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女帝陛下は孤独を抱えない

作者: 下菊みこと

クラリス・シャルロット・ブランシュ。ブランシュ帝国の女帝である。彼女は即位の際、〝結婚はしない〟と宣言した。そして、事故死した兄の残した一人息子、幼き皇太子フィリベール・レノー・ブランシュが即位するまでの間、国の為に生きると決意していた。


クラリスは執務に公務にと忙しい。そんな彼女を癒すのは可愛らしい猫達。彼女は、捨てられた猫や傷ついた猫、病気を抱える猫を集める動物愛護団体から気に入った見目の猫達を掻き集め、私室に招いた。


世話をするのは侍女の仕事で、彼女はただ可愛がり食べ物とおもちゃとだだっ広い部屋を与えるだけだったが、猫達は案外懐いた。まあ、猫の考えることなど分からないが可愛らしいからそれでいい。


そんな彼女には〝秘密の友達〟がいる。大賢者ナタナエルである。彼は世界樹に唯一認められた〝半不老不死〟で、一万年以上生きているという。世界樹が彼を手放すその日まで、彼は死ねないのだ。


そんな彼は、普段どの国にも属さない。そして、その並外れた魔力と魔術の才によって世界の均衡を保つ。彼の存在が戦争の抑止力になっているのだ。戦争なんぞ仕掛けたら、平和主義の彼の逆鱗に触れ何をされるかわからない、と。


だが、みんな考えることなど同じ。何度も各国で大賢者である彼を取り込もうとする動きがあった。だから、彼は認識阻害魔法を使い姿を眩ませていた。ただし、自分の存在が戦争の抑止力になっていることは理解していたので、災害などが起きた際に助けに行くなどたまに姿は現していたが。


そんな彼は、猫好きだった。むしろ猫にしか興味がない。平和主義なのは猫が争い事に巻き込まれるのが嫌だからだし、災害救助は猫を助けるついでと、猫を飼う人間が減って野良が増えるのを危惧してのことだ。野良は寿命が減る。あの可愛らしい生き物達にはぬくぬくと長生きして欲しい。


そんな彼は動物愛護団体で働いている。もちろん正体を隠して。そんな彼の前に現れたのがクラリスだった。


美しく聡明で、猫好きのクラリスに段々とナタナエルは惹かれていった。だから、途中で彼は彼女に正体を明かした。そして秘密の友達となったのだ。


だがナタナエルはそれで満足出来る男ではなかった。朝摘みの薔薇で作ったブーケをプレゼントしたり、手作りの猫グッズを貢いだり、果ては猫が食べられるケーキを自ら用意して点数稼ぎまでした。しかし、元々結婚しない宣言をしていたクラリスの壁は分厚い。なかなか落ちない。というか、ナタナエルのアプローチの仕方がどこか斜め上なせいでもあるが。


けれど、アプローチをして十年も経つとさすがにクラリスも絆されてくれた。頬を染め好きだと言ってくれた。しかし、天にも昇る心地で浮かれたナタナエルは次の瞬間地獄に叩き落される。


「でも私、結婚はしないわ」


あんまりである。


しかしナタナエルはそれでもクラリスの側を離れなかった。そしてさらに十年が過ぎ、漸くフィリベールが即位しクラリスは女帝の座から降りた。


急に暇になったクラリスに、ナタナエルは如何に自分が有用な男かをアピールした。自分なら猫好きだから猫との相性もいいし、自分なら絶対クラリスを退屈させない。自分ならクラリスと結婚するに相応しい地位もあるし、自分ならクラリスを幸せに出来る。なにより、誰よりもクラリスを愛している!


「でも私、結婚はしないわ」


あんまりである。


「…なら、愛人でもいい。君に触れたい。君に愛を捧ぐ権利を僕にくれ」


とうとうナタナエルが折れた。


クラリス・シャルロット・ブランシュ。ブランシュ帝国の女帝である。彼女は即位の際、〝結婚はしない〟と宣言した。そして、事故死した兄の残した一人息子、幼き皇太子フィリベール・レノー・ブランシュが即位するまでの間、国の為に生きると決意していた。そんな彼女は見事に国を守り、皇太子を無事皇帝として即位させた。


皇帝となったフィリベールは皇后と仲睦まじく、側室を設けずとも三人の優秀な皇子と五人の可愛い皇女に恵まれた。ブランシュ帝国はフィリベールとその妃、子供達によって更に発展した。


クラリスは、生涯誰とも結婚しなかった。ただ、彼女の側にはそれは容姿の整った美しい男性がいつも佇んでいた。そして、クラリスはその男性にだけ、とびきりの笑顔を向けていたらしい。

だって、自分が彼を〝おいて逝く〟ことがわかっているのに結婚なんてできないでしょう?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫っていいですよね あの自由奔放なとことか、時々甘えてくるところとか、ぷにぷにした肉球 あーほんとに猫はいいですね 私も飼うことができないかしら あ 感想言わなきゃですね 猫っていいで…
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