学園生活の始まり③
「ふふ、分かったよ。ミーナの好きに呼んでくれて構わない。それに、」
シストは、わざと言葉を区切ると、妖艶な笑みをミーナに向けた。
「近いうちに結婚するんだしね。それまでに僕たちの仲を深めていこう。」
「ええ、そうですわね。」
艶っぽい瞳で見つめてくるシストに対して、目眩を抑えながら、返事をしたミーナ。
この返事に意図はなく、単純に、シストの色気に当てられて言葉が出なかっただけであった。
「朝からずいぷんと仲睦まじいご様子で微笑ましいですわ。モンタルド様、ご挨拶をさせて頂いてもよろしくて?」
思考停止しているミーナを庇うように、フランカが後ろから声を掛けた。
自分のことなんてちっとも目に入っていない様子に、思わず嫌味な言い方になってしまった。
「ああ、すまなかった。君は…フランカ嬢だね。どうぞよろしく。ミーナの幼馴染だろう?君もそんなに堅苦しくしなくていいからね。」
穏やかに話しているシストだが、先ほどまでの表情とはまるで異なり、とってつけたような笑顔だった。
面白いくらいに分かりやすい。
「ご存知頂けて光栄ですわ。改めまして、フランカ・コルティと申します。ミーナとは小さい頃から仲良くしてますの。妹みたいな彼女のこと、頼みましたわよ。」
フランカは笑顔の中に威圧を込め、シストのことを真っ直ぐに見据えた。
こんなこと、高位貴族に行って良い振る舞いではない。
失礼極まりない行為だったが、シストは全く気に留めていなかった。
「もちろん。君に言われずとも、ようやく手に入れたミーナのことを僕は手放すつもりはないよ。もう放してあげられそうにない。」
口調は穏やかそのものだったが、影のある笑顔をしていた。
意外…ちょっと思っていたのと違うわ…
フランカは、最初にイメージしていた姿との違いに、困惑していた。こんなに執着していると思っていなかったからだ。
ちよっと攻略方法を間違えたかもと一瞬頭に浮かんだが、今は考えないことにした。
一方ミーナは、シストの言葉に沸騰寸前まで熱が上がっており、放熱させるために、必死に念仏を唱えていた。
念仏と言っても、仏教に精通しているわけがなく、適当に思い付いた単語を並べていただけだったが。
「さて、そろそろ入学式に向かわないといけないな。ミーナ、行くよ。」
ミーナに声を掛けたシストは、軽く腕を出してきた。
それは、会場までエスコートをするという意味だったが、直前まで念仏を唱えていたミーナは状況を正しく理解できずに、これ何、どうしたらいいの???とフランカに目で訴えた。
『早く、エスコートの腕を取るのよ!』
『腕!?腕に抱き付けばいいの??』
『ち が う !! 腕を添えるの!』
『添えるって???』
『こうやって、これをこうするの!!』
口パクで必死にやり取りした結果、結局フランカが自分の両腕を使って実演して見せて理解させることとなった。
エスコート一つでパニックになるミーナに、フランカの不安は更に増した。
そんな彼女の心労など知らず、ミーナは、見せてもらった通りに軽く腕を取り、無事にエスコートの形を取ることが出来た。
仲良く歩く(ように見える)二人の後ろを、フランカは何とも言えない気持ちで、トボトボと着いて行ったのだった。