学園生活の始まり②
傲慢な考えとは思ったけど、僕に群がるであろう女子生徒を彼女に見せたくなかった。だから、僕は女子寮まで迎えに行くことにしたんだ。
うまく避けたつもりだったのに、なぜか僕の周りには女子生徒の人だかりが出来てしまい、彼女達から逃げるように女子寮の敷地内へと足を踏み入れた。
本当は男子禁制で罰せられる事項であったが、そんなこと、僕にはどうでも良かった。
早くミーナに会いたい…
その一心だった。
幸いなことに、敷地内に入ってすぐ、僕は向こうから歩いてくる彼女を見つけることが出来た。
冗談でも比喩でもなく、彼女の周りにだけ光が差したような神々しさがあった。
そして、彼女を視界に入れた途端、やかましかった女子生徒達の黄色い声が消え去った。
目の前を歩く彼女。
それしか目に入らない。
彼女以外の全てが色を失った。
周りの音も耳に入らない。
そんな中、自分の鼓動の音だけがやけに大きく聞こえた。
早く、声を掛けなければ…
そのために来たのに、中々声が出なかった。
『緊張するな、不安がるな。震えないように、澱まないように、いつもの人好きのする話し方で話せ。』
自分の中で叱咤した。
情けないことに、そうでもしないと声が出せなかったから。
僕は、全身の力を使って、声を振り絞った。
ー どうか、いつものように話せていますように。
『おはよう、僕のミーナ。』
は… ぼ、ぼく、僕のミーナ…??
ちょっ、ちょっと待って!!!!!!!!!無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!こ、心の準備が………!!!!!顔が良くて声も素敵だなんてどういうことよ!!!い、意識が…意識が飛ぶ……
そんな素晴らしく整ったお顔で私を見ないで!!まぶし過ぎて目が痛いっ!!!でも、見たい!!え、、、どうしようどうしようどうしよう…………
とりあえず、私も好きですって言えば良い?
それとも、結婚してください??
なんなら、キス&ハグ???
ああもうどうしようっ!!私はどうしたらいい??
フランカ〜ッ!!!!
パニックに陥りながらも、なんとか意識を保ったミーナは、縋る目でフランカのことを見た。
「ミーナ、特訓を思い出すのよ!このまま飽きられてもいいの?」
フランカは、ミーナにしか聞こえないように小さな声で囁いた。
え…やだ、嫌だ。飽きられたくない。
それだけは絶対にいや。
そうだ、ちゃんと追いかけたくなる女を演じないと…
フランカの言葉で我に返り、心を決めたミーナは、バレないように小さく深呼吸をした。
『大丈夫、大丈夫。あんなにたくさん練習したんだから。さぁ、思い出すのよ。』
「おはようございます、シスト様。」
ミーナは、先ほどまでの脳内大混乱が嘘だったかのように、顔を赤らめることもなく、優雅な微笑みとともに、余裕たっぷりに挨拶を返した。
自分の言葉に、ミーナは絶対に動揺を示すと確信を持っていたシストは、彼女のあまりの反応の無さに内心驚いていた。
が、そんなことは微塵も態度には出さない。
「ミーナ、僕のことはシストと呼んで。言葉遣いも気軽なものでいいよ。僕たち、婚約者同士なんだから。ね?」
『婚約者』の言葉を強調すると、首を傾け、ミーナの顔を下から覗き込むように微笑み掛けた。
「まぁ、私達はまだ婚約中の身ですのよ。周りの方の目もありますし…あまりに馴れ馴れしいのは気が引けますわ。どうか、シスト様と呼ばせて下さいまし。」
ミーナは、有無を言わせぬ笑顔でにっこりと微笑みを返した。だが…
そんな、呼び捨てだなんて、、、
絶対に無理だからーーーーーーーー!!!
言葉にするたびに照れちゃうニヤけちゃう想像しちゃう…深い仲になった恋人同士みたいで…きゃああああ!!!やっぱり無理!!そんなの耐えられない!!私には100億年早いわっ!!!!!
内心は荒れに荒れていた。
そんなミーナに対し、フランカは、よく耐えた!と言わんばかりに、ぐっと拳を握っていたのだった。