ときには昔の話を
コロナ過も落ち着いたという事で、久方ぶりに旧友と呑み交わす機会を得る。
と言っても、私自身は基本的にお酒を呑まない
弱いとか以前に、お酒の味が嫌いというのが一番大きな理由である。
大雑把に言ってしまえば、日本酒辛い、ビール苦い、ワイン渋い。それだけだ。
と言うと、必ずと言って良い程『子供舌』みたいな事を言いながら謎の上から目線で絡んでくる輩が沸くのだが、そういった輩とは今後の付き合い方を考えるようにしている。
得てして、そういった連中程付き合う価値に乏しい人間だったりするからね。これ経験則。
あとは、『酒を呑めないなんて人生の半分は損してるぞ』なんて言ってくる昭和の遺物。
人生の半分が酒だなんて、そんな貧しい人生は送りたくないので寧ろ望むところなのだけれどさ。
大体そうやって絡んできた連中が過去に何をやってきたか知ってるかい?
わかりやすく言えば、『美〇しんぼの某副部長』ちょっと検索かければ画像がゴロゴロ出てくるので、詳細はそちらを参照されたし。
残念な事に、ああいった人種は存在します。令和になった今でもね。
この『人生の半分損してる』シリーズは、所を変え品を変え登場する言葉ではあるけれど、大抵の場合において発言者の人生の貧しさを吐露しているだけの事が多いので、発言される方は注意されたし。
『それほどまでにのめりこんでいるものがある』と好意的に解釈出来る場合もあるけれど、それに値すると思ったことは一度も無い。
まぁ、価値観は人それぞれなので、適当に流しておくのが良いと思う。下手に構うと長くなるんだ、面白くも無い話が。
閑話休題
で、現在最後にお酒を呑んだのがいつだったか記憶は定かではないが、少なくとも前の会社で茨城に住んでいた頃なので、十年近く前だと思う。
前の会社に居た時などは、私がアルコールを注文すると『何かあったのか?』と心配されるか、主催の人に『有難う』と言われる始末。
前者はともかく、後者は未だに意味不明。
そんな私ではあるけれど、仕事の都合で引っ越しする度に、近所に探しておくものがある。
それが、歯医者さん、床屋さん、クリーニング屋さん、そしてバーである。
前の三つについては言うわずもがな。必ずお世話になる事になるのでそれこそ徒歩圏内にあるのが望ましい。
余談だが、私は床屋さんで髭を剃ってもらうのが好きなので、美容室ではなく必ず理容室を探す事にしている。
さてどん尻に控えしは、誰が聞いてもお酒を呑む所だと思う『バー』である。英語で書いたら『Bar』である。
前述のとおり、基本的にお酒を呑まない自分が何故バーを探しておくかと聞かれれば、『一人静かに盃を傾けたい時が極稀にあるから』
居酒屋でも良いんだけど、そういうお店に行くと、『食べ物も頼まなきゃいけないかな?』とか、『二人席を一人で占有してるのも居心地悪いな』とか余計な事を考えてしまうんだよね。
後者に関しては、カウンター席があれば良いのだけれど、どのみち前者の問題がのしかかる。
所謂『キャバクラ』や『スナック』も悪くは無いのだけれど、キャバクラの場合は『一人静かに』の部分に抵触するし、スナックの場合はお酒の種類がね。
そんな訳で、一人で、静かに、ある程度の時間席を占有していても心苦しくならない場所として、バーを選ぶのである。
話は逸れるが、会社の後輩に誘われて『ガールズバー』なるものに行った事が幾度か有るのだけれど、正直楽しいと思った事は無かった。
たまさか行った店がそうだっただけかもしれないが、お店のお姉さんが目の前に来ての第一声が『飲み物頼んで良いですか』だったんだよね。
社会人も長くなれば、前述のキャバクラ等もお付き合いで行く事がまま有る訳だけれど、そう言ったお店の、所謂『プロ』のお姉さん達というのは、付いた男性を言葉巧みに煽て、宥め賺して楽しくお金を使わせる術を色々と心得ている。
こっちもどうせお金を使うなら楽しく使いたいよね? 綺麗なお姉さんの掌の上で転がされながら、笑って財布の紐を解きたい訳だし、それをさせるのがプロの技術と言うもんではなかろうかとおっさんは考える。
まぁね、風営法だとか接待にあたるのあたらないのと色々綱渡りしているのは解るけれど、会話も駆け引きも無く、第一声が『|飲み物頼んで良いですか《金寄越せ》』ってのは、そりゃ乞〇とやってる事かわらんよなぁと思う次第。
もっとも、前述のキャバクラやそれに類するお店であっても同様の事は経験したので、あくまで比率が高かった。というお話。
代わりに、『当り』のお店に当たった時なんかは財布の紐は無いも同然。挙句の果てにはフルーツ盛り合わせなんて物まで注文してしまう始末なんだが、花火の刺さったフルーツ盛り合わせなんてのは昭和から平成初期の遺物なんだろうかね?
話を戻そう。
さて、『そういう気分』になったので当りをつけておいたバーに向かうわけだが、初めてのバーに入る時は聊か緊張する。
もう少し若い頃は扉の前で行ったり来たりを繰り返したものであるが、ある程度心臓の毛は生えたおっさんになっても、そこは大して変わらないらしい。
勇気を出して第一歩。
重苦しい扉を開いて踏み込めば、店内は薄暗く、お店によってはジャズなんか流れているかもしれなし、スポーツ番組が流れているかもしれない。
一人静かに呑むからには、やはりカウンターの端の席が望ましいが、お店によっては常連さんの指定席のような扱いになっている場合もあるので注意が必要だ。
バーテンダーさんに案内される時にその旨を伝える。問題なければ端の席に案内してもらえるはずだ。
無事に席に着く事が出来たなら、早速一杯目を注文しよう。
私の場合、一杯目は必ずグラスホッパーを頼むことにしている。
まだ若くてお金も無かった頃に、友人連中と通っていた居酒屋は、店長さんが元バーテンダーで、カクテル系のメニューが豊富な店だった。
締めに食べる鳥雑炊がやたらと美味いその店で、車係ではない時に、店長さんから教わったのがこれである。
薄暗い照明に浮かび上がるエメラルドグリーンの色彩も美しく、ミントの爽やかさとシェイクすることにより含まれる空気で口当たりも柔らかくなり、アルコールが苦手な人にも呑みやすい逸品だと思う。
お酒全般にいえる事だけれど、『呑みやすい』=『度数が低い』ではない点には注意すべきだろう。
薦めるだけで送り狼扱いされるようになってしまったモスコミュールなどは、某漫画発の風評被害の犠牲者と言うべきだろうか。
同じようなカクテルにスクリュードライバーがあり、同じ名前を冠した小剣技が某ゲームにも登場しているが、特性に『女性特攻』を持つ技となっている。
フレーバーテキストのせいなのか、名前のせいなのか、いずれにしても製作者の機知に富んだ冗談と言うべきだろう。
※なお、そのゲームにおいて『サブミッション』は関節技 ⇒ 間接技なので、直接攻撃に対するカウンター技の対象にならない。という特性があったりするので、後者ではないかと愚考する次第。
通を気取るならジントニックも良いだろうが、これは所謂『寿司屋の玉子焼き』と同じ扱いになってしまうので注意されたし。
ま、好きで頼むのなら何の問題も無いのだけどね。
また話が逸れるが、一口に『バー』と言っても様々である。
それはお店の雰囲気であったり客層であったりだ。
常連同士が賑やかに呑む事を善しとする店もあれば、注文次第で客を一段下に見るようなお店もあるかもしれない(出会った事は無いが)
お店からしてみれば異物はこちら、『郷に入っては郷に従え』の言葉通り、お店の流儀に合わせるのが当たり前であり、お店の雰囲気が自分に合わなければ、とっとと一杯ひっかけて店を出るのが吉である。
物の本によると、ショートカクテルは三口、ロングでも十分程度で飲み終えるのが良いらしい。
これは、氷が解けて薄まるとか、まぁ色々理由は有るらしいが、識者がそう言うなら従ってみるのもまた一興。
さて、一杯ひっかけたところで冒頭の話に戻る。
旧友改め悪友と七輪で焼いた肉を突きながら話し合う事と言えば、結局は昔の話になってしまうのは仕方の無い事。
食う量が減ったとか腹が出たとか、アイツは白くなったが奴は薄くなった等々、愚痴の泉は尽きる事も無く。
お互い古い時代のオタク仲間ともなれば、やれ昔のアニメは良かっただゲームは面白かったといった話にも発展する。
秋葉原には高速〇脳やザコンが有って、高架下にはトランジスタやダイオードを単品売りしている店で溢れ、二階には落ち着いた雰囲気の喫茶店のあった、文字通り電気街だった時代。
少し後になればオタクの街として、虎の〇やメッセ〇ンオーが軒を連ね、石を投げれば〇号店に当たり、どこの雑居ビルの中にも中古の同人誌を扱う店が入っていた。
ガラスケースの中にある高額商品が自宅に有るの無いのと笑いながら話をしていたのもこの頃。
なにしろ、遡ればエロゲ買うのに5inか3.5inかを選んでいた時代からの話。新潟へスキーに行く度に、That'sの看板に頭を下げていた連中の話。
商店街の雑居ビルの中には、中古販売と称した実質PCゲームのレンタル屋さんが入っていて、毎週金曜日にはc〇py aidが発売されてレジの横にぶら下がる。
ゲー〇ラボはバ〇活という名で発売されており、コンシューマーゲームのバックアップ方法が掲載された雑誌が、一般書店に並んでいた時代である。黄金軸なんて言葉を聞いた事が有る方も居るのではないだろうか。
なお、私が2進数と16進数を覚えたのもこの頃。理由は言わずもがなであるが、今は著作権の侵害に当たると明言されているので注意されたし。
そんな風に『昔は良かった』なんて考えるあたり、自分もおっさんになったのだなと旧友との会話を振り返り自嘲しながら、二杯目を注文する事にする。
もしかしたら、バーテンダーさんの方から聞いてくれるかもしれない。
さて二杯目はどうしよう。
酒には詳しくないので、当然カクテルにも然程造詣が深い訳でも無く、若い頃に呑んだことがある物を思い出しながら注文する事にする。
若い頃はキューバ・リバーと言ったものだが、今ではクバ・リブレと言った方が通じやすいか?
ソルティ・ドッグのスノースタイルをグラスの半分だけにした物をハーフ・ムーンと言うらしいが、それにしようか。
ソルティ・ドッグの塩無しをブルドッグと言ったりするが、これは日本だけの呼称であり、海外では別のカクテルを指すんだとか。
とは言え、ここは日本なので別にブルドッグで良いよね。というお話(『グレイハウント』あるいは『テールレス・ドッグ』と言うらしい)
お酒は飲めないけどバーに連れてこられてしまった。なんて人は、サラトガクーラー、シャリーテンプル、シンデレラ辺りをどうぞ。
普通に『オレンジュース下さい』と言うよりは、バーの空気を楽しめるかもしれない。
ただし、物凄く甘いのでこちらも注意が必要。
あとは何だろう……。件の店で呑んでいたのは、ワインクーラーやテキーラサンライズ、アレキサンダー辺りだろうか。
バーに行き慣れている人から見たら『ぷっ』となるような注文かもしれないが、一人酒である。周りの目なんて気にしていても仕方がない。
そんな輩は、ベルモットの瓶を横目で眺めながらジンでも呑んでろ。
個人的な意見ではあるが、『今の私にお似合いのカクテルを』なんて注文は、映画の見過ぎだと思うので控えた方が良いと思う。
あれだね、結末を明示せずに『あとは読者の皆さんで想像して下さい』なんてほっぽり投げてる小説と一緒だね。
せめて『(酔いたいので)ガツンと強い奴を』とか、『フルーツベースであまり度数の高くない物で』みたいな、ある程度の指針は示すのが、お互いに幸せになれる注文に思う。
さて、駆け付けでもないが三杯も引っかければそれなりの時間は経過する。
三十分か一時間か、それでも非辛党としては十分な滞在時間となるだろう。
バーテンダーさんにチェックと伝えて会計を済ます。
店を一歩出ればそこは現実世界。見上げたところで首都圏の空、満天の星など望むべくもないが、夜半の月でも拝めれば幸いである。
飲み慣れないアルコールで火照った顔に夜風が心地良い。
少しだけおぼつかない足取りで家路を辿りながら、思い浮かぶのは駅で別れた友人の背中。
柄にもなく、ほんの少しだけセンチメンタルな気分になり、ハードボイルドを気取って心の中で呟く。
『ギムレットにはまだ早い』
なんてね。
押し入れに仕舞ってある5inのエロゲとかどうしようね?