良く食事をしているミーナに、フランカは何とも言えない顔をしていた。
翌朝、ミーナは自室で困っていた。
朝イチで届けられたのだが、差出人の記載がなく、誰から届けられたものか分からなかったからだ。
そろそろ部屋を出て食堂に向かわないといけない時間だったが、答えの出ない問題に、つい時間を忘れて考え込んでしまっていた。
「ミーナ??起きてる?」
中々現れないミーナを心配したフランカが部屋を訪ねてきた。
具合が悪いのかもと心配していたフランカは、ドアを開けたミーナの顔を見てホッとした。
「フランカ…これ、差出人の名前がないんだけど、誰からだと思う…?一応御礼を言わないと…」
「いや、それって…」
ミーナが見せてきたのは、王都でも滅多に見かけない青い薔薇だった。
青い薔薇が3本束になり、金色のリボンが巻かれていた。そのリボンには、青色の小さなダイヤまで付いている。
そして、青い薔薇3本は、『愛する貴女に出会えたことは奇跡』という意味がある。
もしかして、もしかしなくとも、これは間違いなくシストからの贈り物である。
フランカは一目見た瞬間に、その意味に気がついた。
「重いわね…」
「え?これ軽いわよ?3本しか入ってないもの。花束なのに不思議よね。」
「…」
こんなにも分かりやすいプレゼント攻撃に全く勘付いていないミーナに、フランカはまたもや呆れて瞼を押さえた。
でも、事実を伝えたらまたすぐ浮き足だってしまうだろうと思ったフランカは、彼女が自ら気づくまで黙っておくことにしたのだった。